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第85話 意外な事実
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ドクター橋本の提案って一体なんだろう。
緊張しながら次の言葉を待っていると、ドクター橋本は、自分に言い聞かせる様に頷きながら話し始めた。
『火星からヒトの町への干渉は、極力抑えられてきた。人道的な観点から法整備が敷かれた為なんだけどね』
「……はい」
やっぱり話がよく見えない。聞き漏らさないよう、集中する。
『僕はこれから上層部にかけあって、地上との交流の推進を進言したいと思う』
「え! 出来るんですか!?」
地上との交流が決定すれば、うまくいけば小夏を火星に連れて行ってもらうことも可能かもしれない! 期待に胸を膨らましつつ、ドクター橋本の返答を待った。
『でも、上層部を動かすには、大義名分とメリットの両方の提示が必要になる。それは分かる?』
「……人道的な面から干渉を認める理由とは別に、何かしら利益が必要ってこと……ですかね?」
ドクター橋本は満足そうに頷く。
『正にそうだね。そこで人道的な観点から話をするとしようか。ヒトにとってのメリットは、亜人の恐怖に怯えずに暮らせる様になることじゃないかな。亜人にとってのメリットは、技術提供あたりかな。僕たち人間には、火星という本来人が住めない環境で生き延びてきた技術がある。地上の環境整備など、協力できることは多いと思う』
ドクター橋本の言葉は、やけにスラスラと出てきた。きっと、これまで幾度も考えたことなんだろう。だけど、人間にはそこに踏み込むきっかけがなかった。それは何故か。
『次に、僕たち人間にとってのメリットだ。今後交流が増えれば亜人とヒトの子供の協力を得られる可能性が増えるってこと、後は……インフラ整備が進めば経済も潤うしね。理由は考えれば、細かいことは沢山上げられると思う。互いの資源の交換とかね』
なるほどなあ、と感心しながら聞いていた私は、でもそれって今までも出来たんじゃないのかな、と疑問を覚えた。
「今までそれをしなかった理由って何なんですか?」
『理由? 簡単だよ。ヒトとは対話は可能でも、亜人との対話は武力行使以外可能じゃなかったからね』
「ああ」
私にぴったりとくっついているシスを見上げると、シスは私の視線に気づき、こめかみにキスをした。……うは。
『武力行使は人間の法律で禁じられているし、僕らもそこまでするつもりはない。すると、対話の道は断たれてしまうよね』
そもそも、同じ地上に暮らす亜人とヒトですら、ろくに対話出来ていない。そこによその星からやってきた人間が話をしたいと言ってきても、誰も相手になんかしないで排除しようとするかも。納得だった。
『そこで、小町さんとシスさんの出番だ』
「へ?」
随分とスケールの大きい話をしているけど、私たちの出番? どういうことだろう。
『各ヒトの町の代表には、ヒトの町に設置された管制塔経由で対話を開始する』
「すぐに信じますかね?」
私の言葉に、ドクター橋本は人の悪い笑みを浮かべた。
『見たところ、ヒトの技術は殆ど発展していないみたいなんだよね。管制塔に組み込んだ管理AIが与える知識を応用している感じかなあ。それに、これは最終手段だけど、ここから管理AIに干渉して活動を止めさせる……なんてことも、実は出来なくはないんだ』
「うわあ……」
『ふふ、あくまで可能性の話だよ?』
管制塔の司令機能はメガロポリスにあって、それを遠隔操作しているのが火星サイドなんだそうだ。万が一メガロポリスの司令機能が壊れてしまった場合、火星にある司令塔がマスターとなるらしい。
ヒトの町から科学がなくなったら困っちゃうだろう? とにっこり笑うドクター橋本を見て、この人案外食えない人だぞ、と認識を改める。味方ならいいけど、敵に回しちゃいけない人だ。多分。
『なので、小町さんとシスさんには、大使となってもらいたい』
「はい?」
意味が分からなくて聞き返すと、ドクター橋本はにこにこと続けた。
『ヒトの町の代表には、小町さんにヒト代表として交渉権を与える様にする。反発もあるだろうけど、そこは押し通すから安心してほしい』
ちょっと待て。ヒト代表? この私が?
