33 / 46
第二章 夏目と雪平編
8)二回目のお泊り。(雪平視点)
しおりを挟む
「今日も泊まっていかない?」
自宅に着いた僕は、思い切って夏目にそう切り出した。
心を決めた僕の行動に、迷いはない。
「あんなことがあった後だし、一人だと心細いなって……」
僕はそう言って、夏目に甘えるように夏目の袖を引く。
あざといと笑われてもいい。使える武器はなんでも使う。
「別に良いっスけど……」
夏目が少し赤い顔でそう答える。僕がこんな言い方をしたら、夏目が断れないのは想定内だ。
「ありがとう。さぁ、入って」
そう言って、僕は夏目を室内に招き入れた。
玄関で靴を脱ぎ、上がり込もうとしている夏目の首を、僕は抱き寄せる。
「んんっ……!」
夏目のくぐもった声が僅かに漏れた。
それは僕がいきなり夏目の唇を塞いたからで、僕は何度も何度も啄むように夏目にキスをした。
最初の数回は驚いたまま目を開け、されるがままになっていた夏目だったが、繰り返されるキスにそっと目を閉じた。
冷えた手が恐る恐る僕の肩を抱き、キスに応えるように自らも唇を重ねる。
「はぁ……んん、っ」
冷えた手とは裏腹に、唇は熱い。僕達は呼吸をする暇すら惜しんで、何度も唇を重ねる。ようやく互いが互いの唇を開放したとき、僕はすっかり頬を紅潮させてしまっていた。
「な、なんで……?」
同じく頬を赤く染めた夏目が、戸惑ったような表情で僕を見つめていた。濡れた唇を手の甲で拭う仕草が愛らしい。
「……なんでだと思う?」
僕は唇を拭った夏目の手を取って、その指先にそっと唇を付けながら問う。夏目の拳には、犯人と戦ったときに出来たと思われる、僅かな擦り傷があった。僕がその擦り傷にそっと舌を這わせると、夏目は息を呑んだようにその様子を見つめていた。
「俺が……雪平さんを助けたから……?」
「……ふふっ。ほんと、夏目こそバカだね。それじゃあ僕は今、ヒーローの夏目にご褒美をあげようとしてるってこと?」
僕はそう笑って、手を離した。
「まぁ、そう言うのもいいかもね。ふふ。先にシャワー、浴びてきたら?」
そう言って、困惑したままの夏目の背を押すと、僕は靴を脱いで室内に入る。
なんとなく雰囲気に押されたのか、夏目は何かを言いかけた口を噤んで、すんなりバスルームへと消えた。
バスルームから出てすぐに何か言いかけた夏目の口をもう一度キスで遮って、僕は入れ違いにバスルームに入った。
乱暴な鞭に打たれて内出血だらけになってしまった体を、洗い場で丹念に洗う。
僕がバスルームを出る頃には外はすっかり明るくなっていて、雀のさえずりが響いていた。丈の長い白いTシャツだけの姿でバスルームを出た僕は、そのままキッチンに向かい、冷蔵庫を開けた。
「夏目。今日、授業は?」
僕はソファに座っていた夏目にそう聞きながら、冷蔵庫にあったミネラルウォーターのペットボトルを夏目に渡す。
夏目はペットボトルを受け取りながら、首を横に振った。
「今日はもう、いいかなって。流石に貫徹と疲労困憊で、授業には出られる気がしないっス」
夏目は苦笑いしながらそう言って、ペットボトルのキャップを捻った。
「そう。そう言えば、僕は昨日、夏目に嘘をついたよ」
「え……?」
ペットボトルの水を一口だけ飲んだ夏目は、キョトンとした顔で僕をみる。僕はわざとゆっくりペットボトルの水を飲んで、濡れた唇を見せつけるようにして夏目を見た。
「な、なんスか?」
夏目がわかりやすく目を逸らしたので、僕はペットボトルをテーブルに置いて、夏目の隣に座った。夏目が少し緊張した表情で、少しだけ僕の方へ視線を送る。
「『泊めたからって襲ったりしない』って」
「!! ……そ、それって……!」
瞬時に意味を悟った夏目が、少しだけ僕から体を離した。けれども僕は夏目の体を追うように夏目の側に座り直すと、間近で夏目を見つめた。
「いやっ、でも!! 雪平さんは俺の事、好きって訳じゃないんスよね!? ご褒美でそんなこと、したらダメっス!」
