【完】死にたがりの少年は、拾われて初めて愛される幸せを知る。

唯月漣

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第二章 夏目と雪平編

15)雪平の意図。(夏目視点)

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「ああ。あと、始める前に、上だけ脱いでくれる?」


 雪平さんは俺の上から下りるとそう言って、部屋の奥に置いてあったチェストの引き出しから、何故か猫じゃらしを取り出した。
 猫用玩具として広く売られているそれは、棒の先端にピンク色の人工的な羽毛が付けられたデザインのものだ。
 俺は腹筋を使って半身を僅かに起こすと、普段雪平さんの家でパジャマとして使っているシャツを、彼に言われたとおりに脱ぐ。
 雪平さんが床に脱ぎ捨てたシャツの上に重ねるようにはらりと落とすと、再びベッドに身を沈めて、雪平さんに言われたとおりに両手を頭の下で軽く組んだ。
 素直に従う俺の様子を確かめながら、雪平さんはくるりと俺を振り返る。


「ねーえ、夏目。知ってる? 店長がね。最近、猫を飼い始めたんだよ」
「猫を?」
「うん。それは可愛らしい、オス猫を」


 雪平さんは妙に艶めいた表情でそんな世間話をしながら、猫じゃらしを持って再びベッドに上った。

 それがどうしたのだろう……? 俺は脳内にはてなマークを沢山浮かべながらも、雪平さんに言われた通りにベッドの上で動かぬようじっとしていた。


「本当はコレ、店長にプレゼントする予定だったんだけど……」


 そう言って、雪平さんは猫じゃらしのパッケージを目の前で開封し、間接照明の中に浮かび上がる俺の胸板の上に置いた。


「やっぱりこれは、夏目にプレゼントすることにするね」
「え? あ、ありがとうございます……?」


 俺の家族は犬派が多く、特に猫を飼う予定はない。そんな俺に猫じゃらしをプレゼント……?

 俺は益々雪平さんの意図がわからないまま、条件反射でお礼の言葉を口にした。

 雪平さんはベッドサイドに立って、俺の胸の上の猫じゃらしを手に取る。チラリと俺に視線を送ったのち、先端についた羽でおもむろに俺のむき出しの腹をくすぐった。


「……っひぁ!?」


 突然のくすぐったさに、俺は小さく声を漏らした。雪平さんは構わずに、ベッドサイドでしゃがみこんで、猫じゃらしで俺の腹をくすぐっている。俺は腹を捩りながら、雪平さんの方を見た。


「なっ、ちょ、雪平さん……くすぐったいっス!」
「"雪平さん"? 二人っきりの時は何て呼ぶのか、教えたよね……?」
「あ……怜さんっ……! うぁっ! ひぅ……っ!」


 雪平さんは先端の羽毛を使い、俺のへそのくぼみを撫でた。硬い筋肉に覆われた腹部に蛇行しながら羽根を滑らされると、背筋にゾクリとくすぐったさとは違う甘いしびれが僅かに走った。


「やっ、怜さんっ。俺、くすぐったがりで………ひぁっ!」
「ふふ。そんなの、知っててやってるに決まってる」


 雪平さんはそう答えて、楽しそうに薄く微笑む。
 ようやく雪平さんの言う『お仕置き』の意図を理解した俺は、サーッと血の気が引いた。

 う、動いちゃ駄目って、そういう…………?
 
 羽根が皮膚の薄い部分を滑るたび、俺は逃げそうになる腰を叱咤して耐える。そんな俺をからかうように、雪平さんは羽根を滑らせて執拗に俺をくすぐった。
 脇の下を何度も掠めるように、絶妙な羽根さばきで俺の皮膚を撫でる。

 俺はくすぐったさのあまり、雪平さんの持つ羽根を押さえつけてしまいそうになる右手を、左手で必死に押さえつけてただただ身を捩って耐えた。そんな俺を見る雪平さんは無邪気な笑顔で、とても楽しそうだ。


