可愛がっても美形吸血鬼には懐きません!~だからペットじゃないってば!

ミドリ

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第29話 規格外な亜人

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 シスは私に首輪を付けようとしたけど、如何せん不器用でリボン結びが出来ない。

 見かねた私がシスから首輪を奪い、結局は自分で装着してしまった。――ああ。ヒトとしての尊厳よ、サヨナラ。

 首輪を付けた私を見て、シスが満面の笑みになる。何でコイツはこんな嬉しそうなんだ。

「小町、似合ってるぞ!」

 あまり嬉しくはない。でも、シスは本気で嬉しそうだ。眼福ものの笑顔を見ているだけで、イライラが募ってきた。

 そんな私の苛立ちなど気付いていなさそうなシスが、おもむろに立ち上がる。

「小町、そろそろ風呂に行こうか?」
「そうね。本当にこれあったら襲われないんだよね?」

 シスは私の手を恭しく取って立ち上がらせると、興奮からか上気した顔でこくんと頷いた。色気ムンムンだけど、多分本人は自覚なし。一番厄介なやつだ。

 眉を寄せて、心配顔を作る。表情の豊かな奴だ。本当、子供みたい。

「それでも心配だから、風呂から上がってもひとりで街を彷徨くんじゃないぞー?」
「死にたくないからね」

 着替えを一式、小さめの袋に詰める。シスの説明によると、石鹸などは完備されていて、タオルも借りられるそうだ。

 私の手を握ったままのシスが部屋の鍵をしっかり閉めると、嬉しそうに私を見下ろした。

「ヒトを飼える亜人は、他の奴に奪われないくらい強い奴なんだってさ!」
「はあ」

 首輪を買う際に、何やら余計な世間話をしてきた様だ。ヒョコヒョコと歩くシスから漂う陽の雰囲気は、正直言ってうざい。

「だから、ヒトを飼ってるのは凄え奴ってことらしいぞ!」
「ふうん」

 これでシスの機嫌がやたらといい理由が分かった。

 強ければ強いほどいいと思っているシスにとってみれば、ヒトである私を連れ歩けば、亜人が大勢いる亜人街の中でも更に強い方と見られるからだ。強い俺は凄いぞってことだろう。

 全く、単純なんだから。

 横目で隣の青い髪の吸血鬼を見た。口角が緩やかに上がっていて、見惚れそうになり慌てて前を向く。

 主従の主は私だとシスだって理解はしているけど、どうしたって気分的に高揚してしまうんだろう。どう、私のこの分析力。

 シスは私の視線には気付かなかった様で、呑気に続けた。

「往復した時に他のヒトも何人か見かけたんだけどよー、大抵がおっさんばっかりだったぞ!」

 その理由は、きっとこれだ。

「女子供は街の外には基本出ないからね、街の外に出て捕まるのはおじさんばっかりなんでしょ」

 シスはそういう話をしたい訳じゃないのか、首を横に振る。意味が分からない。

「そうじゃなくて、小町が一番だってことだ!」
「へ……っ」

 唐突に一番とか言われると、どうしたってつい照れてしまう。そういえば、さっきから何度も可愛いって言われたのは、もしかしてやっぱりシスは私のことを――?

「若い女のヒトが一番価値あるらしいぞー!」

 あ、はい。ペットのランキングね。舞い上がりかけていた気分が、一気に冷静さを取り戻した。

 つまるところ、シスの中で私は家畜からペットに昇格したらしいけど、それ以上ではないんだろう。

 ――まあ、シスは亜人だし、私はヒトだし、別にいいけど。

 無事に済世区サイセイ・ディストリクトに帰還した後には、勿論勝手に外に出たお咎めはあるだろうけど、小夏を救う目的を達成出来れば、周りだって多少は目を瞑ってくれるに違いない。そうなれば、来年予定されているマッチングを私にも適用してもらえるだろう。

 となると、来年には結婚することになる。

 遺伝子レベルでマッチングされるから、美女の名前を冠する私にはとんでもない奴が充てられるとは思わないけど。

「――ん? どうした小町?」

 いつの間にか、じっとシスの横顔を見つめていたらしい。また前に向き直ると、視線を落とした。

「なんでもない」
「具合、まだよくなさそうだもんなー。夜は美味いもん食べようなー!」
「そう、だね」

 隣を歩くこの亜人より、容姿端麗な男は無理だろう。このアホな吸血鬼より素直で正直な男なんて、いるのかな。私を守ると言って、危険が迫ればひょいと抱き上げてくれる男じゃなかったらどうしよう。

「……無理だよなあ」

 思わず溜息が漏れると、シスが私の顔をいつもの様に正面から覗き込む。

「小町」
「ん? ――うわっ」

 シスは突然私を抱き上げると、発達した犬歯を見せてニカッと笑った。

「連れて行ってやるから、無理するな」
「え、いや、無理は別に」

 どうやらシスは、私の具合がまだよくないと思ってしまったらしい。

 シスは珍しく眉間に小さめの皺を寄せると、子供に言い聞かせる様に言う。

「俺は小町の護衛なんだぞ! もっと沢山頼ってくれよなー!」

 亜人に頼れと言われたヒトなんて、どれくらいいるんだろう。

 やっぱりシスは色々規格外な亜人なのかもしれない。食欲旺盛なのに、外の世界を見たいっていう好奇心を優先させるくらいだから。

「……ん、じゃあちょっと任せる」

 シスの肩に後頭部をもたれかからせる。耳を当てると聞こえてくる、シスの穏やかな心音。

 亜人なんて、信用しちゃ駄目なのに。

「おー。任せろ、小町!」

 どうして私はシスが隣にいて安心しちゃってるんだろう。

 その疑問については今は深く考えちゃ駄目な気がして、私は目を瞑るとシスの鼓動に意識を集中することにしたのだった。
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