雨宮課長に甘えたい

コハラ

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雨宮課長と温泉旅館

《4》

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その後も雨宮課長が担当した映画の話を聞いた。私も宣伝部にいたからうちが配給した作品は全て知っている。雨宮課長が買い付けた作品はどれも中々のヒット作だった。

雨宮課長って凄いなと思うばかり。

でも、なんで優秀なバイヤーだった雨宮課長が総務部に?

話を聞きながらそれだけが腑に落ちない。

私のように上司を怒らせて異動になったのかな?

「これ、中島さんに似てる」

雨宮課長がこけしのキーホルダーを手に取った。

遊歩道から戻って来た私たちはレストハウスに戻り、土産物店を見ていた。

雨宮課長が手に取ったのは親指サイズの目がくりっとした丸顔の可愛らしい顔をしたこけし。

「いえ、私、こんなに可愛くないですから」
「そうかな。中島さんって小動物っぽい可愛らしさがあると思うんだけど」

小動物?

課長の目には私は小動物に見えているの?

なんか、その言葉を聞いて課長に子ども扱いされるのがわかった気がする。

私って、大人の女性にはなれないのかな。

これでも、もう30歳なんですけど。

夕方5時近くに藤原さんが手配してくれた温泉旅館に到着した。
親戚が経営していると聞いていたから、家族経営しているような小さな旅館を想像していたけど、三階建ての大きな旅館だった。

フロントでチェックインすると出て来た鍵はちゃんと二本あった。

もしかしたら雨宮課長と同室になるかもしれないと、淡い期待を抱いていたけど、さすがにそれはなかったよう。

藤原さん、二部屋手配してくれたのか。そうだよね、男女が同じ部屋に泊まるとかってありえないよね。恋人でも夫婦でもないし、上司と部下だもんね。

「これは中島さんの鍵」

チェックインの手続きを終えた雨宮課長が部屋番号のキーホルダーが付いた鍵をくれた。そこには302号室とあった。せめて課長と同じ階だと良いなと思いながら、課長の手の中にあるキーホルダーの部屋番号を見た。

301号室。

えっ、もしかして課長とお隣さん?

壁に耳をつけたら課長の気配とか聞こえたりする?

「こっちの部屋の方が良かった?」

じっとキーホルダーを見ていると課長に訊かれた。


「いや、あの、お隣さんなんですね」
「みたいだね。壁が薄かったら中島さんの鼾が聞こえてきそうだね」
「鼾かきませんから!」
「新幹線では凄い鼾だったよ」

うそ……。

私、今朝の新幹線で鼾かいて寝ていたの?

どうして雨宮課長にはカッコ悪い所ばかり見られちゃうんだろう。

「というのは冗談。可愛い鼾だったよ」

クックックと雨宮課長が笑う。
なんか今日は雨宮課長にからかわれてばかり。
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