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第二章 夏目と雪平編
14)違和感。(夏目視点)
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俺は小さな違和感を感じながら、リビングにいる雪平さんを追いかけた。雪平さんは風呂上がりだったらしく、ふわふわとシャンプーの香りを漂わせていた。
「お腹空いてますか? 俺、良かったらまた、夕飯作るっス! 和食と洋食と中華、どっちにしますか?」
荷物を置いてキッチンで手を洗っていると、雪平さんが俺の背後を通って冷蔵庫を開けた。
「どちらでもいいけど、食材があまりないよ」
雪平さんはそう言いながら、今度は冷凍庫を開けてロックアイスを取り出した。
続いてキッチンの棚にあったウォッカ、それと見慣れぬ何かの瓶を取り出す。雪平さんはロックアイスと共にそれら二種類の酒をグラスに注いで、マドラーで軽くかき混ぜた。
「あ、お酒を作る感じっスか? なら、何かつまみになる物を作りますね」
俺は笑顔でそう言いながら、冷蔵庫の中身を覗き込んだ。
雪平さんは職業柄、酒を飲む事は珍しくない。だが、ウォッカは俺でも知っているぐらい強い酒だ。さすがにそんな事は初めてで、俺は雪平さんの何かがいつもと違う事を益々感じていた。
俺は冷蔵庫から出した厚揚げにチーズをかけて、トースターで軽く焼いた。最後に刻んだキムチをトッピングして、ソファに座る雪平さんのもとへ運ぶ。
「雪平さん、つまみ出来たっスよ」
そう言って俺が目の前のローテーブルに料理を置くと、雪平さんは立ち上がって、部屋の照明を間接照明に切り替えた。
恐らく調理中は俺の手元が暗いと危ないので、明るくしてくれていたのだろう。
不意に、カラン……と氷が溶けて崩れる音が室内に響いた。
振り返った雪平さんは珍しく酔っているのか、僅かにトロンとした目をしていた。目が合うと、長いまつ毛に縁取られた茶色の瞳に、俺のシルエットが映り込んでいるのが見える。
俺の心臓が、ゆっくりと鼓動を早めた。
「ゆっ、雪平さんっ…………!」
俺は先程しそこなったハグをしようと、雪平さんに近付いた。けれども俺の腕はするりと躱されてしまい、代わりに雪平さんに顎を掴まれた。
雪平さんは片手を伸ばして飲みかけのカクテルを掴むと、それを軽く口に含む。その口をそのまま俺のそれに付けて、口移しで俺に酒を飲ませた。
「んんん……っ!!?」
口の中に、強いアルコールの味と独特のハーブの香りが広がる。むせそうになるのを何とか堪えて、俺は雪平さんの胸を押して唇を離した。
「ケホッ、ケホ……っ」
雪平さんの唇が離れるやいなや、俺は軽くむせ込んで袖口で口元を押さえた。
雪平さんの行動の意図が分からず、俺は雪平さんを振り返る。
「雪平さん。もしかして、何か怒ってます……?」
心当たりはないが、もはやそうとしか思えない。
俺が恐る恐るそう問うと、雪平さんは指で自分の頬を指差すような仕草をしてみせた。
「!?」
俺は慌てて洗面所に走ると、鏡の中の自分を覗き込んだ。
ーーーー鏡の中の自分の頬に、拭い残したピンク色の口紅が薄く残っている。
その事に気が付いた瞬間、俺は雪平さんの元へ、スライディング土下座をしに戻ったのだった。
◇◆◇◆◇◆
「どーせ夏目の事だから、そんな事だろうとは思っていたけどね。稚早さん、誰にでもああだから」
その後事情を説明してシャワーに入り、頬のキスマークをしっかりと洗い流した俺に、雪平さんはそう言ってため息をついた。
「ホント、すんません。けど、本当に今日はただ、人助けをしてきただけなんスよ……」
「そこはまぁ、信じるけど」
雪平さんはそう言いつつ、少し不機嫌そうな顔で二杯目のカクテルを飲んでいる。
「雪平さん、それウォッカですよね?」
