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蜘蛛の糸65

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 十二月。イルミネーションが街に輝く時期になっても、柏木たちは、研究室に籠る日々が続いていた。

 一体、この地獄には終わりがあるのだろうか??

 止まない雨は無くとも、メビウスの輪に入り込んでしまえばトンネルの出口は無くなる。

 綾瀬が、野太い声で『赤鼻のトナカイ』を呟くのが、デストピア感を醸し出す。

「クリスマスはどうするの?」

 西島が禁断の質問を繰り出す。
 誰も、その質問には、答えられない。
 ……くりすます? く・りす・ます? 新手の語呂合わせか? クラジミア•リステリア菌•マススペクトル?? と疑いたくなるくらいに、脳は国家試験に侵されている。

 ゼミ生は、就職も院試も、なんとか全員無事に希望通りのところに進めた。

 鴨川は、製薬会社に。綾瀬は、公務員に。柏木と小松と西島は、院に進む。だが、それも、獣医師の試験をクリアーし、卒論を仕上げなければ、順調に先には進めない。

 就職組の鴨川と綾瀬は、獣医師の資格がなくとも、なんとかなる部署のようだが、それでも今後の仕事に関わるだろうし、柏木、小松、西島は、獣医師の資格がなければ、研究は全く進まないだろう。

「バーバ・リア充。どうするの?」
西島が、柏木を見てそう言う。

「バーバ・リア充って誰ですか?」

 毛布を被る柏木を、西島はバーバモジャと絵本のキャラクターで呼んでいた。それに、薫という恋人がいていることから、リア充がくっついたのだと思うのだが、めちゃくちゃだ。

「分かるんだから、いいじゃない。で、どうするの?」

「そうですね……。一日くらいなら、休んで会えますかね……」

 研究は、今までの頑張りで順調に進み、目処がたってきた。
 国家試験は、二月だから、一日くらいゆっくり薫やモドキ、マロンと会ってもバチはあたらないはずだ。できれば、ラクシュの顔も見に行きたい。そしてモフりたい。

「許さない!」
西島が、間髪入れずにそう叫ぶ。

「ええ?」

「そうだ。この地獄から、一人だけ逃げようだなんて、考えが甘いぞ、カンダタ」

「蜘蛛の糸は、我々、地獄の亡者が、レーザーメスでブチ切ってやる」
綾瀬と鴨川が、西島に調子を合わせる。

「鴨川、レーザーメスだけだと狙いが定まらんだろう? 蜘蛛の糸は細い。そうだな、鉗子で挟んで固定してから」
小松が、蜘蛛の糸切断のプランを立てようとする。

「待て、その蜘蛛の糸は、縦糸か横糸かで、表面のベタツキが違う。ということは、鉗子で挟めるのか?」
綾瀬が異議を申し立てる。

「しかし、人間一人登らせようというのだ。やはりここは、縦糸ではないか?」

「待って、蜘蛛の糸の強度からしたら、一本ではなく、何本かをよって作ったのでは?」

 蜘蛛の糸をよる技術が、明治の極楽に既にあったのかどうか。蜘蛛は果たして一匹であったのか。協力した蜘蛛がいたとして、一体何匹必要なのか。
 議論は、あらぬ方向に脱線していく。

 要は、遊んでいるのだ。
結論なんてどうでもよくて、ちょっと疲れた頭をリフレッシュしたいだけ。

 リフレッシュになるのかどうかは、別として。

「ま、つまり、行くならお土産よろしくってことで」

 どういう超理論でそう行きついたのかは、全く分からなかったが、そう話のケリをつけた西島の後ろで、「チクショー」と、今日も元気に小梅が叫んでいた。

 どうやら、小梅にもお土産を要求されてそうだ。
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