夏目はそんな事を言って、理性を必死に留めようとしている。
僕と夏目の、楽しい我慢比べだ。
「じゃあ、キスだけならいい?」
僕はそう言って、夏目の答えを聞かないまま唇を奪った。
嫌ならば力で僕を引き剥がす事など容易なはずなのに、夏目は黙ってされるがままになっている。
何度か角度を変えて唇を貪った後、僕が夏目の口腔内に舌を這わせると、夏目の体はピクンと僅かに震えた。僕が誘うように夏目の舌を唇で吸うと、夏目は躊躇いがちに僕の口腔内に舌を侵入させる。
「んん、っ……」
僕の鼻を抜ける、くぐもった甘い声。
その声に弾かれたように、夏目は僕の両肩を掴んで深く舌を差し入れてきた。激しく熱い舌が僕の口の中を慾るさまは、まるで獲物を食べる肉食動物だ。
散々僕の口腔内を蹂躙した夏目は、そっと顔を離して真っ直ぐ僕の方を見た。彼は珍しく甘えるような表情で、僕に向かって軽いため息をつく。
「雪平さん……。俺だって男っスから、雪平さんみたいな美人にあんまり煽られると、さすがに我慢出来なくなるっス」
「ふーん? 美人なら誰にでも?」
僕は少しだけムスっとした表情でそう問う。
「!?」
意味がよくわかっていない様子の夏目に僕はため息をつき返して、人差し指の先で夏目の鼻の頭を突くように押した。
「例えばリカちゃんや稚早さんにもそうなのかって、聞いてるの」
「あっ……!」
そこまで言われれば、いくら鈍い夏目でも分かるだろう。夏目の顔がみるみるうちに赤くなり、困ったような表情で目を泳がせた。
「ゆっ、雪平さんだけっス……。自分が今好きなのは、雪平さんですから……」
「……よろしい」
夏目の素直なその答えに、僕はとても満足した。夏目の頬にご褒美のキスをして、妖艶に微笑む。
「さあ、じゃあベッドに行こうか」
僕はそう言って、夏目の手を取った。
自宅に着いた僕は、思い切って夏目にそう切り出した。
心を決めた僕の行動に、迷いはない。
「あんなことがあった後だし、一人だと心細いなって……」
僕はそう言って、夏目に甘えるように夏目の袖を引く。
あざといと笑われてもいい。使える武器はなんでも使う。
「別に良いっスけど……」
夏目が少し赤い顔でそう答える。僕がこんな言い方をしたら、夏目が断れないのは想定内だ。
「ありがとう。さぁ、入って」
そう言って、僕は夏目を室内に招き入れた。
玄関で靴を脱ぎ、上がり込もうとしている夏目の首を、僕は抱き寄せる。
「んんっ……!」
夏目のくぐもった声が僅かに漏れた。
それは僕がいきなり夏目の唇を塞いたからで、僕は何度も何度も啄むように夏目にキスをした。
最初の数回は驚いたまま目を開け、されるがままになっていた夏目だったが、繰り返されるキスにそっと目を閉じた。
冷えた手が恐る恐る僕の肩を抱き、キスに応えるように自らも唇を重ねる。
「はぁ……んん、っ」
冷えた手とは裏腹に、唇は熱い。僕達は呼吸をする暇すら惜しんで、何度も唇を重ねる。ようやく互いが互いの唇を開放したとき、僕はすっかり頬を紅潮させてしまっていた。
「な、なんで……?」
同じく頬を赤く染めた夏目が、戸惑ったような表情で僕を見つめていた。濡れた唇を手の甲で拭う仕草が愛らしい。
「……なんでだと思う?」
僕は唇を拭った夏目の手を取って、その指先にそっと唇を付けながら問う。夏目の拳には、犯人と戦ったときに出来たと思われる、僅かな擦り傷があった。僕がその擦り傷にそっと舌を這わせると、夏目は息を呑んだようにその様子を見つめていた。
「俺が……雪平さんを助けたから……?」
「……ふふっ。ほんと、夏目こそバカだね。それじゃあ僕は今、ヒーローの夏目にご褒美をあげようとしてるってこと?」
僕はそう笑って、手を離した。
「まぁ、そう言うのもいいかもね。ふふ。先にシャワー、浴びてきたら?」
そう言って、困惑したままの夏目の背を押すと、僕は靴を脱いで室内に入る。
