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1章 出会い
愛の誓い
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「私とアキラの関係が永遠になれるような誓いをね」
ファナエルは手に持ったケチャップを使ってオムライスの中心に線を引く。
彼女はその線を指さしながらゆっくりと俺に指示を出した。
「ケチャップで出来たこの線までがアキラの晩ごはんだよ。残りの部分は愛の誓いに使うからちょっと待っててね」
「ああ、分かった。それじゃあー」
手を合わせ、いただきますと挨拶を済ませてから俺はそのオムライスを口に運ぶ。
朝の唐揚げ同様に、このオムライスもかなり美味しい。
母さんが作ってくれる物より卵の部分がフワフワしているし、チキンライスの味付けも絶妙だ。
「うん、うん、これ美味しいよ」
「それは良かった‥‥‥ちょっと取りに行くものがあるからアキラはここでオムライス食べてて」
すぐ取ってくるからと言いながら彼女は足早に階段を上がっていく。
一方の俺は彼女が作ったオムライスにやみつきになっており、あと数秒でケチャップの線で区切られた部分を完食してしまう勢いだった。
◇
「ふー。美味しかった‥‥‥早く残ってる部分も食べたいけど、ファナエルが戻ってくるまで我慢だな」
魔が差す気持ちをぐっと抑え、俺は手に持っていたスプーンをテーブルの上に置いた。
綺麗に半分残ったオムライスを見ながら俺は一人、ファナエルの言う愛の誓いとは何をするのだろうかと事を考えていた。
もしかしたら残っている部分をファナエルが食べるのか?
ワンチャン俺がファナエルにあ~んしてあげるとかになるのでは!?
幸せで少し気持ち悪い妄想を膨らませながらファナエルを待っていると、「おまたせ」と透き通った彼女の声がリビングに響く。
「ごめんね、結構奥に置いてあったから持ってくるのが遅くなっちゃった」
「気にしないでいいよ。それより何を持ってきた‥‥‥‥へ?」
何を持って来たんだと言おうとした俺の声は、気づけば素っ頓狂な疑問符に変わっていた。
何故なら彼女の手には、赤や黒や白の血液が付着した鋭利な斧があったからだ。
彼女はその斧を丁寧に運びながら俺の座っているテーブルにゆっくりゆっくり近づいてゆく。
「あ、そっか。日本ではこういう物を見る機会はあんまりないもんね。安心して、アキラが痛がるようなことはしないから」
「ファナエル、その斧は一体?」
「これの名前は禁斧チェレクスっていうの」
「チェレクス‥‥‥あれ、なんか聞き覚えがあるな」
「ああ、神社で合った鳥頭がぼやいてたからね。私が盗んだとか言って」
ちょっと借りてるだけなのにねと言いながらファナエルはチェレクスと呼ばれた斧を撫でる。
独特で得体の知れない雰囲気をまといだした彼女の事を少し怖いと思いながらも、俺は声を振り絞って「これから何をするんだと」彼女に問いかけた。
「これにはちょっと特殊な逸話がついててね、この斧で体の一部を切られた生物はその部位が一生元に戻らなくなるの。その代わりに大きな力を得ることができるんだって」
まぁ古い時代にありがちな危険な願掛けだよと言って笑いながらファナエルはその斧を構える。
次の瞬間、彼女はその大きな斧を巧みに動かして自分の髪の毛の一部を切った。
長いロングの彼女の髪の毛の中に一箇所だけ、彼女の右耳があるところだけが不自然に短く切られる。
切られた銀色の髪の毛はさっきまで食べていたオムライスの上にヒタリと落ちた。
「だから私は考えたの。この斧で切った私の髪の毛をアキラに食べて貰えれば何よりも強固な愛の誓いになるんじゃないかって」
ファナエルは斧をそっとテーブルの上に置き、代わりに手に取ったスプーンでオムライスと髪の毛を丁寧に混ぜる。
「ねぇアキラ‥‥…アキラは私を受け入れてくれるよね」
赤いチキンライスと黄色い卵と銀色の髪の毛が混ざったものを乗せたスプーンが俺の口に向かって近づいてゆく。
俺が強張った口を少し開けると、ファナエルがゆっくりとその口の中にスプーンを入れる。
口の中に張り付く彼女の髪の毛、ベタリと張り付く気持ち悪い感覚と今にもむせそうな衝動に襲われる。
この状況は誰がどう考えても異常だった……今すぐにでも逃げたいと考えてしまうほどに。
「ファナエル‥‥‥‥」
「何?」
「‥‥‥‥水、持ってきてくれないか?」
でも俺は、この場から逃げずに彼女の髪の毛を飲み込むことにしたのだ。
彼女がどれだけ内側に狂気を秘めていたとしても、彼女が過去に何をしていたんだとしても、そんな事がちっぽけに思えてしまうぐらいに俺はもうファナエルのことが好きになってしまったのだ。
それに、こんな俺の告白を受け入れてくれた彼女をがっかりさせたくない……なにより俺と言う存在がファナエルの中の一番でないと嫌なんだ。
その為だったら俺は狂気に飲まれるのも苦じゃない。
「ファナエルの期待に答えるためにも本気で愛の誓いに取り組みたいから」
「‥‥‥‥‥うん、うん!!待ってて、今持ってくるから!!」
ファナエルは冷蔵庫の中から水が入ったペットボトルを取り出し、透明なコップの中に入れて俺に手渡してくれた。
俺はそのコップに入った水をグイッと飲み、のどに張り付いている彼女の髪の毛を無理やり胃の中に流し込んだ。
もう少し短く切って食べてもいいか?