『そしてシスさん、君がもし小町さんの弟さんを助けたいという気持ちがあるなら、君が亜人代表としてヒトと人間との対話が出来るよう、亜人を説得してはくれないか』
なんていう無茶振りだろう。あんぐりと口を開けてシスを見上げると。
「小町の弟は俺の弟だしな! それに吸血鬼一族だけなら話は簡単だぞー」
「え、そうなの?」
シスが事もなげに頷いた。
「俺が一族の集落を出てきたのは、宗主の座を受け継ぐには結婚が必要だって言われて、年上の女ばっかり並べて選べって言われて嫌で逃げた所為だからなー」
「……宗主? は?」
なにそれ。聞いてないんだけど。
シスが、にっこりと太陽の様な笑みを私に向ける。いや可愛いんだけど、そうじゃなくて。
「俺んとこは、各部族を統括している部族でな! 俺が一族を継げば、自動的に全吸血鬼一族の宗主になるってことだ!」
「ことだ、じゃないんですけど」
シスは、私のツッコミを華麗にスルーした。
「条件は妻帯だったからな! 小町という番が出来たから、これで集落に戻れば俺は宗主になるんだぞー」
だぞーじゃないし。
え、ちょっと待って。シスは偉い感じの地位にあるとは思ってたけど、え、まさかの一族代表? ……嘘。
シスが、幸せそうに私の眼尻にキスをしながら言った。
「周辺一帯の別の亜人はほぼ配下に収めたから、宗主の言うことは大体従うんじゃないかー?」
別の亜人を配下に収めてるって、まさかシスがしていた喧嘩のことだろうか。血の味ランキングを勝手に語っていた元となるそれが、その為のものだったとか。
あり得た。コイツならあり得た。権力よりも食い気の方が勝ってたから、それで説明がなかっただけなんじゃないか。
「……あの、じゃあなんでロウは知らなかったの?」
ロウと聞いて、シスの眉間に皺が寄る。本当に嫌いなんだろうなあ。
「人狼は他の種族と交流したがらないからな、住みにくくなったら移動しちまうし。他の種族の配下には収まりたがらないから、それで俺のことは知らなかったんじゃないかー?」
宗主の名は知れ渡ってはいても、跡取りの名前はそこまで広まってはいないのも一因かも、とシスが教えてくれた。
「そう……だったんだ」
「まあだから、アイツに言うことを聞かせれば、地方は制覇出来るかもなー」
そうだ。ロウも黒狼一族とかいう部族の跡目なんだった。
実は私は、とんでもない立場の亜人と番になってしまったらしい。シスは生活力はあるけど暫くは貧乏暮らしかなあなんて思ってたけど、どうやらそんな慎ましい生活にはならなさそうだ。
シスが、更に衝撃の事実をあっさりと口にする。
「亜人街は、サーシャに頼めばいけるんじゃないかー?」
「は? サーシャさん? なんで?」
何でここでサーシャさんが出てくるのかと首を傾げてると。
「なんでって……サーシャは、亜人街を治めてる三人いる連立議会の首長のひとりの娘だぞー?」
「いや聞いてないし」
どうして亜人って大事なことを言ってくれないんだろう。思わず愚痴が飛び出してきた。
「そういうの、普通言わない? シスが次期宗主なのも初耳なんだけど」
ふくれっ面で問い詰めると、シスは呑気に「んー?」と首を傾げてから、眩い笑顔でのたまう。
「そんな肩書より、力で圧勝する方がいいじゃないか!」
あ、はい、そうですよね。呆れた後、あまりにもシスらしくて吹き出した。
所詮肩書なんて、シスにとってはどうでもいいことなんだろう。もしかしたら、それも亜人全体の認識なのかもしれないけど。
私たちのやり取りを微笑ましげに眺めていたドクター橋本が、やや興奮した様子で言った。
「凄い、凄いぞ……! これなら僕が交易団として行ける日も近い……ふふ、ふふふふっ!」
「……はい?」
あはは、うふふとくねりながら喜んでいるドクター橋本を見て、私とシスは顔を見合わせた。
緊張しながら次の言葉を待っていると、ドクター橋本は、自分に言い聞かせる様に頷きながら話し始めた。
『火星からヒトの町への干渉は、極力抑えられてきた。人道的な観点から法整備が敷かれた為なんだけどね』
「……はい」
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『僕はこれから上層部にかけあって、地上との交流の推進を進言したいと思う』
「え! 出来るんですか!?」
地上との交流が決定すれば、うまくいけば小夏を火星に連れて行ってもらうことも可能かもしれない! 期待に胸を膨らましつつ、ドクター橋本の返答を待った。
『でも、上層部を動かすには、大義名分とメリットの両方の提示が必要になる。それは分かる?』
「……人道的な面から干渉を認める理由とは別に、何かしら利益が必要ってこと……ですかね?」
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『正にそうだね。そこで人道的な観点から話をするとしようか。ヒトにとってのメリットは、亜人の恐怖に怯えずに暮らせる様になることじゃないかな。亜人にとってのメリットは、技術提供あたりかな。僕たち人間には、火星という本来人が住めない環境で生き延びてきた技術がある。地上の環境整備など、協力できることは多いと思う』
ドクター橋本の言葉は、やけにスラスラと出てきた。きっと、これまで幾度も考えたことなんだろう。だけど、人間にはそこに踏み込むきっかけがなかった。それは何故か。
『次に、僕たち人間にとってのメリットだ。今後交流が増えれば亜人とヒトの子供の協力を得られる可能性が増えるってこと、後は……インフラ整備が進めば経済も潤うしね。理由は考えれば、細かいことは沢山上げられると思う。互いの資源の交換とかね』