なんとなく雰囲気に押されたのか、夏目は何かを言いかけた口を噤んで、すんなりバスルームへと消えた。
バスルームから出てすぐに何か言いかけた夏目の口をもう一度キスで遮って、僕は入れ違いにバスルームに入った。
乱暴な鞭に打たれて内出血だらけになってしまった体を、洗い場で丹念に洗う。
僕がバスルームを出る頃には外はすっかり明るくなっていて、雀のさえずりが響いていた。丈の長い白いTシャツだけの姿でバスルームを出た僕は、そのままキッチンに向かい、冷蔵庫を開けた。
「夏目。今日、授業は?」
僕はソファに座っていた夏目にそう聞きながら、冷蔵庫にあったミネラルウォーターのペットボトルを夏目に渡す。
夏目はペットボトルを受け取りながら、首を横に振った。
「今日はもう、いいかなって。流石に貫徹と疲労困憊で、授業には出られる気がしないっス」
夏目は苦笑いしながらそう言って、ペットボトルのキャップを捻った。
「そう。そう言えば、僕は昨日、夏目に嘘をついたよ」
「え……?」
ペットボトルの水を一口だけ飲んだ夏目は、キョトンとした顔で僕をみる。僕はわざとゆっくりペットボトルの水を飲んで、濡れた唇を見せつけるようにして夏目を見た。
「な、なんスか?」
夏目がわかりやすく目を逸らしたので、僕はペットボトルをテーブルに置いて、夏目の隣に座った。夏目が少し緊張した表情で、少しだけ僕の方へ視線を送る。
「『泊めたからって襲ったりしない』って」
「!! ……そ、それって……!」
瞬時に意味を悟った夏目が、少しだけ僕から体を離した。けれども僕は夏目の体を追うように夏目の側に座り直すと、間近で夏目を見つめた。
「いやっ、でも!! 雪平さんは俺の事、好きって訳じゃないんスよね!? ご褒美でそんなこと、したらダメっス!」
夏目はそんな事を言って、理性を必死に留めようとしている。
僕と夏目の、楽しい我慢比べだ。
「じゃあ、キスだけならいい?」
僕はそう言って、夏目の答えを聞かないまま唇を奪った。
嫌ならば力で僕を引き剥がす事など容易なはずなのに、夏目は黙ってされるがままになっている。
何度か角度を変えて唇を貪った後、僕が夏目の口腔内に舌を這わせると、夏目の体はピクンと僅かに震えた。僕が誘うように夏目の舌を唇で吸うと、夏目は躊躇いがちに僕の口腔内に舌を侵入させる。
「んん、っ……」
僕の鼻を抜ける、くぐもった甘い声。
その声に弾かれたように、夏目は僕の両肩を掴んで深く舌を差し入れてきた。激しく熱い舌が僕の口の中を慾るさまは、まるで獲物を食べる肉食動物だ。
散々僕の口腔内を蹂躙した夏目は、そっと顔を離して真っ直ぐ僕の方を見た。彼は珍しく甘えるような表情で、僕に向かって軽いため息をつく。
「雪平さん……。俺だって男っスから、雪平さんみたいな美人にあんまり煽られると、さすがに我慢出来なくなるっス」
「ふーん? 美人なら誰にでも?」
僕は少しだけムスっとした表情でそう問う。
「!?」
意味がよくわかっていない様子の夏目に僕はため息をつき返して、人差し指の先で夏目の鼻の頭を突くように押した。
「例えばリカちゃんや稚早さんにもそうなのかって、聞いてるの」
「あっ……!」
そこまで言われれば、いくら鈍い夏目でも分かるだろう。夏目の顔がみるみるうちに赤くなり、困ったような表情で目を泳がせた。
「ゆっ、雪平さんだけっス……。自分が今好きなのは、雪平さんですから……」
「……よろしい」
夏目の素直なその答えに、僕はとても満足した。夏目の頬にご褒美のキスをして、妖艶に微笑む。
「さあ、じゃあベッドに行こうか」
僕はそう言って、夏目の手を取った。
10
お気に入りに追加
168
あなたにおすすめの小説

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜
・話の流れが遅い
・作者が話の進行悩み過ぎてる

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる