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それからの生活

幸せの形 20

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 給湯室での水島とのやりとりにとんでもなくモヤモヤしながらのお昼ごはん。

 水島が積極的なのは、きっとそうせざるを得ない厳しい現状があるから。
 異性愛者がメジャーなこの世の中で、積極的に行動しなければ、意中の相手に振り向てもらえないと思っているからだろう。きっと、たぶん。
 あの、「手料理が食べられていいな」発言も、そのことが水島の意識の根底にあるから。

 もちろん、女性だからというだけで、相手に選んでもらえるわけではない。
 特に私のような女は、恋愛対象外認定されることが多かったし。今、優一さんという気の合う人を伴侶にできたことは、とても幸運なことだと思っている。

 でもなあ……。しかしなあ……。
 だからと言って、優一さんをシェアする気はないし。そんな優一さんの意志に関係ない決断なんてする気はない。

 モソモソとパンを齧っているが、味気ない。

「薫さん! 元気ないですね!!」

 幸恵はどうやら元気になったようだ。
 ダーリンとの話し合いは、うまくいったのだろう。
 おいしそうにカップ麺を食べている。

 え? カップ麺?

「あれ? どうしたの? いつも手作り弁当だったのに」
「ああ! 気づきました? ダーリンとじっくりお話したんです」
「それで、どうして、カップ麺になるの? せっかく料理を覚えたのに」

 柿崎が首をひねる。
 料理を幸恵に教えたのは、柿崎だ。
 せっかく教えたのにどうして? と思うのは、しごく自然なことだ。

「ダーリンったら、お互いに無理しない自然体でいようって言ってくれたんです」

 嬉しそうな幸恵。

「料理も、無理に頑張らなくていい。理想ばかり追い求めて、落ち着けない家庭になるのは困るって、ダーリンが言うんです。だから、子どものことも、家事のことも、優先順位を下げることにしました。それよりも、日々、互いが幸せに感じられるように努力しようってことになったんです。素敵じゃないですか? ウチのダーリン!」

 なるほど。
 『理想の家庭』という物を追い求めるから、何歳までに子どもを! 家事はきちんとしなければ! という結論になるのだから、それを追い求めることを辞めて、自分達の幸せの形という物を、肩の力を抜いて考え直そうってことなのだろう。

 いいじゃない。
 その考えは、嫌いじゃない。
 ダーリンさんの考え方には、私は、共感できる。
 だって、いくら『理想』なんだって言ったって、無理をすれば、長続きしないだろう。いつかどこかで息切れしてしまうに違いない。

 しかし、すごいな。
 あれだけ『理想』というものに固執していた幸恵を説得出来たんだ。さすがに、一度起業して社長業をしていたような人だから、その辺のプレゼン能力は高いということだろうか。

「そう考えたら、すごく最近の生活が楽で快適で!」
 
 幸せなら何よりだ。
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