ケチャップを多めにつけてもいいか?
そんな提案を続けながら彼女の一部を口から取り込んでいく。
俺の提案通りにナイフを用意したりケチャップを用意したりする彼女の顔は安堵と不安が混ざった複雑な顔をしている。
そんな彼女を励ますように、安心させるように、「大丈夫、全部食べ切るから」と声をかけながら俺は一口、また一口と髪の毛の入ったオムライスを食べ進めていく。
◇
10分程度で食べれた量のオムライスを3時間掛けて食べきった頃。
最後の一口を飲み込んだ俺の意識がふらりと歪んだ。
体を支えるのもやっとになって倒れそうになる俺の身体を隣に座っていたファナエルが優しく抱きとめる。
「本当に全部食べきっちゃうなんて、やっぱりアキラは私にとっての特別だよ。私を救ってくれる勇者様だ」
「それは‥‥‥流石に言い過ぎじゃないか?」
彼女の体に全体重を預けながら、俺はなんとか残った意識でツッコミを入れる。
しかし彼女は顔を横に振って、俺のツッコミを力強く否定した。
「そんな事ない。アキラはこの世界でたった一人、私の我儘を聞いて受け入れてくれたんだから」
だからアキラも私に我儘言って良いんだよと言いながら、彼女の俺の背中をさすった。
そんな彼女のささやき声に、匂いに、俺の意識は耐えられず俺は母親に甘える子供のように意識を手放してしまうのだった。
「やっと見つけたんだ‥‥‥もう誰にも私のアキラは渡さない」
ファナエルは手に持ったケチャップを使ってオムライスの中心に線を引く。
彼女はその線を指さしながらゆっくりと俺に指示を出した。
「ケチャップで出来たこの線までがアキラの晩ごはんだよ。残りの部分は愛の誓いに使うからちょっと待っててね」
「ああ、分かった。それじゃあー」
手を合わせ、いただきますと挨拶を済ませてから俺はそのオムライスを口に運ぶ。
朝の唐揚げ同様に、このオムライスもかなり美味しい。
母さんが作ってくれる物より卵の部分がフワフワしているし、チキンライスの味付けも絶妙だ。
「うん、うん、これ美味しいよ」
「それは良かった‥‥‥ちょっと取りに行くものがあるからアキラはここでオムライス食べてて」
すぐ取ってくるからと言いながら彼女は足早に階段を上がっていく。
一方の俺は彼女が作ったオムライスにやみつきになっており、あと数秒でケチャップの線で区切られた部分を完食してしまう勢いだった。
◇
「ふー。美味しかった‥‥‥早く残ってる部分も食べたいけど、ファナエルが戻ってくるまで我慢だな」
魔が差す気持ちをぐっと抑え、俺は手に持っていたスプーンをテーブルの上に置いた。
綺麗に半分残ったオムライスを見ながら俺は一人、ファナエルの言う愛の誓いとは何をするのだろうかと事を考えていた。
もしかしたら残っている部分をファナエルが食べるのか?
ワンチャン俺がファナエルにあ~んしてあげるとかになるのでは!?
