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1章 出会い

ファナエルの家

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 「うん、私もアキラが恋人なら嬉しい……ここまで私を受け入れてくれたのはアキラだけだから」

 俺の告白に対する彼女の返事。
 それを聞いた俺はドッと自分の体に入っていた緊張が抜けてその場にへたり込んでしまう。

 「だ、大丈夫?」
 「ご、ごめん。緊張と一緒に体の力も抜けたみたいで」
 「フフ、もう」

 彼女は優しく笑いながら俺の身体を起こしてくれた。

 「ねぇアキラ……この後まだ時間大丈夫?」
 「おう、多分大丈夫だと思うけど」
 「そっか……実は私もね、今の良い雰囲気のままアキラとしたいことがあったんだ」

 彼女はそう言いながら俺の腕を引っ張り足早に道路を歩く。
 数分歩いたその先には、彼女の服と同じような白い外壁が特徴の一軒家があった。
 ファナエルは肩にかけているバッグから銀色のカギを取り出して俺にこう語りかけるのだった。

 「血も落とさなきゃだしね、どうぞ入って」

 ◇

 「母さんに今日の晩飯はいらないって伝えといてくれ」
 『おお、秋にぃファナエルさんを晩御飯に誘ったんだね、良いよ良いよ~そのぐらい言っといてあげる』

 ファナエルの家に入った俺は自分の手に付いた血を洗い落とし、リビングにあったソファーを借りながら斬琉キルに電話をかけていた。

 帰りが遅くなりそうだし、一様両親に心配かけない様にメッセージを残そうと思ったのだ。
 どうも晩御飯をファナエルが作ってくれるらしく、それを食べた後で俺としたいことがあるらしいのだ。

 当のファナエルは今、体にべっとりついた血を洗うためにシャワーを浴びている。
 うっすらと耳に聞こえてくる水の音で俺の理性が壊れてしまわないように、俺は妹の会話に意識を頑張って割いているのだ。

 「あと‥‥‥帰りが相当遅くなったとしても心配しないでって伝えといてくれ」
 『帰りが遅くなるね~了解了解‥‥‥っては?!なんで!!何するの!?』
 「‥‥‥‥俺にもよくわからん」
 『あー!!はぐらかした。私は秋にぃをそんなけだものに育てた覚えはー』
 「ちげーよバカ!!とにかく、伝えといてくれよ」

 ダルがらみされそうな気配を感じた俺はすぐさま斬琉キルとの通話を切った。
 結構乱暴な切り方をした気がするけど……まぁ大丈夫だろう。

 「さっきの声‥‥‥もしかして妹さん?」
 「うお?!ファナエルいつの間に」
 「さっき着替えてきた所だよ」

 そう言ったファナエルは俺の隣……ソファーの空いているスペースに腰かける。
 ダボッとした無防備な部屋着で現れた彼女はぐいっと顔を寄せて俺のスマホの画面を見ながら微笑んだ。

 「よかったら妹さんの連絡先教えてほしいな‥‥‥彼氏の家族とは連絡取っておきたいでしょ?」
 「たしかに、緊急の連絡先とかにもなるだろうしな」

 ファナエルから飛び出した彼氏と言うワードにどぎまぎしながらも、俺は彼女に斬琉キルが使っているレインのIDを教えた。

 それを見たファナエルは笑顔でスマホを操作しながら斬琉キルにメッセージを送る。
 ただ、その笑顔はなんだか何かを威嚇しているような‥‥‥見ていて素直に喜びという感情が見えないような、そんな笑顔だった。

 「どんなメッセージ送ったんだ?」
 「これからよろしくお願いしますって送っただけだよ」

 そういった彼女の目に光はない。
 『秋にぃ助けて!!』というメッセージが斬琉キルから届いたような気がするが……一旦
見なかった事にしよう。

 「それじゃあ私は晩ごはん作るから、アキラはゆっくりしてて」

 ファナエルはそう言うと近くに置いてあったエプロンをつけてキッチンに入る。
 このリビングからはキッチンの様子で料理をしている彼女の姿がよく見えた。

 卵の殻を割る音、IHのファンがなる音、ボウルに入った材料をかき混ぜる音。
 何故かやけに静かな家の中でファナエルが料理をする音だけが響いている。

 「……私一人暮らしなんだ、この広い家に私一人で住んでるの」

 テキパキとキッチンを動きながら料理を作る彼女は、悲しそうに何かを懐かしむような声で俺にそう語りかけていた。

 「両親とは‥‥‥えっと、日本語で言うところの縁を切ったってやつになるのかな?私の正直な気持ちを否定されたショックで逃げて来ちゃったの」
 「正直な気持ちを?」
 「そうだよ。本当の私を受け入れてくれた人は今まで誰もいなかった……両親も、知り合いも、学校の友達も、私に告白してきた人達も、皆ね」

 あのクッキーだって飲み込んでくれたのはアキラだけなんだよと言いながら彼女はフライパンに溶いた卵を流し込む。
 卵の焼き加減を見ながらチラリとこちらを見つめる彼女の目からは何か暗いものを感じる。
 
 「そういう事があったから、私きっとすごく重い彼女になっちゃうと思うんだ。アキラが私以外の女の人と居たら、きっとそれだけで嫉妬しちゃうしすっごく不安になる」
 「‥‥‥それは多分俺もおんなじだと思う。ファナエルが他の柄悪そうな男と居ると‥‥‥考えただけでも吐き気が」
 「フフ……やっぱり私たちは似てるのかもね」

 ファナエルはそう言いながらケチャップを混ぜ込んだ白米を皿の上に盛り付ける。
 フライパンで焼いた卵をそのご飯の上に乗せ、エプロンを脱いでキッチンの隅へ置く。

 「だから今日、ここで愛の誓いをしようと思ってたんだ」
 「愛の誓い?」

 彼女は出来上がった一つのオムライスをテーブルの上に置く。
 俺はソファーから彼女が座っている食卓へ歩き、彼女の隣にある椅子へ座った。

 「そう、私とアキラの関係が永遠になれるような誓いをね」
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