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それからの生活

僕の仕事 43

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 理歩を膝に載せてミルクをあげながら家でリモートワーク。
 理歩の世話は、僕の優先すべき仕事の一つ。
 薫さんと話し合いながら、二人で理歩の世話はこなしている。
 
「ちょっと! 理歩の顔が見えない! カメラをもっと下に向けてよ! リア充パパの顔はいらないからさ」

 西島のリクエストに応えて、パソコンのカメラの向きを理歩に向ければ、西島の「理歩~! 生き別れのお姉ちゃんだよ~!!」という風評被害も甚だしい叫びが飛んでくる。

「何ですか、それ? そんな訳ないじゃないですか」
「そんな真面目に答えなくても。まあ、だいたいそんな感じで世の中いいじゃない」

 ずいぶんいい加減な世界観だ。その調子でいけば、世界中の人間が西島の家族にならないだろうか?

「まあ、気にするな。人間六人くらいたどれば、世界中の人とつながるらしいぞ」

 小松がそう言って笑う。
 その話は知っている。
 確率の問題。計算すれば理論上そうなるのだそうだが、コミュ障を六人辿っても、そんなことにはならない気がするのだが。

 僕は今、学校は卒業して、おソノ婆ちゃんの診療所で本格的に仕事を始めている。
 その一方で、携わっていた共同研究は終わっていないから、そのまま学校で研究を続けている西島達の協力の元でリモートでの活動を中心に研究もしている。

「では、送ってくれた資料はデータ化して分析までしておきますから」
「助かる! じゃあ、今度のフィールドワークはどうする?」
「うーん。どうでしょう? 薫さんの都合を聞いて、行けそうなら参加させていただきます」
「なんだったら理歩連れてくれば?」
「それは、理歩と遊びたいだけでしょう? そんな訳にはいかないですよ。夜泣きするから、研究対象が逃げちゃいそうですし」

 僕の言葉に、西島が「残念……」とつぶやく。
 
「今から刷り込みして、私の後を付いて歩く子に育てたかったのに……」

 西島、それは鴨とかアヒルとか、鳥類の話だろう?
 『刷り込み』という現象により、鳥類は最初にみた者を親と思ってついて歩くのだ。
 その作用によって、あのカルガモの親子の行列のような物が見られるようになるのだが、果たしてそれが人間にも通じるのかどうかには疑問が残る。

 それに、理歩の場合、西島よりも強力なライバルが、僕と薫さんには居る。
 リモート会議が終われば、部屋にモドキちゃんが入ってくる。

「終わったか?」

 モドキちゃんの声を聞いて、理歩がピコピコと足をばたつかせる。

「おお、理歩は賢いの。儂を覚えたな。さすがは、儂の新たなる下僕じゃ」

 理歩が、「あ~♪♪」と、明らかに嬉しそうな声で、モドキちゃんを呼ぶ。
 どうしよう。このままいくと、理歩の初めての言葉は、パパでもママでもなく、『モドキ』になりそうだ。
 勝てる気がしない。

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