【完】大きな俺は小さな彼に今宵もアブノーマルに抱かれる

唯月漣

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6)セフレを大切に

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「大切にするんじゃ、なかったのかよ……ッ」


 俺はベッドの上で俯せに転がされたまま、背後の由岐へそう言って、僅かに眉根を寄せて睨んだ。


「え? こんなに大切にしているじゃないですか」


 由岐はそう言いながら、俺の背に馬乗りになって、後ろ手で尻を撫でている。
 何で、こんなことになっているのか……。





 初めて由岐に出会ったあの日から、数週間が経った。
 俺はユウキの一件を忘れるため、あの日以来がむしゃらに仕事を詰め込んでいた。

 自分の仕事は勿論のこと、事務関係の雑務から他部署の新人がやるコピーや資料のクリップ留め、普段はパートさん達がやるお茶汲みや掃除、先輩の仕事の資料集めや名刺整理まで引き受けて、仕事上がりは毎晩終電ギリギリ。
 帰宅後はビールとコンビニのつまみを引っ掛けて、倒れるように眠る。

 そんな日々が続いていたある日の金曜日。
 一階の受付から、妙な内線電話がかかってきたのだ。


「岡田さん、受付に弟さんが見えていますよ」
「は……?」


 俺は一人っ子で、弟などできた覚えはない。
 受付の社員にそう伝えようとした瞬間、俺は数日前にチラリと見たメールを思い出したのだ。


『このまま連絡をくれないのなら、直接会いに行きますよ』


 そうだ。由岐……!
 由岐はあの日から毎日メールをくれていたのに、俺は忙しさを言い訳にここ数日返信をサボっていた。
 俺は慌ててエレベーターに飛び乗って、受付のある一階のボタンを連打した。

 一階の受付エントランスに立っていたのは案の定、由岐だった。


「翔李さん。約束通り会いに来まし……」
「わーーーーッ! あ、あのっ、ちょっとランチ! 昼飯食いに出てきます!!」


 俺は受付にそう声をかけて、由岐の手を掴んで慌てて社外に出た。
 会社から数百メートルほど離れた場所にある、小さな空き地のベンチ。そこでようやく一息付いて、俺は由岐の手を離した。


「あー、びっくりした」


 俺はそう言いながら、側にあった自動販売機で飲み物を二本買った。その内の一本を由岐に渡すと、ベンチに座って由岐に手招きをする。促されるままに俺の隣に座った由岐が、ペットボトルを開けながら言った。


「あれから全然返信をくれないから、様子を見に来ちゃいました。なんだか凄い顔色ですけど、ちゃんと食べて、しっかり寝ていますか?」


 由岐は俺の顔を覗き込んで、心配そうにそう言った。俺は答えに詰まって、珈琲を飲んで誤魔化す。
 すると由岐は少しムッとしたような表情で俺の方を向くと、片手を伸ばして俺の頬に触れた。


「明日の土曜日、必ずうちに来てください。来なかったらまた、月曜日に会社に迎えに行きますからね」





 …………とまあ、昨日のこんなやり取りののち、今に至る訳だ。





「それで? 昨夜メールで言ったものは買えましたか?」


 由岐にそう促されると、俺は頷きながら小声で答えた。


「う……。買ってきた……けど」


 俺はそう言いながら、部屋の隅に放ってあった鞄の隣に置いた紙袋をちらりと見た。
 由岐は立ち上がって紙袋を取り、再びベッドの上に戻って紙袋をひっくり返した。
 中から転がり出てきたのはローションのチューブと小さなローターだ。

 由岐はローターのパッケージを開封して本体をつまみ上げると、目の前にかざすように眺めながら言った。


「随分と小さいのを選んだんですね。やっぱり、中は怖いですか?」


 由岐がそう言いながら再び俺の尻を撫でると、俺は視線を彷徨わせながら言った。


「あっ、当たり前だろ……! これから初めて尻を掘られようってのに、怖くない訳がな……んんっ」


 まだ話している最中なのに、突然由岐のしなやかな指先が俺の口の中に侵入してきた。三本の指で舌を挟むように掴まれて、くにくにと弄ばれる。


「……ふふっ。お尻だけじゃないんですよ。僕は可愛い翔李さんの、穴という穴全てを犯したい」
「んん、ふぁ……」


 俺の耳のすぐ近くで、由岐がそう囁く。
 舌を使えない俺はくぐもった声を出すのが精一杯だった。
 由岐の言葉に己の中で僅かな恐怖心と甘い期待が入り混じって湧き上がるのを自覚し、俺は戸惑った。


「大丈夫。大切にするという言葉に、偽りはありませんから」


 由岐はそう言って、俺の口から指を抜いてよしよしをするように頭を撫でた。こんな小さな少年に馬乗りで頭を撫でられ、俺は反応に困って枕に顔を突っ伏す。


「ーーーーどっからツッコもうか迷うんだが、とりあえず俺は可愛くはない」


 由岐は俺の台詞を予想していたのか、俺の言葉にクスクスと笑っただけだった。


「さて。始めましょうか。一度退きますから、服を脱いで下さい」


 由岐のその言葉に、俺は僅かな緊張を身の内に含んだまま、ゆっくりと体を起こした。


「ああ、それと。これはセックスの最中のリップサービス位に思って聞いてほしいんですけど」


 服を脱ぎ終えてベッドに座る俺の横で、由岐はローションのフィルムを開封しながら唐突にそんな前置きをした。


「ん? なんだ?」


 由岐の白くて細い指がローションのチューブを枕元に置くのを眺めながら、俺は高鳴る心臓を諌めてそう返す。由岐は俺の顔の正面に自らの顔を寄せると、キスをする直前ほどの距離でピタリと止まった。
 長いまつ毛を僅かに伏せた由岐は、息を吐きながら低い声で囁いた。


「翔李さん、愛しています。可愛い貴方を、僕はこれから大切に抱きます」
「えっ……? …………あっ……」


 由岐の口から突然飛び出したその言葉に、俺は更に心臓を高鳴らせた。不意に視線を上げた由岐と目が合うと、焦げ茶色の澄んだ瞳に俺の顔が写り込んでいるのが見えて、俺の心臓が更に騒ぐ。
 リップサービス……そう前置きしたのは、きっと失恋に傷付いた俺が由岐の言葉に本気にならないためだろう。

 けれども、今の俺にその言葉は残酷で。
 ユウキにすら本心を言えなかった俺が、出会って間もない由岐に本心ではない愛を囁かれる。なんとも皮肉なものだと思う。


「翔李さん……?」


 黙り込んでしまった俺を間近から見つめ続ける由岐に、俺はどんな顔をして良いか分からなかった。


「あ、ああ……よろしく頼む」


 反射的に俺の口から出た言葉は、そんな可愛げのないものだった。
 由岐は僅かに微笑んで、そのまま俺の後頭部に腕を絡めるように抱きつき、俺の唇を奪う。
 唇を重ねたまま、愛しいものを愛でるように頬を撫でられて、俺はうっとりと目を閉じた。

 ーーーー言葉だけの偽りの愛でも、キスはこんなにも気持ちいい。 
    
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