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第三章 祝祭の街

閑話 いくつになっても

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「ザイラスブルク公! レオニダス!」
「おいおい、遂に婚約か。この色男」
「おめでとう、良かったじゃないか。遂に相手を決めたんだな」
「しかもなんだ、またお前らしいと言うかなんと言うか……逆に見たことのないタイプの女性だな」
「うるさい」
「本当に黒髪なんだな、驚いたよ。それに…話に聞いた時はどんな女性かと思っていたが」
「なんだ」
「褒めてるんだ、睨むな。そして唸るな」
「ははは、随分と惚れ込んでいるんだな」
「しかしなんだ。苦労しそうだな、ここも居心地悪いだろうに…だから睨むなよ。健気で可愛いって話じゃないか」
「そう、分かる? 僕の義妹可愛いんだよね」
「分かる。なんていうか…猫、みたいだよな。猫ってさ、懐いたら甘えてくる感じが可愛いんだよな」
「お前に懐いてなどいない」
「だから唸るなよ」
「そうなんだよ! ふふ、拾われた猫みたいで可愛いだろ」
「俺は可愛いよりは美人な感じがするなぁ」
「アルベルトはまだ婚約……していたら王都が壊滅するか」
「しかし、百聞は一見にしかずだな。色だのなんだの言う人間もいるが、気にならないし話してみても感じがいいじゃないか」
「ふふ、そうでしょ、ありがとう、君いい奴だな」
「何だよ、知らなかったのか」
「好感なんて持つな! なんなんださっきから偉そうに!」
「凄い余裕のなさだな」
「あの選り取り見取りの男がねぇ」
「彼女が可愛いって言ってるだけだろ」
「おいそれ以上言ってみろ、お前の」
「はいはいそうだな、レオニダスにお似合いだ。その色だって彼女に合わせたんだろう」
「僕はもっと見せびらかせたいんだけどね、すぐレオニダスが囲っちゃうんだよ」
「今の様子を見てると想像に容易いな」
「踊らないのか? 彼女踊れるんだろ? 俺誘おうかな」
「ダメだ! おい、絶対にダメだ、髪の一筋だって触れるな!」
「お前…本当にレオニダスか? あんなに女性に対して淡白だった?」
「僕後で踊る約束したから」
「アルベルト!」
「だって僕は兄なんだよ。ふふ、いいでしょ、僕、おにいさまって呼ばれてるんだよ」
「……アルベルトがおにいさま……」
「ナガセはそもそもの育ちが良く思考も貴族のものとかけ離れていないから貴族教育も淑女教育も飲み込みが早い上に好奇心が旺盛で高度な教育を受けていたようだから学ぶ事の基礎が出来上がっているレオニダスの妻となるのに資質は問題なくナガセもレオニダスもお互いを思い合っているから末永く幸せに暮らせると私は解析しているぞ」

「「「べアンハート殿下にご挨拶申し上げます」」」
「なぜお前がここにいるんだ」
「侯爵に会いに」
「べアンハート、また護衛置いて来たでしょ」
「今いる護衛は中々見所のあるギフトを持っていて私が行動を起こす前に先回りをして来るものだから彼の隙をどのように突くのかここ最近の私の楽しみであるんだが今日は勝利したと思っていたら先程ホールの入り口でこちらを睨む彼を見つけてしまい引き分けだなと思ったよ今日もいい勝負だった」
「護衛と勝負するな」
「今の聞き取れたのかぁ。相変わらず仲良いなお前たち」
「よくない」
「仲がいいって言うかさ、べアンハートがレオニダスのこと好きだよね」
「やめてくれ」
「昔からレオニダスは私に的確なアドバイスを端的にしてくれる貴重な人物であるのは間違いないがだからと言って好きかどうか聞かれるとその事について考察した事がないが人間の好き嫌いには複雑な意味が幾つも含まれていてどの好きに当て嵌まるのか分からないがそうだなもしかしたらそ」
「べアンハート黙れ」
「よく躾けてるなぁ」
「こら、殿下だぞ」
「べアンハートだぞ?」
「いいんじゃない? べアンハートは気にしないよ、ね」
「ナガセに挨拶したいんだがどこにいる」
「無視」
「無視ってことは気にしてないってことだから大丈夫」
「俺、アルベルトが一番失礼だと思う」
「カ…ナガセは今外している」
「中々戻らないからさっきからソワソワしてるんだよ」
「さっきから話半分だろ、レオニダス」
「ああいた、壁際で立っているが婦人が近づいている上になんだあれは無礼だなちょっと行ってこようクラリッサの事も話さなければならないし」
「え」
「ああ、ちょっと…」
「行ってしまったな」
「うん、大丈夫だよアレでナガセのこと気に掛けてるんだから」
「あ、先越された」
「え?」
「あらら、やるな彼女。この場で一番高貴なお方とダンスだ」
「べ、…!」
「レオニダス、君が悪いよ」
「何故!?」
「あー、あのご婦人か。凄い顔してるぞ。淑女の仮面はどうした」
「なんだ、あっさりした関係じゃなかったのか?」
「よく今までトラブルにならなかったよな、あんなに取っ替え引っ換えだったのに」
「いや今トラブルになろうとしてる」
「何年も前の事で絡まれるなんてゾッとするな」
「はは、本当に余裕ないな、レオニダス全然聞いてないぞ」
「あ、おいダメだぞレオニダス、殿下のダンスは断れないんだから」
「そうだ、殿下に誘われて踊るなんて彼女の評判も上がるじゃないか」
「唸るなよ」
「こういう時くらいべアンハートには役に立ってもらわないとね」
「アルベルト、お前本当に失礼だと思うぞ」
「うわ、べアンハートが声出して笑ってるよ」
「珍しいな!」
「彼女、上手いじゃないか、ダンス」
「ナガセのギフトは音楽なんだけどね、きっとリズム感もいいんだろうね。僕の義妹はなんでも出来るんだよ」
「なんでも?」
「そうそう、料理も掃除も出来るんだ」
「…そこは刺繍とかじゃなくて? バーデンシュタインはそんな事までさせるのか?」
「本人が好きなんだよ。料理も本当に上手でね、この間作ってくれたパスタなんて…」
「なんだそれは、俺は食べてないぞ」
「まあなんだ、稀代の色男もすっかり一途に思う相手が出来たんだな」
「良かったな、後はアルベルトがどう逃げ切るかだな」
「アルベルトが婚約なんかしたら暫く王都は機能しないぞ」
「世の中、女性で回ってるからなぁ…」
「あ、曲終わった」
「ま、何にせよめでたい事だよ」
「そうだな」
「うわー、なんだあれ、本当にレオニダスか?」
「あんな顔見た事ないな」
「あれはダンスか? 抱き合ってるんじゃなくて?」
「ステップは踏んでる」
「俺たちは一体何を見せられているんだ…」
「ねえ、あのご婦人、どこの人か分かる?」
「え? ああ、あれはロンバード家のご婦人だろう。十年くらい前に夫君が亡くなって今は義弟が爵位を継いでいる。中々そっち方面は奔放で有名だぞ」
「レオニダスだって知り合ったのは七、八年前の話じゃないか?」
「ふうん」
「うわアルベルト、悪い顔してる」


「ふふ、僕はね、あの二人が幸せなのが何よりなんだよ」
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