幸せで少し気持ち悪い妄想を膨らませながらファナエルを待っていると、「おまたせ」と透き通った彼女の声がリビングに響く。
「ごめんね、結構奥に置いてあったから持ってくるのが遅くなっちゃった」
「気にしないでいいよ。それより何を持ってきた‥‥‥‥へ?」
何を持って来たんだと言おうとした俺の声は、気づけば素っ頓狂な疑問符に変わっていた。
何故なら彼女の手には、赤や黒や白の血液が付着した鋭利な斧があったからだ。
彼女はその斧を丁寧に運びながら俺の座っているテーブルにゆっくりゆっくり近づいてゆく。
「あ、そっか。日本ではこういう物を見る機会はあんまりないもんね。安心して、アキラが痛がるようなことはしないから」
「ファナエル、その斧は一体?」
「これの名前は禁斧チェレクスっていうの」
「チェレクス‥‥‥あれ、なんか聞き覚えがあるな」
「ああ、神社で合った鳥頭がぼやいてたからね。私が盗んだとか言って」
ちょっと借りてるだけなのにねと言いながらファナエルはチェレクスと呼ばれた斧を撫でる。
独特で得体の知れない雰囲気をまといだした彼女の事を少し怖いと思いながらも、俺は声を振り絞って「これから何をするんだと」彼女に問いかけた。
「これにはちょっと特殊な逸話がついててね、この斧で体の一部を切られた生物はその部位が一生元に戻らなくなるの。その代わりに大きな力を得ることができるんだって」
まぁ古い時代にありがちな危険な願掛けだよと言って笑いながらファナエルはその斧を構える。
次の瞬間、彼女はその大きな斧を巧みに動かして自分の髪の毛の一部を切った。
長いロングの彼女の髪の毛の中に一箇所だけ、彼女の右耳があるところだけが不自然に短く切られる。
切られた銀色の髪の毛はさっきまで食べていたオムライスの上にヒタリと落ちた。
「だから私は考えたの。この斧で切った私の髪の毛をアキラに食べて貰えれば何よりも強固な愛の誓いになるんじゃないかって」
ファナエルは斧をそっとテーブルの上に置き、代わりに手に取ったスプーンでオムライスと髪の毛を丁寧に混ぜる。
「ねぇアキラ‥‥…アキラは私を受け入れてくれるよね」
赤いチキンライスと黄色い卵と銀色の髪の毛が混ざったものを乗せたスプーンが俺の口に向かって近づいてゆく。
俺が強張った口を少し開けると、ファナエルがゆっくりとその口の中にスプーンを入れる。
口の中に張り付く彼女の髪の毛、ベタリと張り付く気持ち悪い感覚と今にもむせそうな衝動に襲われる。
この状況は誰がどう考えても異常だった……今すぐにでも逃げたいと考えてしまうほどに。
「ファナエル‥‥‥‥」
「何?」
「‥‥‥‥水、持ってきてくれないか?」
でも俺は、この場から逃げずに彼女の髪の毛を飲み込むことにしたのだ。
彼女がどれだけ内側に狂気を秘めていたとしても、彼女が過去に何をしていたんだとしても、そんな事がちっぽけに思えてしまうぐらいに俺はもうファナエルのことが好きになってしまったのだ。
それに、こんな俺の告白を受け入れてくれた彼女をがっかりさせたくない……なにより俺と言う存在がファナエルの中の一番でないと嫌なんだ。
その為だったら俺は狂気に飲まれるのも苦じゃない。
「ファナエルの期待に答えるためにも本気で愛の誓いに取り組みたいから」
「‥‥‥‥‥うん、うん!!待ってて、今持ってくるから!!」
ファナエルは冷蔵庫の中から水が入ったペットボトルを取り出し、透明なコップの中に入れて俺に手渡してくれた。
俺はそのコップに入った水をグイッと飲み、のどに張り付いている彼女の髪の毛を無理やり胃の中に流し込んだ。
もう少し短く切って食べてもいいか?
ケチャップを多めにつけてもいいか?
そんな提案を続けながら彼女の一部を口から取り込んでいく。
俺の提案通りにナイフを用意したりケチャップを用意したりする彼女の顔は安堵と不安が混ざった複雑な顔をしている。
そんな彼女を励ますように、安心させるように、「大丈夫、全部食べ切るから」と声をかけながら俺は一口、また一口と髪の毛の入ったオムライスを食べ進めていく。
◇
10分程度で食べれた量のオムライスを3時間掛けて食べきった頃。
最後の一口を飲み込んだ俺の意識がふらりと歪んだ。
体を支えるのもやっとになって倒れそうになる俺の身体を隣に座っていたファナエルが優しく抱きとめる。
「本当に全部食べきっちゃうなんて、やっぱりアキラは私にとっての特別だよ。私を救ってくれる勇者様だ」
「それは‥‥‥流石に言い過ぎじゃないか?」
彼女の体に全体重を預けながら、俺はなんとか残った意識でツッコミを入れる。
しかし彼女は顔を横に振って、俺のツッコミを力強く否定した。
「そんな事ない。アキラはこの世界でたった一人、私の我儘を聞いて受け入れてくれたんだから」
だからアキラも私に我儘言って良いんだよと言いながら、彼女の俺の背中をさすった。
そんな彼女のささやき声に、匂いに、俺の意識は耐えられず俺は母親に甘える子供のように意識を手放してしまうのだった。
「やっと見つけたんだ‥‥‥もう誰にも私のアキラは渡さない」
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