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1章 出会い

卑怯な俺の二度目の告白

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 「ありがとね、私に付いてきてくれて」
 「あんな状況になったらほっとけないだろ」
 「それもそうだね」

 鳥頭の怪異と対峙してから一時間ほどの時間が流れた。
 綺麗なオレンジ色だった夏の空はすっかり黒くなり、特に涼しくもならない嫌な暑さに包み込まれる。
 
 そんな中、俺はファナエルの左側に立ち、彼女の体に密着しながら歩いていた。
 その理由は単純明快、彼女の左側にベットリと掛かった血を隠すためだ。

 俺は病院に連絡を入れることや家族の人を呼ぶ事をファナエルに提案したが、彼女はそれを受け入れなかった。
 家に帰れば大丈夫だからと言ってそのまま帰ろうとするものだから、俺は変な騒ぎにならないようにと思いながら彼女に付いていったのだ。

 「言ったでしょ?ここは人通りが少ないから大丈夫だって」
 「まさか、誰ともすれ違わないとは思わなかったな」
 「まぁ引っ越しのときにそういう事とか考えて場所選んだから当たり前といえば当たり前だけど」

 ファナエルはそう言いなら血のついた服の裾を右手で軽く掴む。
 血が付着してから良い時間が立つというのにその血は赤黒くなることはなく、むしろだんだん色が薄く、白に近づいている。

 「‥‥‥気づいた?」

 俺の視線に気づいたファナエルは「まぁ気になるよね」と言いながら少し自嘲的に笑う。
 彼女が来ている服に交じるようにだんだん白い色に変化していく彼女の血液は明らかに普通の人間に流れているものではない。

 「ごめん‥‥‥マジマジと見て」
 「ううん、いいの。確かにこの血はちょっとしたコンプレックスなんだけどアキラになら見られても大丈夫だから」
 「なんで?」
 「私の事を見捨てないって信頼があるから」

 そう言った彼女はさっきと同じように俺の手を握る。

 「アキラはあったりするの、身体的なコンプレックスとか?」
 「ファナエルに比べてたらしょうもないよ」
 「比べるものじゃないよ。それはアキラにとって重大な問題でしょ?」
 「‥‥‥背がちょっと低いこと。男子高校生の平均より低いし、何なら妹に抜かれてる。あとボディラインもちょっと気になってる」
 「そっか」
 
 彼女はぴたりと引っ付いていたその体をギュッと寄せて俺を抱きしめた。
 暖かな彼女の体温と柔らかい感触が俺の体に伝播する。

 「でも、アキラが私と同じ位の身長だから……こうやっていい思いが出来たね」

 彼女の家に向かって歩いていた足が止まる。
 彼女にかかった血を隠さないとって考えていた思考も蒸発する。
 まるで俺の身体にロックが掛かったかのように彼女の事しか考えられなくなる。

 こんなにリラックスした顔を見せながら俺を抱きしめる彼女の姿から、俺の背中をポンポンと優しく叩く彼女の仕草から、俺達を包んでいるこの雰囲気から彼女が俺に向けてくれている好意をヒシヒシと肌で感じる。

 「……ハハ、俺は卑怯だな」

 不安で言えなかったあの言葉を、濁して伝えてしまったあの言葉を今なら言えると確信してしまう。
 彼女が俺に好意を見せたから、失敗する確率が低くなったから、だからあの言葉を彼女に伝えようだなんてダサいし卑怯な考えじゃないか。
 
 「卑怯でもいいんじゃない」

 そんな俺の考えを見透かしたかのような彼女の言葉。

 「私もアキラと同じ穴のむじなだよ。自分が失敗しない環境を作らないと本心なんか怖くて打ち明けられない」

 俺の背中に回していた彼女の右手が頭のてっぺんまで上る。
 俺の頭部をさする彼女は招くように、そそのかすように、誘惑するように声をかける。

 「だから聞かせて。アキラが私に言いたくて仕方がないその言葉を」
 
 綺麗な銀髪と生々しい血液の異様なコントラストで彩られた彼女の笑顔は降り注ぐ街灯の光を我が物にして輝いていた。
 俺はそんな彼女を目の前にして大きく口を開け、思いを言葉にする。

 「俺、やっぱりファナエルの事が好きだ。変な奴に因縁付けられてても、何か大きな隠し事があったとしてもやっぱり好きだ」

 そうして俺は自分の両手を彼女の背中に回す。
 彼女がしてくれたのと同じように、その体をギュッと抱きしめた。

 「だから、こんな俺でも良いなら付き合ってほしい……恋人になって欲しい」
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