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再びオリバー•ハミリオンの場合
しおりを挟む宰相補佐様はその日、どうやらイライラしているようだった。
いつもは貴族らしく優雅に歩くのに、絨毯に恨みでもあるのかと思うほど踵を強く鳴らしていたからだ。
触らぬ神に祟りなし
ハルは気にしないことにした。
「はー、落ち着く。くそっ、あんなに腹が立っていたのにこの匂いのせいで和んでしまったではないですか!」
十分まだ怒ってると思うのだが、本人的には収まってきたらしい。
「あーー、気持ちいい。
先程実家に呼ばれていたんですが、なんて言われたと思います?『文官で成り上がったところで意味はない』って言われたんですよ。筋肉しか取り柄のない脳なしどものくせに。」
ハミリオン家は代々騎士団長を多く輩出してきた生粋の体育会系らしい。
宰相補佐様のお父さんは中隊長様のお父さんに負けて騎士団長になれなかったらしいのだが、息子の代で起死回生を図ろうと思っていた。だが、宰相補佐様は宰相補佐になった。だから実家と仲が悪い。・・・・ということらしい。
普通、息子が宰相補佐になったら小躍りして喜ぶものだと思うが、やはり貴族の考えることは分からない。
「弟が無能だからと、私に期待を寄せるのはやめてほしいものです。」
宰相補佐様の言った言葉にハルはピクリと反応する。
「……フレッドさん、無能じゃないと思います。」
「!?ハルは弟を知ってるんですか?」
知ってる……というかここ最近は毎日のように顔を合わせている。
なぜなら彼は王宮に入るときの第一関門。門番だからだ。
前の不機嫌丸出しな門番と違って、毎回笑顔で挨拶してくれる好青年だ。
荷物チェックは誰よりも注意深く見るし、以前僕の前に荷物を確認されてた身なりのいい男性は実際に捕まってた。
門番の後には、第二関門の魔力フィルターを通らなければならない。
大抵そこで招かれざる客は引っ掛かるため、門番であんなに丁寧に仕事をする人は稀だと思う。
「毎日、門の前で会います。身分や見た目じゃなくて自分の目でしっかり判断されるところとか、宰相補佐様に似てます。」
「私と似てる……?」
宰相補佐様は目を見開いて驚いていたが、誰がどう見ても似てるだろ。とハルは心の中で静かにツッコんだ。
「弟は素直で社交的で誰とでも仲良くなれるような人間なんです。父の教えの通り騎士の道にも進みました。まぁ、あまり才能は無かったみたいですが。
それでも父も母も弟ばかり猫可愛がりしてます。」
それはつまり…………嫉妬?なのだろうか。
「僕は両親を知らないのでよく分からないのですが……。宰相補佐様は、庶民の僕から見ても十分凄いです。恐らくこの王宮中の人がそう思ってるはずです。
ご両親に可愛がられることってそんな最重要事項なんですか?
たかだか二人ですよ?」
宰相補佐様は目を丸くしてハルを見た。
「君は……そう考えるんですね。」
「血の繋がりとかは僕にはよく分からないので純粋に疑問に思いました。
血が繋がってる人に認められるのが重要ならフレッドさんは宰相補佐様のこと凄く褒めてました。」
「……フレッドが?」
「はい。会うたびに、『俺も早く兄さんみたいに人の役に立つ仕事がしたいなぁ』と。
あと、『兄さん、昨日も遅くまで頑張ってたから、いつもより多めに解してあげて』とも仰ってました。」
「………………そうですか。」
そう言ったきり、宰相補佐様は腕に顔を閉じ込めて黙り込んだ。出てる耳は赤かったが。
ハルも口を閉じて、椅子の座り過ぎでガチガチに固まった腰の歪みを正すのに集中した。
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