「これは、ウォッカアイスバーグ。ペルノっていう、ハーブのお酒とウォッカを混ぜたもの。夏目も飲む?」
雪平さんはそう言いながら、分かりきった事を俺に聞いた。俺はふるふると首を横に振って、そっと両腕を左右に広げた。
「あのっ。ハグ……してもいいですか?」
今日、二度拒まれたハグ。さすがに俺は少し弱気になって、恐る恐るそう聞いた。
「……どうしよっかな」
「……っ!」
雪平さんは、わざとそんな意地悪を言って、俺に色っぽい流し目を寄越す。
「誰にでも優しいのは夏目のいいところだけれど、流石にキスマークを付けて帰ってくるのは……ね。今夜はお仕置きが必要かな」
雪平さんはそう言って、妖艶に微笑んだ。
「お、お仕置きっスか……?」
「そう、お仕置き」
「うう……。それで雪平さんの気が済むのなら……」
妖艶な雪平さんの笑顔にクラクラしながら、俺はコクリと頷いたのだった。
◇◆◇◆◇◆
「手を頭の下に入れて、僕がいいよって言うまで絶対に動いちゃ駄目。僕の質問には、僕の目を見て正直に答えること。……守れる?」
そう言いながら、雪平さんは馬乗りになって俺をベッドに押し倒した。
「……そんなのがお仕置きなんですか?」
俺はそう答えて、小首を傾げた。
「そうだよ。もし守れなかったら、……そうだな」
そう言って、雪平さんは珍しくサディスティックな笑顔を浮かべた。ベッドから起き上がって俺を見下ろすと、俺の下腹に軽く指を置く。
「守れなかったら、夏目のお尻のバージンを貰おうかな」
「いっ……!?」
雪平さんはそう言うと、長い髪をヘアゴムでアップに括りあげた。
白く美しいうなじが、間接照明の下に艶かしく映えた。雪平さんが着ていたシャツを床に脱ぎ捨てると、後れ毛をこぼす細く白い肩があらわになった。
雪平さんの色素の薄い胸元にピンク色の胸の飾りが見えて、俺はドキリと心臓を高鳴らせた。
「……嫌? ……だったら、いい子にできるよね?」
上半身裸の雪平さんが、ゆっくりと俺の胸元を布越しに撫でながら、クスリと笑った。
「う……。はい」
俺は雪平さんに言われたとおり、真っ直ぐに彼の目を見てそう答えた。
「お腹空いてますか? 俺、良かったらまた、夕飯作るっス! 和食と洋食と中華、どっちにしますか?」
荷物を置いてキッチンで手を洗っていると、雪平さんが俺の背後を通って冷蔵庫を開けた。
「どちらでもいいけど、食材があまりないよ」
雪平さんはそう言いながら、今度は冷凍庫を開けてロックアイスを取り出した。
続いてキッチンの棚にあったウォッカ、それと見慣れぬ何かの瓶を取り出す。雪平さんはロックアイスと共にそれら二種類の酒をグラスに注いで、マドラーで軽くかき混ぜた。
「あ、お酒を作る感じっスか? なら、何かつまみになる物を作りますね」
俺は笑顔でそう言いながら、冷蔵庫の中身を覗き込んだ。
雪平さんは職業柄、酒を飲む事は珍しくない。だが、ウォッカは俺でも知っているぐらい強い酒だ。さすがにそんな事は初めてで、俺は雪平さんの何かがいつもと違う事を益々感じていた。
俺は冷蔵庫から出した厚揚げにチーズをかけて、トースターで軽く焼いた。最後に刻んだキムチをトッピングして、ソファに座る雪平さんのもとへ運ぶ。
「雪平さん、つまみ出来たっスよ」
そう言って俺が目の前のローテーブルに料理を置くと、雪平さんは立ち上がって、部屋の照明を間接照明に切り替えた。
恐らく調理中は俺の手元が暗いと危ないので、明るくしてくれていたのだろう。
不意に、カラン……と氷が溶けて崩れる音が室内に響いた。
振り返った雪平さんは珍しく酔っているのか、僅かにトロンとした目をしていた。目が合うと、長いまつ毛に縁取られた茶色の瞳に、俺のシルエットが映り込んでいるのが見える。
俺の心臓が、ゆっくりと鼓動を早めた。
「ゆっ、雪平さんっ…………!」
俺は先程しそこなったハグをしようと、雪平さんに近付いた。けれども俺の腕はするりと躱されてしまい、代わりに雪平さんに顎を掴まれた。
