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11,距離(上)
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学校で耀くんに話しかけるのを許されるようになった。時間を決めて待ち合わせて一緒に登校をし、昼休みは二人で集まってお弁当を食べ、待ち合わせて下校をする。
授業中やそれ以外の時間はわからないけれど、私と一緒にいる時に耀くんが他の生徒から危害を加えられることはなかった。少しでも私は耀くんを守れているのだろうか。
「池田さんさ、最近二年の先輩と一緒にいるよね?」
その日々が続いた六月下旬のこと。帰りのホームルーム中に、前の席にいた子が振り返ってそう言った。
「あれは……」
度々話してはいるけど友達と言えるほど親しくはなくて、私と耀くんの関係について彼女は知らないのだ。どう説明すべきかと迷っていると、その子はにこりと笑って私の肩を叩いた。
「カレシでしょ!? やるじゃーん、どうやって知り合ったの?」
「耀く……穂別先輩とはそういう関係じゃないから!」
「でも一緒に学校に来たり帰ったり、あとお昼ご飯一緒に食べてるって目撃情報も聞いたよー」
違う、と首を横に振りながら、でも私と耀くんが彼氏彼女の関係として周りに見られていたのだと思うと、心の奥がぽかぽかと温かくて嬉しくなってくる。
いじめから守るという名目であって、学校でひとりぼっちでいるかもしれない耀くんを助けるものだ。だから勘違いしてはいけない。そう言い聞かせても、どうにも口端は緩んでしまう。
「前に、池田さんが先輩たちに呼び出されてたでしょ? だから心配したけど……でも楽しそうでよかった」
「う、うん……」
「何かあったら相談してね。あと、たまにでいいから私ともお昼ご飯食べよ」
中学の嫌な経験からか、友達を作るということに慣れていない。こうして話していてもいつかは裏切られるのではないかと怖くなってしまう。こうして昼食を食べようとか、グループ分け一緒にしようと提案をされても頷くけれど、どこか楽しめない自分がいた。
だから、耀くんと一緒に行動ができるのは私にとって幸せなのだ。私の中で耀くんは信頼できる人だから気を許して接することができる。
「……もー、いつになったら私と連絡先交換してくれるの。池田さんと仲良くなりたいのに」
「そ、そのうち……」
「別にいいけどさー! 遊びに行こうって話してもいつも忙しい、でしょ? 夏休みは付き合ってよね。ってか池田さんって呼び方もそろそろ――」
私に勇気があれば、この子とも仲良くできるのだろうか。でもまだ、友達を作ることは怖くて、そんな勇気はでてこない。
「こら、そこ! 静かにしなさい!」
「はーい!」
雑談もさすがに長引きすぎたのか、いよいよ先生に気づかれて注意されてしまった。その子はぺろりと舌を出して先生に謝り、教卓の方へと向き直る。
しばらく待つと、その子から破ったノートの端切れが渡された。手紙というやつだ。
『怒られちゃった、ごめんね巻きこんで。今度ゆっくり話そうよ。池田さんともっと仲良くなりたい! あと華奈ちゃんって呼んでもいい?』
綴られた小さな丸い字は女の子がたくさん詰まっているようだった。女子高生らしいやりとりなのかもしれない。どんな返事を書こうかと悩んでいると先生が私の名を呼んだ。
「池田。この後少し残ってくれ。図書委員の仕事を頼みたいんだ」
「お願い……ですか?」
「今日の図書委員当番はB組の子だったんだけど風邪で休んでてな。お前に代わってほしいんだ」
放課後は耀くんと待ち合わせをしていたので、図書委員の仕事が入ると遅れてしまう。そのことは頭にあったけれど先生の頼み事を断れなくて、結局引き受けるしかなかった。
「ごめんね、耀くん」
待ち合わせ場所についてすぐ私は耀くんに事情を話した。
「図書委員か……ま、それは仕方ないよな」
「本当にごめん! 先に帰っていても大丈夫だよ」
待ち合わせ場所は人気のない屋上近くの階段。図書委員の仕事が終わるのは二時間後なので、その間ここで待っているのは大変だ。それに耀くんがいじめられるのではないかという心配もある。自ら提案しておいて当日に断るなんて申し訳ないけれど、先に帰ってもらった方がいいのではないかと思った。
けれど、耀くんは首を横に振る。
「別にいいよ。俺も図書室で時間潰してるから。今日雨だから、どっちにせよ隠れ場所寄れないし」
「二時間あるけど、いいの? 気を遣わせてごめんね」
「適当な本でも読んでるよ。だから謝るなって」
耀くんは恥ずかしそうに頬をかいていて、その仕草につい笑ってしまう。
「なんだよ」
「ううん、何でもない」
本当は、残ってでも一緒に帰ると言ってくれたことが嬉しかった。申し訳ないと思いながらも、そうなったらいいのにと願っている自分がいたから、こうして叶うことが嬉しくてたまらない。
「ほら、行くぞ。図書室だろ」
