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無駄じゃない?76

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「結納? 当然、しっかりやりますよ!」

 超絶酸っぱい、幸恵特製唐揚げに悶絶する柿崎の横で、私は、幸恵から如何に結納が重要かご高説をうかがう。

「いいですか? 結婚ていうものは、両家がご縁で結ばれるものなんです。その証が、結納なんです」

「でも、あの人形やらするめやら、いらなくない?」

「高砂人形とアワビと鰹節とするめと……だいたい九品目くらいですね。えっと十万くらいかな?」

「十万……。ギフト券でもらいたい」

 いらない処分に困るものより、ギフト券の方が良い。それでも、なんでそんな物をもらう必要が生じるのか分からないが。

「何を言っているんですか。あれは、男性側からだけでなく、女性側からも、結納返しを贈るんです」
幸恵は、熱く語る。

 『結納返し』、そんなカウンター技みたいな名前。強そうだ。

「九品目の結納品と結納金……100万くらいですかね。それを、女性の実家に贈って、結納返しを、男性より質素にした結納品と結納返し金50万くらいを返すんです」

「うわっ……」

 面倒・無駄・意味が分からない。そんな言葉が、私の頭を駆け巡る。
 お互いに要らない物、飾るだけの物を贈り合って、なんでわざわざ返すと分かっているものを贈るのか。返すなら、最初から半額にしていればいいものを……。

「なんでそんな無駄なことを……」

 私の口から、つい本音がこぼれてしまう。

「だって、嬉しいじゃないですか。結婚ですよ? 飾っておくことで、毎日、ああ婚約したんだって実感が湧くじゃないですか。残念ながら、私は一人暮らしなので、実家に行かないと見られないのですが、それでも、実家に行った時に飾ってもらっていると、ウキウキしちゃいます」

 幸恵が楽しそうに笑う。幸せそうでなによりだ。
 なるほど……。そういう考え方もあるのか……。
 私には、サッパリ良さは分からないが、こういう幸恵みたいな考え方の人もいるから、この風習は現代まで残っているのだろう。 

「とにかく、それは薫さんの独断で決めることではないですね。一度ご実家にお伺いしてみればどうですか? 大切な娘の結婚だからぜひやりたいって、ご両親がおっしゃるかも知れませんよ?」

「やりたいって言ったらどうしよう……」

 私の両親は、私と一緒でずぼらだ。だから、たぶん大丈夫なはずなんだ。そんな面倒なことを好まないはずなんだ。はずなんだが、自信はない。

 三月の私の仕事の繁忙期が終わってから、次のゴールデンウィークに、私の親に挨拶に行こうと柏木と言っている。モドキとマロンも連れて会いに行く。

 頑張って誘導尋問にかけて、やらない方向に話を持っていこう。
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