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クッキー19

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 家に帰れば、灯りがついてテレビの音がする。暴れすぎ将軍の古式ゆかしいオープニングテーマが流れている。
 今までだったら、暗い静かな部屋にたどり着くだけだった生活が、モドキのお陰で、帰ってきたんだって実感が湧く。

「ただいま」
と私が言えば、

「おかえり」
とモドキが返してくれる。

 ささやかな事がすごくジンと心に沁みる。

「柏木君は? 今日はもういいの?」

「ああ。何やら学校で実験があるらしくて。儂と遊んで、その後部屋に送り届けてくれて、そのまま学校へ行ったぞ。あいつも忙しい奴だ」

 そうなんだ。夜に実験があるだなんて、獣医学生も大変だ。朝も、当番の時は驚くほど早朝に学校に行って、牛や羊の世話をすると言っていた。本当に忙しそうだ。

 私の学生時代とは、全然違う。大学時代なんて、休講を願い朝一の授業をどうサボるかを中心に講義のスケジュールを組み、単位の取りやすそうな無難なカリキュラムを選ぶことに情熱を注いでいた。
 専門家になるということは、柏木のように情熱を持って学習しないといけないということだろうか。

 台所に鍵と一緒にビニール袋に入れられた大きめの丸いクッキーが一枚。リボンをかけて置かれている。クッキーの表面には、二つほどモドキの前足の型がついている。

「モドキ、これは?」

 明らかに手作りと分かるいびつな形のクッキー。
 柏木が作ってくれたのだろうか? なんで?

「ああ。この間誕生日だったんだろう? だから、誕生日プレゼントだ。儂がこのラブリーお手々でコネコネして、まぜまぜした。アッ、猫毛は混入しないように、ちゃんとビニールを全身に被って作ったんだからな」
モドキがどや顔する。

 こ、これが、憧れの動物さんが作ったお菓子……それを、私の誕生日プレゼントに作ってくれたの???

「味は、柏木が買ってくれたクッキーミックスそのものだし、出来ない所は、柏木がやったから、儂は、コネコネして、手型を付けて、オーブンのスイッチ押した程度だがな」
モドキが、さらにどや顔する。

 酸欠になりそうで、残念ながらクッキーは、柏木用の一枚と私用の一枚しか出来なかったが、それでも頑張って作ったことを、モドキは楽しそうに話す。

 粉をぶちまけ、卵でぐちゃぐちゃになり大笑いしながら、柏木と二人で頑張ったのだと、モドキは語る。
 今日も、テレビ観て、ゲームでもやっているんだと思っていた。私のために、こんなことをしてくれているなんて、夢にも思わなかった。

 こんなの、どうやって返したらいいのか分からないくらいに、幸せ過ぎる。

 スマホを見れば、柏木から「モドキちゃん頑張ってたんです♪♪♪」という言葉と共に、モドキが全身にゴミ袋を被ってクッキー生地をコネコネしている写真、酸欠にならないように時々ビニールから顔を出して休憩している写真、綿棒で生地を広げている写真、ボールがテーブルから落下して床が一面の小麦粉にまみれている写真。そんな楽しそうな写真が数枚送られてきている。

 柏木には、感謝しかない。大丈夫かな。この小麦粉だらけの部屋。

「どうしよう……。嬉しすぎるんだけれど。泣きそう……」


食べるのがもったいな過ぎるクッキーを握りしめて、
「ありがとう」
と、心の底から絞り出すようにお礼をモドキに言った。
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