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それからの生活

決して開けてはなりませぬ 37

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 僕の目の前には、薫さんの部屋から僕の部屋に持ってきた段ボールが数個。
 運び入れる際に、薫さんからは、「絶対に開けないでね」と釘を刺された。

 中身は、薫さんの愛するティミー様の推しグッズ。
 どんな物が入っているのか、見てみたい気はするが、薫さんが僕を信頼して置いて行った物を勝手に開ける訳にはいかない。

 だが、古来、鶴の恩返しの時代から、開けるなと言われた物は、開けたくなるのが人情だ。
 じっと見ていれば、とても気にはなる。

「駄目だ。気になる!」

 気になるならば、それを忘れるために、別のことをすればいいのだが……。 
 いっそ、隣の薫さんの部屋に行って、モドキちゃんとマロン、薫さんと過ごせば、段ボールのことなんてすぐに忘れてしまえるのだろう。
 だが、今、薫さんは部屋の整理中。見られたくない物もあるから、来ないで欲しいと言われている。
 夫婦だからといって、全てをさらけ出す必要はない。
 特に、推し活グッズなんて、完全にプライベートな物は、自分以外には理解できない物が大切だったりするから、見せたくないという気持ちは分かる。
 僕だって、ラクシュの抜けたヒゲとか、初めて自分で切ったラクシュの爪とか。他の人には、ゴミ以外の何物でもない物を実は保管していたりする。当然、薫さんに、それを見せたこともそんな物があると言ったこともない。薫さんがどんな物を大切にしているのかは知らないが、人に知られたくないというのなら、それを尊重したい。

 録画した動物番組を観るとか、料理に勤しむとか、とにかく他の事をして気を紛らわせようと立ち上がった時、インターフォンが鳴る。

 玄関を開ければ、モドキちゃんが立っている。

「あれ? どうしたの?」
「つべこべうるさいから、柏木の部屋に行けと言われた」

 推しグッズを見返し「懐かし~!」「これ、ここにあったんだ♪」なんて言う薫さんに、モドキちゃんが、早くしろ急かしたのだそうだ。その結果、うるさいから、終わるまで出て行けと追い出された。

「全く、薫の奴にも困ったもんじゃ。そもそも、そんな大切な物が、どこにあるのかキッチリ管理できていないのがおかしい。そんなだから、このように物だらけになるのじゃ」

 僕の部屋に入って、モドキちゃんが、薫さんの段ボールをポンポンと叩く。

「面白いぞ? 見るか?」

 モドキちゃんが段ボールを開け始める。
 わ、待って、それ駄目じゃない??

 あわてて薫さんに電話を掛ける。

「モドキ!! あんたなんてことしてるの!!」
「薫め、儂を部屋から追い出した罰じゃ! 今からティミー様へ送ろうとして勇気が出なくて送れなったファンレターなる物を、朗読してやるから覚悟しろ!!」

 そ、そんな面白そうな物が、この箱に??
 あ、いや、でもそれは、本当に聴いちゃ駄目な気がする。
 段ボールから取り出した封筒を、ガサガサとモドキちゃんが開封する。

 バアアアアアアアン!!!!

 とんでもない勢いで、僕の部屋の玄関扉が開く。
 薫さん、妊婦さんなんだから、もっとゆっくりと行動してほしいんだけれど。

「モ、モドキ!!!」

 手紙を持ってひらりと猫タワーをのぼるモドキちゃん。

「チュール三本。これ以上は譲れんぞ、薫!!」
「くっ!」

 人質(手紙)を持って籠城するモドキちゃんは、かなり悪役な顔でニヤリと笑った。
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