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誕生日の前の晩

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珍しく予定の合ったレオ、ゼノウ、オリバーの親友3人は夜、サロンに集まり酒を飲んでいた。


「あー、まだこの辺にハルの匂いが残ってるー。」

そう言って、ハルがいつも座っている椅子の背もたれに、鼻を押しつけるのはこの国の王太子だ。


「まぁ、君たちが来るまでハルはそこに座っていましたからね。」

物凄いドン引き顔でオリバーが答えた。

「ハルと言えば、明日誕生日らしいぞ。」

ゼノウは何の気なしにそう言うと、ブランデーを一口口に含む。


「そうなの?パーティーはどうする??」

何故か祝って当然!ぐらいの勢いでレオが言う。

「俺のプレゼントは決まってる。」

「私もそういうことなら、丁度ハルへのお礼に用意していた物があるのでそれをあげます。」

ゼノウとオリバーが口々に言った。


「えっ?俺……何も用意してない。」


シュンと項垂れるレオに、呆れたようにオリバーが声を掛ける。

「この間、ハルに助けてもらったお礼はどうしたんですか?」

「この間のお礼は報奨金にしたんだ。
モノをあげるとハルに迷惑がかかるかもしれないから・・・・。」

昔のことを思い出したのか、レオは苦い表情を浮かべた。

レオがまだ子供の頃、学舎の友人にどうしてもとせがまれて誕生日にぬいぐるみを贈ったことがある。

あげたときは大層喜んでくれたので、レオもそれを見て嬉しかったのを覚えている。
だが、プレゼントを渡した彼はその後すぐに陰湿な嫌がらせを受けて、退学してしまった。
そんな彼から暫くしてレオの元にズタズタに切り裂かれたぬいぐるみだけが送られてきた。

彼はその後精神を病んで今は修道院に入れられていると風の噂で聞いた。
それ以外にもレオの周りではそういった争いが絶えないし、無理やり番おうとするオメガまでいる。

それゆえレオはオメガに対しトラウマに近い感情がある。もはやオメガ恐怖症と言ってもいい。

ハルはそんなレオが心許せる貴重なオメガなのだ。
ハルにまで何かあったら・・・・考えるだけでも腹の中に黒いものが湧き上がる。


「ハルは人に言いふらすような性格じゃありませんし、プレゼントくらいあげても大丈夫だと思いますよ。」

「……俺もできるならハルに何か贈りたいな。彼にはいつも助けられてるから。
俺がプレゼントをあげてもハルの迷惑にはならない?」

「大丈夫だ。ハルも喜ぶと思うぞ。」

二人に肯定され、不安げだったレオの表情がやっと綻んだ。

「そっか……。何をあげよう。ハルは読書が好きだから本をあげれば喜ぶかもしれないな。」

頭の中にいろいろ候補を浮かべて、レオは嬉しそうに笑った。


「明日は建国記念日でみんな休みだよね?お忍びでハルの家にプレゼントを届けに行こうか。オリバーの空間魔法なら他の人間にバレる心配もないし。」


「あっ、それならイヴァンも呼んでもいいか?」

ゼノウが手を上げ、提案する。

「?別に私は構いませんが、なぜイヴァンを?」

オリバーは訝し気にゼノウに問うた。

「昨日、それとなく探りいれたらハルはイヴァンのファンらしい。それなら本人を連れて行ってやろうと思ってな。」

「ハルはイヴァンが好きなの……?」


「イヴァンが主役の本持って珍しく熱弁してたから好きなんじゃないか?」



「・・・・そうなんだ。」


いつも通り穏やかな笑みを浮かべるレオのその微弱な変化に気付く者はいなかった。
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