頷いて隣を歩く。屋上近くを離れて、生徒たちの姿がまばらにある廊下へ。すれ違う人たちには私たちが彼氏彼女の関係だと思われているのだろうか。そうであったなら、少し幸せだ。もしも耀くんをいじめる上級生たちがきたって、今なら追い返してやる。そんな風に浮かれていた。
授業中やそれ以外の時間はわからないけれど、私と一緒にいる時に耀くんが他の生徒から危害を加えられることはなかった。少しでも私は耀くんを守れているのだろうか。
「池田さんさ、最近二年の先輩と一緒にいるよね?」
その日々が続いた六月下旬のこと。帰りのホームルーム中に、前の席にいた子が振り返ってそう言った。
「あれは……」
度々話してはいるけど友達と言えるほど親しくはなくて、私と耀くんの関係について彼女は知らないのだ。どう説明すべきかと迷っていると、その子はにこりと笑って私の肩を叩いた。
「カレシでしょ!? やるじゃーん、どうやって知り合ったの?」
「耀く……穂別先輩とはそういう関係じゃないから!」
「でも一緒に学校に来たり帰ったり、あとお昼ご飯一緒に食べてるって目撃情報も聞いたよー」
違う、と首を横に振りながら、でも私と耀くんが彼氏彼女の関係として周りに見られていたのだと思うと、心の奥がぽかぽかと温かくて嬉しくなってくる。
いじめから守るという名目であって、学校でひとりぼっちでいるかもしれない耀くんを助けるものだ。だから勘違いしてはいけない。そう言い聞かせても、どうにも口端は緩んでしまう。
「前に、池田さんが先輩たちに呼び出されてたでしょ? だから心配したけど……でも楽しそうでよかった」
「う、うん……」
「何かあったら相談してね。あと、たまにでいいから私ともお昼ご飯食べよ」
中学の嫌な経験からか、友達を作るということに慣れていない。こうして話していてもいつかは裏切られるのではないかと怖くなってしまう。こうして昼食を食べようとか、グループ分け一緒にしようと提案をされても頷くけれど、どこか楽しめない自分がいた。
だから、耀くんと一緒に行動ができるのは私にとって幸せなのだ。私の中で耀くんは信頼できる人だから気を許して接することができる。
「……もー、いつになったら私と連絡先交換してくれるの。池田さんと仲良くなりたいのに」
「そ、そのうち……」
「別にいいけどさー! 遊びに行こうって話してもいつも忙しい、でしょ? 夏休みは付き合ってよね。ってか池田さんって呼び方もそろそろ――」
私に勇気があれば、この子とも仲良くできるのだろうか。でもまだ、友達を作ることは怖くて、そんな勇気はでてこない。
「こら、そこ! 静かにしなさい!」
「はーい!」
雑談もさすがに長引きすぎたのか、いよいよ先生に気づかれて注意されてしまった。その子はぺろりと舌を出して先生に謝り、教卓の方へと向き直る。
しばらく待つと、その子から破ったノートの端切れが渡された。手紙というやつだ。
『怒られちゃった、ごめんね巻きこんで。今度ゆっくり話そうよ。池田さんともっと仲良くなりたい! あと華奈ちゃんって呼んでもいい?』
綴られた小さな丸い字は女の子がたくさん詰まっているようだった。女子高生らしいやりとりなのかもしれない。どんな返事を書こうかと悩んでいると先生が私の名を呼んだ。
「池田。この後少し残ってくれ。図書委員の仕事を頼みたいんだ」
「お願い……ですか?」
「今日の図書委員当番はB組の子だったんだけど風邪で休んでてな。お前に代わってほしいんだ」
放課後は耀くんと待ち合わせをしていたので、図書委員の仕事が入ると遅れてしまう。そのことは頭にあったけれど先生の頼み事を断れなくて、結局引き受けるしかなかった。
「ごめんね、耀くん」
待ち合わせ場所についてすぐ私は耀くんに事情を話した。
「図書委員か……ま、それは仕方ないよな」
「本当にごめん! 先に帰っていても大丈夫だよ」
待ち合わせ場所は人気のない屋上近くの階段。図書委員の仕事が終わるのは二時間後なので、その間ここで待っているのは大変だ。それに耀くんがいじめられるのではないかという心配もある。自ら提案しておいて当日に断るなんて申し訳ないけれど、先に帰ってもらった方がいいのではないかと思った。
けれど、耀くんは首を横に振る。
「別にいいよ。俺も図書室で時間潰してるから。今日雨だから、どっちにせよ隠れ場所寄れないし」
「二時間あるけど、いいの? 気を遣わせてごめんね」
「適当な本でも読んでるよ。だから謝るなって」
耀くんは恥ずかしそうに頬をかいていて、その仕草につい笑ってしまう。
「なんだよ」
「ううん、何でもない」
本当は、残ってでも一緒に帰ると言ってくれたことが嬉しかった。申し訳ないと思いながらも、そうなったらいいのにと願っている自分がいたから、こうして叶うことが嬉しくてたまらない。
「ほら、行くぞ。図書室だろ」
頷いて隣を歩く。屋上近くを離れて、生徒たちの姿がまばらにある廊下へ。すれ違う人たちには私たちが彼氏彼女の関係だと思われているのだろうか。そうであったなら、少し幸せだ。もしも耀くんをいじめる上級生たちがきたって、今なら追い返してやる。そんな風に浮かれていた。
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