雪平さんは片手を伸ばして飲みかけのカクテルを掴むと、それを軽く口に含む。その口をそのまま俺のそれに付けて、口移しで俺に酒を飲ませた。
「んんん……っ!!?」
口の中に、強いアルコールの味と独特のハーブの香りが広がる。むせそうになるのを何とか堪えて、俺は雪平さんの胸を押して唇を離した。
「ケホッ、ケホ……っ」
雪平さんの唇が離れるやいなや、俺は軽くむせ込んで袖口で口元を押さえた。
雪平さんの行動の意図が分からず、俺は雪平さんを振り返る。
「雪平さん。もしかして、何か怒ってます……?」
心当たりはないが、もはやそうとしか思えない。
俺が恐る恐るそう問うと、雪平さんは指で自分の頬を指差すような仕草をしてみせた。
「!?」
俺は慌てて洗面所に走ると、鏡の中の自分を覗き込んだ。
ーーーー鏡の中の自分の頬に、拭い残したピンク色の口紅が薄く残っている。
その事に気が付いた瞬間、俺は雪平さんの元へ、スライディング土下座をしに戻ったのだった。
◇◆◇◆◇◆
「どーせ夏目の事だから、そんな事だろうとは思っていたけどね。稚早さん、誰にでもああだから」
その後事情を説明してシャワーに入り、頬のキスマークをしっかりと洗い流した俺に、雪平さんはそう言ってため息をついた。
「ホント、すんません。けど、本当に今日はただ、人助けをしてきただけなんスよ……」
「そこはまぁ、信じるけど」
雪平さんはそう言いつつ、少し不機嫌そうな顔で二杯目のカクテルを飲んでいる。
「雪平さん、それウォッカですよね?」
「これは、ウォッカアイスバーグ。ペルノっていう、ハーブのお酒とウォッカを混ぜたもの。夏目も飲む?」
雪平さんはそう言いながら、分かりきった事を俺に聞いた。俺はふるふると首を横に振って、そっと両腕を左右に広げた。
「あのっ。ハグ……してもいいですか?」
今日、二度拒まれたハグ。さすがに俺は少し弱気になって、恐る恐るそう聞いた。
「……どうしよっかな」
「……っ!」
雪平さんは、わざとそんな意地悪を言って、俺に色っぽい流し目を寄越す。
「誰にでも優しいのは夏目のいいところだけれど、流石にキスマークを付けて帰ってくるのは……ね。今夜はお仕置きが必要かな」
雪平さんはそう言って、妖艶に微笑んだ。
「お、お仕置きっスか……?」
「そう、お仕置き」
「うう……。それで雪平さんの気が済むのなら……」
妖艶な雪平さんの笑顔にクラクラしながら、俺はコクリと頷いたのだった。
◇◆◇◆◇◆
「手を頭の下に入れて、僕がいいよって言うまで絶対に動いちゃ駄目。僕の質問には、僕の目を見て正直に答えること。……守れる?」
そう言いながら、雪平さんは馬乗りになって俺をベッドに押し倒した。
「……そんなのがお仕置きなんですか?」
俺はそう答えて、小首を傾げた。
「そうだよ。もし守れなかったら、……そうだな」
そう言って、雪平さんは珍しくサディスティックな笑顔を浮かべた。ベッドから起き上がって俺を見下ろすと、俺の下腹に軽く指を置く。
「守れなかったら、夏目のお尻のバージンを貰おうかな」
「いっ……!?」
雪平さんはそう言うと、長い髪をヘアゴムでアップに括りあげた。
白く美しいうなじが、間接照明の下に艶かしく映えた。雪平さんが着ていたシャツを床に脱ぎ捨てると、後れ毛をこぼす細く白い肩があらわになった。
雪平さんの色素の薄い胸元にピンク色の胸の飾りが見えて、俺はドキリと心臓を高鳴らせた。
「……嫌? ……だったら、いい子にできるよね?」
上半身裸の雪平さんが、ゆっくりと俺の胸元を布越しに撫でながら、クスリと笑った。
「う……。はい」
俺は雪平さんに言われたとおり、真っ直ぐに彼の目を見てそう答えた。
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