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それからの生活

禁酒! 15

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 優一さんの膝の上で、モドキが不貞腐れている。
 騙し討ちとは卑怯だとか、あと少しだったのにとか、ぶつくさ言っているが、悪いのは、モドキだ。

「あんたが、勝手にカニ缶を食べようとしたのが悪いんでしょう?」

 私が、モドキのほっぺをプニプニしながら説教すれば、

「柏木! 薫がいじめる!」

 そう優一さんに訴える。卑怯者め。
 猫に甘い優一さんは、ごめんね、でも健康に悪いからね。なんて言ってモドキを撫でる。
 甘い! 甘いのだよ!!

「優一さん! モドキを甘やかさないで!」

 モドキの背中に顔をうずめて、猫吸いの真っ最中。

「ですが……モドキちゃんだって、きっと反省していますし」
「そうじゃ。そもそも、薫が厳しすぎるのが悪いのじゃ!」

 一ミリも反省しているように見えませんが?
 ちょっとこれは、良くない。
 優一さんの良い所は、その優しいところだと思う。思うのだが、このように駄目なことをした時には、ちゃんと叱らなくては駄目だと思う。

「いい? モドキ。何かあった時には遅いの。あんたなら分かるでしょ? だから、体壊さないように、カニ缶もビールもそんなに食べちゃ駄目」
「それはそうだが……。しかし、もうちょっと解禁しても良いだろう? このように儂は健康なのだから」
「駄目」
「じゃあ、薫も一緒に禁酒してみるか?」
「え、私も?」

 思わぬ飛び火。
 声が裏返る。

「そうじゃ。ああ、ペットボトルのキャップ一杯なら、許可してやってもいいぞ!」

 モドキがニヤリと笑う。
 こ、この……! 猫モドキが!! 減らず口を!

「どうして私まで! 人間はもっと飲んでもいいはずよ。あんたとは体重が違うじゃない!」

 そう。六キロ程度のモドキとは、何倍も違うのだ。

「しかし、将来、妊娠すれば、禁酒だろう? その日に備えて、酒の量は減らす方が良いに決まっている。もし今、胎に子がいれば、大変なことになるぞ?」
「あ……確かにそうですね。妊娠中のアルコールは、とてもおススメできません」

 モドキの奴、私が置いていた雑誌て勉強しやがったな。
 確か、どっかにそんな事が書いていたような気がする。
 酒好きの私には、過酷な条件。妊娠してから、授乳期が終わるまでは、酒は飲むことが出来なくなるのだ。

「ワン」

 起きてきたマロンが、私の膝に載りながらのたまわった。

「ほれ、マロンだって、『あら、いい機会じゃない。休日に酒飲んで寝落ちしているのも改善するでしょ?』なんて言っているぞ?」
「わ、薫さん。それは、体に良くないですよ。風邪ひいちゃうかもしれませんし、人間でも摂取量が多ければ、あまり健康には良くありません」

 優一さんの曇りなきまなこが、私を見る。
 こういう、完璧に善意から出た言葉には、逆らうのは難しい。
 完全にアウェー。
 完敗だ。こんちくしょう。

「わ、分かったわよ! モドキ! 私も酒の量を減らすから!」

 モドキの曇りだらけのまなこが、勝利の色に輝いていた。


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