なるほどなあ、と感心しながら聞いていた私は、でもそれって今までも出来たんじゃないのかな、と疑問を覚えた。
「今までそれをしなかった理由って何なんですか?」
『理由? 簡単だよ。ヒトとは対話は可能でも、亜人との対話は武力行使以外可能じゃなかったからね』
「ああ」
私にぴったりとくっついているシスを見上げると、シスは私の視線に気づき、こめかみにキスをした。……うは。
『武力行使は人間の法律で禁じられているし、僕らもそこまでするつもりはない。すると、対話の道は断たれてしまうよね』
そもそも、同じ地上に暮らす亜人とヒトですら、ろくに対話出来ていない。そこによその星からやってきた人間が話をしたいと言ってきても、誰も相手になんかしないで排除しようとするかも。納得だった。
『そこで、小町さんとシスさんの出番だ』
「へ?」
随分とスケールの大きい話をしているけど、私たちの出番? どういうことだろう。
『各ヒトの町の代表には、ヒトの町に設置された管制塔経由で対話を開始する』
「すぐに信じますかね?」
私の言葉に、ドクター橋本は人の悪い笑みを浮かべた。
『見たところ、ヒトの技術は殆ど発展していないみたいなんだよね。管制塔に組み込んだ管理AIが与える知識を応用している感じかなあ。それに、これは最終手段だけど、ここから管理AIに干渉して活動を止めさせる……なんてことも、実は出来なくはないんだ』
「うわあ……」
『ふふ、あくまで可能性の話だよ?』
管制塔の司令機能はメガロポリスにあって、それを遠隔操作しているのが火星サイドなんだそうだ。万が一メガロポリスの司令機能が壊れてしまった場合、火星にある司令塔がマスターとなるらしい。
ヒトの町から科学がなくなったら困っちゃうだろう? とにっこり笑うドクター橋本を見て、この人案外食えない人だぞ、と認識を改める。味方ならいいけど、敵に回しちゃいけない人だ。多分。
『なので、小町さんとシスさんには、大使となってもらいたい』
「はい?」
意味が分からなくて聞き返すと、ドクター橋本はにこにこと続けた。
『ヒトの町の代表には、小町さんにヒト代表として交渉権を与える様にする。反発もあるだろうけど、そこは押し通すから安心してほしい』
ちょっと待て。ヒト代表? この私が?
『そしてシスさん、君がもし小町さんの弟さんを助けたいという気持ちがあるなら、君が亜人代表としてヒトと人間との対話が出来るよう、亜人を説得してはくれないか』
なんていう無茶振りだろう。あんぐりと口を開けてシスを見上げると。
「小町の弟は俺の弟だしな! それに吸血鬼一族だけなら話は簡単だぞー」
「え、そうなの?」
シスが事もなげに頷いた。
「俺が一族の集落を出てきたのは、宗主の座を受け継ぐには結婚が必要だって言われて、年上の女ばっかり並べて選べって言われて嫌で逃げた所為だからなー」
「……宗主? は?」
なにそれ。聞いてないんだけど。
シスが、にっこりと太陽の様な笑みを私に向ける。いや可愛いんだけど、そうじゃなくて。
「俺んとこは、各部族を統括している部族でな! 俺が一族を継げば、自動的に全吸血鬼一族の宗主になるってことだ!」
「ことだ、じゃないんですけど」
シスは、私のツッコミを華麗にスルーした。
「条件は妻帯だったからな! 小町という番が出来たから、これで集落に戻れば俺は宗主になるんだぞー」
だぞーじゃないし。
え、ちょっと待って。シスは偉い感じの地位にあるとは思ってたけど、え、まさかの一族代表? ……嘘。
シスが、幸せそうに私の眼尻にキスをしながら言った。
「周辺一帯の別の亜人はほぼ配下に収めたから、宗主の言うことは大体従うんじゃないかー?」
別の亜人を配下に収めてるって、まさかシスがしていた喧嘩のことだろうか。血の味ランキングを勝手に語っていた元となるそれが、その為のものだったとか。
あり得た。コイツならあり得た。権力よりも食い気の方が勝ってたから、それで説明がなかっただけなんじゃないか。
「……あの、じゃあなんでロウは知らなかったの?」
ロウと聞いて、シスの眉間に皺が寄る。本当に嫌いなんだろうなあ。
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シスが、更に衝撃の事実をあっさりと口にする。
「亜人街は、サーシャに頼めばいけるんじゃないかー?」
「は? サーシャさん? なんで?」
何でここでサーシャさんが出てくるのかと首を傾げてると。
「なんでって……サーシャは、亜人街を治めてる三人いる連立議会の首長のひとりの娘だぞー?」
「いや聞いてないし」
どうして亜人って大事なことを言ってくれないんだろう。思わず愚痴が飛び出してきた。
「そういうの、普通言わない? シスが次期宗主なのも初耳なんだけど」
ふくれっ面で問い詰めると、シスは呑気に「んー?」と首を傾げてから、眩い笑顔でのたまう。
「そんな肩書より、力で圧勝する方がいいじゃないか!」
あ、はい、そうですよね。呆れた後、あまりにもシスらしくて吹き出した。
所詮肩書なんて、シスにとってはどうでもいいことなんだろう。もしかしたら、それも亜人全体の認識なのかもしれないけど。
私たちのやり取りを微笑ましげに眺めていたドクター橋本が、やや興奮した様子で言った。
「凄い、凄いぞ……! これなら僕が交易団として行ける日も近い……ふふ、ふふふふっ!」
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