「ひっ! あははっ、れっ、怜さんっ! も、そろそろっ、勘弁……っ、ひぅっ……!?」


 俺がギブアップの意味を込めてそう言いかけた途端、羽毛の先端が俺の胸元を掠めた。狙われた一点を小刻みに往復するそれは、くすぐったさの中に再び僅かな官能を含む。


「んんっ……れ、怜さん……そこは……っ!」
「そこは……なに? 気持ちいい? それともくすぐったい?」


 怜さんはそう問いながら、相変わらず悪戯な笑みを浮かべている。
 薄い唇を開いてぺろりと僅かに唇を舐めると、今度は反対側の一点を狙って小刻みに毛先を揺らした。


「あっ……! ちょっ……んんっ」


 雪平さんがそこを羽根の先で執拗にくすぐると、普段は小さく目立たない俺のその部分はぷっくりと立ち上がり、つんと固く尖る。
 男でもそこにそういった反応が起こることを、俺が雪平さんに教わったのはごく最近のことだ。
 けれど、いつもクールな雪平さんの前でそんな姿を見せる事に、俺はまだ到底慣れることはできない。俺は羞恥心に思わず顔を背けた。


「……ね、修一。今、どんな気分? 僕の目を見て答えて」


 雪平さんはそう言って羽根を置き、俺の胸の尖りを指先でキュッと摘む。いつもはピアノの鍵盤を弾いている雪平さんの細くしなやかな指先が、今は俺の左胸の尖った部分をくにくにと揉んでいる。
 雪平さんは、恥ずかしさに俺が目を逸らすことすら許してくれないらしい。


「あう……っ、わっ、わっかんないっスよぉ……」


 俺が熱っぽい吐息とともにそう言葉を吐き出すと、雪平さんは少しだけ目を細める。


「じゃあ、こっちは?」


 そう言って、雪平さんは反対の胸元に唇を寄せた。薄い唇を割ってピンク色の舌を出すと、俺に見せつけるように舌先で飾りの先端をチロチロと舐めた。
 最近覚えたばかりのその快楽が、ゾクゾクと俺の背筋を蝕んでいく。
 

「ぁ……きっ、……も、ち……ぃ……っス……」


 俺は蚊の鳴くような声で、なんとかその問いに答えた。大好きな美しい顔が、ピンク色の舌で俺の胸を舐めている……。そう思うと堪らなかった。
 雪平さんの唇の下、胸板一枚を隔てた体の内側で、心臓が張り裂けそうに高鳴っている。


「ふふ、気持ちいいんだ? 正直に言えられて、いい子だね」


 雪平さんは小さな子供に言うようにそう言って、更に小さく凝り固まるそれを唇で弄んだ。俺は恥ずかしさに目を瞑る。


「怜さ……んっ……」


 俺が呟くように雪平さんの名前を呼ぶと、雪平さんは胸元から離れて俺の頬にキスを落とした。
 そこは昼間稚早さんが俺にキスマークをつけた場所であり、雪平さんはまるでマーキングをし直すかのようにその場所に長いキスをして、舌先でぺろりと頬を舐めた。


「ねぇ。修一が好きなのは誰?」
「え……あ、れっ、怜さんです……!」
「そう……」

 俺は薄く目を開けて、言われた通りに雪平さんの目を見てそう答えた。
 雪平さんは、ご褒美と言わんばかりに俺に唇を重ねて、優しく舌で俺の口腔内を舐め回す。キスに応えるように俺がその舌に己のそれを絡めようとすると、雪平さんはするりと躱して唇を離してしまった。


「あっ…………」


 離れていく雪平さんの唇を目で追いながら、俺は僅かに寂しい気持ちになった。
 今夜は既にハグを二度躱され、今度は舌を躱されている。


「なぁに…………?」


 思わず物欲しそうな顔で雪平さんの唇を眺めてしまった俺に、雪平さんはわざとそう聞いてくる。雪平さんの意外にサディスティックな一面に、俺は少しだけ戸惑っていた。
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