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No.66

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無造作に放り投げられた書類を手に取り、じっくりと目を通す。そして、最後まで読み終えたクリスは目の前で寛ぐルイスに向かって一言発した。

「………これだけ?」

その不満そうな言葉に、ルイスは苛立ちを顔に表す。

「『これだけ』…って、何だよ」
「……いや、だって。折角ルイスにアベルシュタイン嬢を調べて貰ったのに、報告結果が性別、年齢、家族構成、今までの暮らしって…」

「いくら何でも情報が少な過ぎる」とルイスに言うと、ルイスは酷く疲れた声で言った。

「しょうがないだろ…。相手はアベルシュタイン家の掌中の珠だぞ?これでも、かなり無理をして調べたんだ。もしも、これ異常踏み込んで調べてたら俺の身が危なかったな」

その言葉に、クリスは満足そうに頷く。

「流石は、『王家の番犬』アベルシュタイン家。簡単に情報を握らせてはくれないか」
「………たくっ、アベルシュタイン家を敵に回す様な危険な仕事を従兄弟に頼みやがって」
「ごめんね。でも、その代わりに当分の間は見合い話が来ないように手を回してあげただろう?」
「………チッ」

クリスの言葉に、ルイスは忌々しそうに舌打ちをする。見合い話を遠ざける為に引き受けたが、割りに合わない仕事だった。

「そんな美人な顔で舌打ちなんかするものじゃ無いよ」
「俺が何をしようと、俺の勝手だろう?それに、好きでこの顔に生まれた訳じゃない」
「君は、その顔が嫌いなの?伯母上にそっくりで美人なのに」
「………だから嫌なんだよ。鏡を見る度に、あの性格の悪い母親の顔が写るんだぞ?」

げんなりとした様にルイスは話す。
王姉でありルイスの母キャロラインは、楽しい事が大好きな性格をしていた。それに加えて、王族特有の誰もが自身に従うと言う思考もあり、自分が楽しむ為に度々人を振り回すのだ。

「そんなに性格が悪いかな?むしろ、とても愉快な方じゃないかい?私はそんな風に思った事がないけど…」

(それは、お前自身が母と同じで性格が悪いからだろうよ!)

そう思ったが、賢いルイスはあえて口にしなかった。

「とにかく!これ以上調べる事は出来ない。だから、知りたいならアランに聞くか本人と親しくなれ。以上だ」

そう一気に言い切ると、残りの紅茶を飲んで立ち上がる。

「結果はアレだが、やる事はやった。クリスも、約束を守れよ」
「分かってるよ。ちゃんと伯母上に上手く伝えるよ」
「本当によろしくな」

何度もクリスに念押しをする。
この報酬の為に、必死に情報を集める為に走り回ったのだから。

頷くクリスを確認すると、ルイスは部屋を出て行ったのだった。



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