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卵粥とシュトーレン66
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遠足の時など、楽しみにしているイベントの前に熱を出す子どもって、いるよね。
そう。それは、私。
せっかく柏木とゆっくり会えるはずの十二月。私は、約束の日の前日からずっと風邪で寝ていた。
十二月の後半は、私の仕事の都合上忙しくて時間がとれないからと、初旬で日程調整してもらったのに。プレゼントも用意していたのに。予定は吹っ飛んでしまった。
モドキがいてくれてよかった。
マロンの世話も、冷蔵庫から水を持ってくるなどのことも、全部してくれる。
一人暮らしの身に、病気の時ほど不安な時は無い。酷い時には、飲まず食わずで起き上がることもできずに、倒れていなければならなくなる。
午後に熱が下がってきて頭を起こせば、マロンに水をあげていたモドキが、
「多少は元気になったか?」
と、聞いてくる。
「うん。ありがとう。モドキがいてくれてよかった」
私は、素直にモドキにお礼を言う。
「台所に、卵粥が作ってある。食べるか?」
「え、モドキが作ってくれたの?」
まさか。料理はできないのではなかったか?
「柏木だ。自分の部屋で作って持って来てくれた。薫は寝ていたので、儂が受け取っておいた」
モドキの言葉通り、柏木が作ってくれたのだろう粥の入った土鍋が、コンロに置かれている。
「会いたかった……」
来てくれたのだったら、一目でも会って話したかった。
「我儘言うな。風邪なんだから、無理であろう?柏木に感染るのも困るし。せっかく寝ているのに、起こすのも薫の体に悪い」
モドキに正論を言われる。
その通りだ。その通りなんだけれども、せっかく時間調整して楽しみにしていたのに……。
「冷蔵庫に、栄養ドリンクやら、水やら、足り無さそうな物を足してくれている。元気なら確認しておけ」
冷蔵庫の中は、柏木が買ってくれた物でいっぱいになっている。レトルトや栄養ドリンク、栄養ゼリー、スポーツドリンク、果物……冷凍庫にはアイスも入っている。
有難い。さらに、卵粥まで作ってくれたんだ。
スマホを見れば、「ゆっくり寝て下さい。早く元気になりますように。また、会えるのを楽しみにしています」と、柏木からの言葉が届いている。
メッセージが温かい。
粥を温めていると、単身者用の冷蔵庫の上に小さな包みが一つあるのに気づく。
中は、シュトーレン。ドイツのクリスマス用のお菓子。
『少しずつ食べて下さい。僕が作りました。ささやかですが、クリスマスプレゼントです。』とメモが貼ってある。
え、これ作ったの?
真っ白な粉砂糖に包まれたお菓子。アーモンドやクルミ、クランベリーやレーズンをふんだんに入れ、シナモンを効かせたパン生地に、バターと粉砂糖をたっぷり振るって包み込むことで、一ヶ月くらい日持ちするように作ってある。一切れずつ食べて、クリスマスまで楽しむこのお菓子。
真っ白なラグビーボールの形に作るのは、赤ちゃん、つまりキリストが、おくるみに包まれた形を表現しているのだという。
……美味しそう。
卵粥を食べる。
優しい味の卵粥。シンプルな味わいに少し生姜が効いていて、ほんのり香る。病み上がりの体に、温かい食べ物は、本当に嬉しい。
「おお、そうじゃ。儂らにも、チュールをくれたんだぞ」
モドキが、犬用と猫用のチュールを見せてくる。すでに何本も減っているのは、とても気になるのだが、今は大目にみよう。
よくみれば、マロンとモドキのご飯の買い足しもしてくれている。
「有難すぎる。これ、どうやって返したらいいんだろう」
私がつぶやけば、
「返してもらおうなんて、思っていないだろ。柏木だぞ? 薫が元気になったらそれで十分だ」
とモドキが笑う。
一切れ食べたシュトーレンは、甘く、アーモンドやクルミ、クランベリー、レーズン……たくさんの幸せがつまった味がした。
そう。それは、私。
せっかく柏木とゆっくり会えるはずの十二月。私は、約束の日の前日からずっと風邪で寝ていた。
十二月の後半は、私の仕事の都合上忙しくて時間がとれないからと、初旬で日程調整してもらったのに。プレゼントも用意していたのに。予定は吹っ飛んでしまった。
モドキがいてくれてよかった。
マロンの世話も、冷蔵庫から水を持ってくるなどのことも、全部してくれる。
一人暮らしの身に、病気の時ほど不安な時は無い。酷い時には、飲まず食わずで起き上がることもできずに、倒れていなければならなくなる。
午後に熱が下がってきて頭を起こせば、マロンに水をあげていたモドキが、
「多少は元気になったか?」
と、聞いてくる。
「うん。ありがとう。モドキがいてくれてよかった」
私は、素直にモドキにお礼を言う。
「台所に、卵粥が作ってある。食べるか?」
「え、モドキが作ってくれたの?」
まさか。料理はできないのではなかったか?
