雨宮課長に甘えたい

コハラ

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雨宮課長と温泉旅館

《3》

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レストハウスから遊歩道のゲートを通って渓谷へと下っていくと上にいた時よりもさらに濃厚な森の香りに包まれる。川の流れる水音や鳥の鳴き声もよく聴こえて、まさに大自然って感じ! 

日比谷公園を歩いていても、ここまでの大自然はさすがに感じられない。

テンション上がる! 来て良かった。

はしゃぎながら歩いていると、雨宮課長に転ばないようにって注意される。

「大丈夫です」って、言ったそばからズリって前かがみに滑った。
隣の雨宮課長が、支えてくれたので転ばずに済んだ。

「中島さん……」と、雨宮課長が何か言いたげに見てくる。

「すみません。返す言葉もございません。以後、気をつけます」

大げさに謝ると、雨宮課長が可笑しそうに笑う。

今日の雨宮課長はよく笑っている気がする。

課長の笑顔をたくさん見られて、なんか幸せ。

遊歩道を歩きながら雨宮課長が、最初に来たのはフラワームーンの願いの映画の撮影の時だったと話してくれた。

映画好きの雨宮課長は自分の作品がどんな風に制作されるのか興味を持ち、自分から撮影現場に足を運んだそうだ。

それで映画館の支配人藤原さんとも親しくなったと教えてくれた。
その頃の雨宮課長は21歳と聞いて、藤原さんが「雨宮くん」と呼んでいたのもわかる。

「今も映画の脚本書いているんですか?」

気になっていた事を質問すると、雨宮課長がNOというように首を振る。

「大学生の頃は作品を仕上げたら、いろんなコンクールに応募していたけど、引っかかったのは『フラワームーンの願い』だけだったんだ。そこからプロとして仕事を広げる人もいるけど、俺はね、そういうの向いていないと思ってやめたんだ」

「なんかもったいない気がしますけど。一度でも賞を取ったのなら才能があると思うのですが」

「ありがとう。でも、気づいたら書く意欲もなくなってしまってね」

雨宮課長が小さく息をついた。

「それよりも映画の配給がしてみたいと思ったんだ。実は中島さんが入社する前は宣伝部にいたんだ」

「えー! そうだったんですか!」

「うん。主に洋画の買い付けを担当していてね。カンヌ、ベルリン、ヴェネツィア映画祭は出張でよく行ったな」

知らなかった。

意外な事を聞いて雨宮課長にまた親しみを感じる。
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