【完】死にたがりの少年は、拾われて初めて愛される幸せを知る。

唯月漣

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第二章 夏目と雪平編

9)狼はどっちだ!?*(雪平視点)

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 僕に手を引かれるままベッドに座った夏目は、僅かに緊張を滲ませた表情で僕を見ている。僕はゆっくりと夏目を押し倒し、その上に覆い被さった。

 乾かしたてのサラサラの黒髪が、夏目の胸の上に落ちる。僕は夏目の手を取って、再び拳の擦り傷を舐めた。
 すると、夏目が躊躇いがちに僕の髪に触れて、そのまま指を滑らせて僕の頬をそっと撫でた。夏目の視線は相変わらず僕の顔に注がれていて、うっとりと僕を見つめるその表情は、もはや恋する少年だ。


「夏目。僕の事が好き?」


 僕は夏目の耳元に顔を沈めてそう囁く。


「……好きっス。本当は、初めて会った日に完全に一目惚れしてたっス。まぁ……女性だと勘違いはしていましたけど……」


 夏目は少しだけ気まずそうにそう言った。


「じゃあ、僕が男だって分かってがっかりした?」
「びっくりはしたっスけど、がっかりはしてないっス。でも、ちょっと戸惑った気持ちは……正直少しだけありました。だけど、ハルさんと真冬の幸せそうなとこ見てたら、そういうの気にするのってバカ臭いなぁって、最近は思うっス」


 夏目はそう言って、僕の背に腕を回して抱きしめた。
 

「俺は雪平さんが好きです。だから、ご褒美じゃない雪平さんを抱きたい。雪平さんが真冬を好きなのは分かってます。けど、俺じゃあ……駄目っスか……?」


 ここまで来て、まだそんな事を宣う真面目な夏目。熱っぽい眼差しでそんな事を言われたら、駄目だなんて言えるはずもないのに。


「夏目って、下の名前は何ていうの?」
「……へ?」


 僕の唐突な問いに、夏目は戸惑いながら答えた。


「夏目修一しゅういちっスけど……」
「じゃあ、修一。一度しか言わないから、良ーくお聞き」


 僕は顔を上げて、夏目の顔面から僅か数センチの距離から、わざと小さな子供に言い聞かせるような口調で言った。


「僕は、もうとっくに夏目……修一が好きだよ」
「!!! な、な……」


 夏目は驚いた表情で何かを言おうとしたが、何となく察しがつく。僕は敢えてその言葉を唇で封じた。喜びにわなわなと震えている様子の夏目を見て、僕はクスクスと笑う。


「あーあ。もう少し我慢比べをしようかと思ってたんだけどな。こんなに素直で可愛い夏目と駆け引きをしようなんて、僕の方がツメが甘かった」
「が、我慢比べっスか……?」
「そう。沢山誘惑して、どっちが先に狼になるか」
「……!!」


 夏目は赤い顔をして、ゴクリと唾を飲み込んだ。


「それってつまり……」
「うん。……先に我慢できなくなったのは、僕の方みたい」


 僕はそう言って体を起こし、着ていたTシャツを脱ぎ捨てた。下着一枚になった体に、夏目の熱い視線を感じる。
 鞭のせいで内出血だらけになってしまった僕の体を、夏目は少しだけ切ない表情でそっと撫でた。


「夏目も脱いで……?」


 僕がそうねだると、夏目もベッドから起き上がる。先程僕が貸したTシャツとジャージをするりと脱ぐと、目の前には鍛え抜かれた美しい腹直筋が現れた。


「綺麗……」


 僕は思わずそう感嘆の声を漏らして、夏目の見事なまでのシックスパックを指先で撫でた。


「雪平さんの方が綺麗っス……」
「こんなに傷だらけにしてしまったのに?」


 夏目のあまりの心酔ぶりに、僕は笑う。


「雪平さんは、どんな風になっても美しいっス……!」


 夏目は再び僕を抱きしめると、今度は夏目が僕をベッドに押し倒した。僕は夏目にされるがままにベッドに倒れ込む。唇に長いキスをされて、それから頬や額に触れるようなキスされた。


「ねぇ、夏目?」
「はい?」


 ちょうど鼻先に唇を付けようとしている夏目に、僕は微笑みを浮かべて言った。


「僕達はどちらも男な訳だけど、夏目は上がいい?……下がいい?」
「は? …………あっ!」


 夏目は僕の言った言葉の意味を数秒遅れで理解して、再び顔を真っ赤にした。


「僕を抱きたい? それとも、抱かれたい……?」


 赤い顔のまま視線を彷徨わせる可愛い夏目に、僕はそう畳み掛けた。


「えーっ……と。だっ、抱く側でオネガイシマス……」
「オーケー。じゃあ今夜は譲ってあげるね?」


 動揺のあまり片言で答える夏目が面白すぎて、僕は笑いを噛み殺した。





◇◆◇◆◇◆





「んん、雪平さん……雪平さんっ……!」


 夏目がうわ言のように僕の名前を呼びながら、僕の鎖骨にキスを落とす。打たれた鞭のあと一つ一つに丁寧に舌を這わせて、途中にある小さな胸の飾りにチュッと吸い付いた。吸い付いたそれを夢中で貪って、固くなったそこにカリッと軽く歯を立てられた。


「つっ……」


 僕は少しだけ眉をひそめたが、僅かな痛みはほんの一瞬で、すぐに強い興奮と快感が走る。

 夏目の吐く乱れた熱い息は、飢えた獣が獲物を喰い漁る時のそれのようだ。
 僕に快楽を与えようとすると言うよりは、欲望のままに食い漁っている……そんな印象だった。

 夏目がお腹のあたりに差し掛かると、犯人に執拗に殴られた鳩尾のあたりに、優しいキスを落とされる。そのまま肋骨に沿って丁寧にそこを舐め上げた夏目は、顔を上げて言った。


「雪平さん、本当にキレイです……。俺、夢見てるみたいっス……」


 興奮したままの表情で、うっとりとそんな事を言う夏目は、恐る恐るといった手付きで僕の下着に手を置いた。


「ここも……」
「あっ……」


 布越しにやわやわとそこを揉まれると、唐突に下半身に甘い疼きが走る。同性同士の性というもので、ここに触れる夏目は慣れた手付きだ。僕のそこはみるみる硬さを持って、薄い布を持ち上げた。


「あっ……! ちょっ、夏目……っ」


 少しの愛撫で性急に勃ちあがってしまったそれに、僕は恥ずかしさで視線を逸らす。


「勃ってくれて、嬉しいっス」


 夏目は優しく笑い、そう言って僕の下着のゴムに手をかけた。
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