「柏木だ。自分の部屋で作って持って来てくれた。薫は寝ていたので、儂が受け取っておいた」
モドキの言葉通り、柏木が作ってくれたのだろう粥の入った土鍋が、コンロに置かれている。
「会いたかった……」
来てくれたのだったら、一目でも会って話したかった。
「我儘言うな。風邪なんだから、無理であろう?柏木に感染るのも困るし。せっかく寝ているのに、起こすのも薫の体に悪い」
モドキに正論を言われる。
その通りだ。その通りなんだけれども、せっかく時間調整して楽しみにしていたのに……。
「冷蔵庫に、栄養ドリンクやら、水やら、足り無さそうな物を足してくれている。元気なら確認しておけ」
冷蔵庫の中は、柏木が買ってくれた物でいっぱいになっている。レトルトや栄養ドリンク、栄養ゼリー、スポーツドリンク、果物……冷凍庫にはアイスも入っている。
有難い。さらに、卵粥まで作ってくれたんだ。
スマホを見れば、「ゆっくり寝て下さい。早く元気になりますように。また、会えるのを楽しみにしています」と、柏木からの言葉が届いている。
メッセージが温かい。
粥を温めていると、単身者用の冷蔵庫の上に小さな包みが一つあるのに気づく。
中は、シュトーレン。ドイツのクリスマス用のお菓子。
『少しずつ食べて下さい。僕が作りました。ささやかですが、クリスマスプレゼントです。』とメモが貼ってある。
え、これ作ったの?
真っ白な粉砂糖に包まれたお菓子。アーモンドやクルミ、クランベリーやレーズンをふんだんに入れ、シナモンを効かせたパン生地に、バターと粉砂糖をたっぷり振るって包み込むことで、一ヶ月くらい日持ちするように作ってある。一切れずつ食べて、クリスマスまで楽しむこのお菓子。
真っ白なラグビーボールの形に作るのは、赤ちゃん、つまりキリストが、おくるみに包まれた形を表現しているのだという。
……美味しそう。
卵粥を食べる。
優しい味の卵粥。シンプルな味わいに少し生姜が効いていて、ほんのり香る。病み上がりの体に、温かい食べ物は、本当に嬉しい。
「おお、そうじゃ。儂らにも、チュールをくれたんだぞ」
モドキが、犬用と猫用のチュールを見せてくる。すでに何本も減っているのは、とても気になるのだが、今は大目にみよう。
よくみれば、マロンとモドキのご飯の買い足しもしてくれている。
「有難すぎる。これ、どうやって返したらいいんだろう」
私がつぶやけば、
「返してもらおうなんて、思っていないだろ。柏木だぞ? 薫が元気になったらそれで十分だ」
とモドキが笑う。
一切れ食べたシュトーレンは、甘く、アーモンドやクルミ、クランベリー、レーズン……たくさんの幸せがつまった味がした。
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