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モドキからの電話18
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昼休み、モドキから電話がかかってくる。めずらしい。
「どうしたの?」
電話に出れば、モドキが、
「柏木が部屋に遊びに来いというのだが、行っていいか?」
という。
遊びにいく許可を求められるなんて小学生くらいの男子の母になった気分だ。
あれから、モドキは柏木と連絡先を交換して、仲良くしている。
言葉を話せるから、柏木にもどのくらいの距離感で接してほしいのかを明確に伝えられるようになり、それほど強引にスリスリとされることも減ったようだ。柏木に強引な行動が減れば、モドキは柏木を嫌わない。
一緒にテレビを観て『暴れすぎ将軍』の決めセリフ『成敗』を柏木とモドキの二人で画面に合わせて叫んだり、猫じゃらしでチャンバラしたり、一緒にテレビゲームをしたり。
楽しく過ごしているようだ。まじ、小学生男子の遊び。可愛い。
柏木は学生といえども、二浪して入学した上に、獣医学部は六年生で今五年生だから二十六歳くらい。私と三つしか違わない。自分とさほど年齢の変わらない男性が、猫とチャンバラやテレビゲーム……。モドキの趣味に合わせてくれているのだろうが、面白い
さすがに、私の部屋に独身成人男性を留守中に入れるわけにはいかないから、遊びに誘われれば、私がいない時には、モドキが柏木の部屋に行き、柏木が鍵のかけられないモドキのかわりに鍵をかけてくれている。
「いいよ。鍵かけてもらってね。連絡用の電話は忘れないでね」
と私が言えば、モドキが、分かった、と言って、電話を切った。
私の電話に、柏木から、「モドキちゃん、預からせていただきますね。許可ありがとうございます」と丁寧にメールが入っている。私からも、「よろしくお願いいたします」と返信しておく。こういう連絡をこまめにしてくれるところが、柏木が信頼できるところだと思う。きっと将来は、顧客に信頼される良い獣医になることだろう。
どんどんモドキに生活が侵食されている気がする。
モドキの声を聞いただけで、こんなに心が軽くなる。もし、モドキに何かあっていなくなったら、耐えられるのか不安になる。
「いいよな。新しい彼氏」
隣で弁当を食べながら会話を聞いていた柿崎が、私をうらやむ。柿崎に、モドキが実は、会話が出来る猫なのだとは言っていない。会社の人間にモドキの話をすれば、正樹に彼氏の話は嘘だとバレる可能性があるのはもちろんだが、それ以外にも、モドキの話は、出来るだけ隠しておいた方が良いというのが、柏木の提案だったから。
信頼できる人でも、その人の知り合いまで信頼できるかは分からない。だから、できるだけ隠しておいた方が無難だと柏木は言う。
だから、柿崎は、モドキを私の新しい彼氏だと思っている。
「私も恋愛したい。まじ、誰か紹介して」
「……誰か……。コミュ障の私に言われても困る」
誰かなんて、そんなの知っている訳がない。そんな器用な女なら、七年のクズ男体験はしないだろうし、すでに新しい本物の彼氏もできているだろう。
「道端に落ちているのを私も狙うか」
柿崎の言葉に、
「いいぞ、道。いろんなものが落ちている。電柱の影がねらい目だ。そこに意外と幸せが落ちている」
と私は返す。
「落ちているの、ほとんどがゴミじゃん」
柿崎が笑っていた。
「どうしたの?」
電話に出れば、モドキが、
「柏木が部屋に遊びに来いというのだが、行っていいか?」
という。
遊びにいく許可を求められるなんて小学生くらいの男子の母になった気分だ。
あれから、モドキは柏木と連絡先を交換して、仲良くしている。
言葉を話せるから、柏木にもどのくらいの距離感で接してほしいのかを明確に伝えられるようになり、それほど強引にスリスリとされることも減ったようだ。柏木に強引な行動が減れば、モドキは柏木を嫌わない。
一緒にテレビを観て『暴れすぎ将軍』の決めセリフ『成敗』を柏木とモドキの二人で画面に合わせて叫んだり、猫じゃらしでチャンバラしたり、一緒にテレビゲームをしたり。
楽しく過ごしているようだ。まじ、小学生男子の遊び。可愛い。
柏木は学生といえども、二浪して入学した上に、獣医学部は六年生で今五年生だから二十六歳くらい。私と三つしか違わない。自分とさほど年齢の変わらない男性が、猫とチャンバラやテレビゲーム……。モドキの趣味に合わせてくれているのだろうが、面白い
さすがに、私の部屋に独身成人男性を留守中に入れるわけにはいかないから、遊びに誘われれば、私がいない時には、モドキが柏木の部屋に行き、柏木が鍵のかけられないモドキのかわりに鍵をかけてくれている。
「いいよ。鍵かけてもらってね。連絡用の電話は忘れないでね」
と私が言えば、モドキが、分かった、と言って、電話を切った。
私の電話に、柏木から、「モドキちゃん、預からせていただきますね。許可ありがとうございます」と丁寧にメールが入っている。私からも、「よろしくお願いいたします」と返信しておく。こういう連絡をこまめにしてくれるところが、柏木が信頼できるところだと思う。きっと将来は、顧客に信頼される良い獣医になることだろう。
どんどんモドキに生活が侵食されている気がする。
モドキの声を聞いただけで、こんなに心が軽くなる。もし、モドキに何かあっていなくなったら、耐えられるのか不安になる。
「いいよな。新しい彼氏」
隣で弁当を食べながら会話を聞いていた柿崎が、私をうらやむ。柿崎に、モドキが実は、会話が出来る猫なのだとは言っていない。会社の人間にモドキの話をすれば、正樹に彼氏の話は嘘だとバレる可能性があるのはもちろんだが、それ以外にも、モドキの話は、出来るだけ隠しておいた方が良いというのが、柏木の提案だったから。
信頼できる人でも、その人の知り合いまで信頼できるかは分からない。だから、できるだけ隠しておいた方が無難だと柏木は言う。
だから、柿崎は、モドキを私の新しい彼氏だと思っている。
「私も恋愛したい。まじ、誰か紹介して」
「……誰か……。コミュ障の私に言われても困る」
誰かなんて、そんなの知っている訳がない。そんな器用な女なら、七年のクズ男体験はしないだろうし、すでに新しい本物の彼氏もできているだろう。
「道端に落ちているのを私も狙うか」
柿崎の言葉に、
「いいぞ、道。いろんなものが落ちている。電柱の影がねらい目だ。そこに意外と幸せが落ちている」
と私は返す。
「落ちているの、ほとんどがゴミじゃん」
柿崎が笑っていた。
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