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それからの生活

嘘つきは泥棒の始まりで、別居は何の始まりですか? 1

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 オウムのコウメが「チクショー」と叫ぶゼミ室。
 柏木優一のゼミ友の西島は上機嫌だった。
 先ほどから、一音も合っていない童謡『チューリップ』を呟いている。
 歌詞がなければ、とてもチューリップとは思えない斬新な音の配列。
 これは、音楽の先生に散々怒られた口だろう。

「また、サバゲーですか?」

 柏木(本田)優一が聞けば、西島はどや顔をする。

「当然! そして完全勝利。このありとあらゆる生物の筋肉組織と神経回路を理解した西島様に敵うヒト科がいる訳がないのだよ!」

 獣医師の知識を生かしてのサバゲ―。
 西島は、確実に相手の死角を理解し、筋肉の動きと神経回路の性質を掴んで攻撃するのだという。
 戦場では敵にしたくない人間だ。味方で良かった。
 ていうか、味方だよな? 味方で無いと困る。ちょっと自信はないけれど。

「時に、柏木・ド・本田・優一よ」
「『ド』ってなんですか。どんどん余計な称号を入れないで下さい」
「まあ、そんなに怒るなよ。サー・柏木・ド・本田・優一」

 西島のからかいに、小松ものってくる。

「いつ『サー』の称号がついたというんですか」

 とりあえず、パソコンから目を上げずに、ツッコミだけは返しておく。

「まだ薫さんとは、お隣同志の別居婚なの?」
「まあ、そうですね。お互い、生活時間帯も違いますし、それぞれの趣味なんかもありますから、その方が快適ですし。二人とも都合の良い時間に、お互いの部屋に尋ねていって一緒に過ごす形です」

 院生で研究で遅くなることも、早朝からの活動も多い柏木と、会社員で忙しい本田薫。
 結婚したといっても、いわゆる新婚さんとして世間が想像するような、朝から晩までべったりの生活なんてできない。

「ねえ、それって、付き合っている時と何が違うの? 結婚の意味とは?」
「うーん。あまりその辺は深く考えたことはないですけれども、意識的なものですかね。『家族』という物になったんだという安心感? すみません。ちょっとやっぱり分かりません」
「くわっ! クソ羨ましい!」

 小松がキーボードに突っ伏して悶えている。

「しかし、別居なんて物をずっと続けていいものか。それが、良からぬ事件の発端にならないとは限らない」

 西島が、不穏なことを言い出す。
 今度は、何を観たんだ西島。昼メロ系のドラマか何かか?

「何を観たんですか?」
「昔のサスペンス劇場を少々」

 あ~。なるほど。
 じゃあ、事件ということは、僕か薫さんが愛憎の末に殺されるんだ。

「でも、有り得ない話ではないだろう? サー・柏木・ド・本田・優一・ベルシュラック」

 もはや名前は、とんでもない事になっているが、ツッコミを入れるのも面倒だ。

「そうですか?」
「そうだぞ。西島の言う通りだ。別居は離婚の始まり、なんて言うしな」
「そんなことわざ、初耳ですが?」

 まあ……、生活のすれ違いから別居してそのまま離婚に進展なんて話は、芸能人の話題何かでたまに聞く話ではある。だが、結婚してからずっと別居の自分たちが、それに当てはまるかどうかは、分からないが。

「分かりました。とりあえず、薫さんに相談だけはしてみます」

 このまま揶揄われるのは面倒で、柏木優一は、そう返答した。
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