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一時の③

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 明日はマーファに向かって出発だけど、特にすることない。ルームを主に使い、パーティーハウスは常にある程度掃除してあるしね。忘れ物がないかだけ確認。
 よし。いいかな。
 ホークさんにゆっくりして貰わないとね。
 空になったお弁当箱を洗い、エマちゃんは洗濯機を回す。
「ホークさん、ゆっくりしてください」
「ありがとうございます」
 どうしようかと思ったら、ゆっくり湯船に浸かりたいそうなので、異世界の湯に行ってもらい、私達も後から向かうことに。その間に、ルーティのダンジョンに繋がっているサブ・ドアの向こうでちゅどん、ドカン。ホークさん以外の鷹の目の皆さんが交代でドロップ品拾い、パーティーハウスでお留守番。
「わいもそろそろ風呂に行きたかっ」
 と、晃太がブーイング。
「そうやね。私も岩盤浴したか」
 私は従魔ズに集合をかける。
「さあ、帰るよ」
『そうなのですね。小腹が減ったのです』
『アリスも罠解除順調だし、一休みしましょう』
『ウム、サクサククッキーヲ所望スル』
『走り足りないのだっ』
「わふんっ、わふんっ」
『あ、そうなのだな。シルフィ達が腹を空かせているのだな』
「くうっ、くうっ」
 はいはい。賑やか。
 仔達もおやつと大合唱。
 サブ・ドアからルームに入り、おやつの準備。
「姉ちゃん、リスト」
 と、晃太が私にカルーラに帰って来てからの、ルーティのダンジョンで得たドロップ品のリストを出す。
 何々、ウサギの角が小が466、中が73、大が31……………増えてるう。ルーティの最下層のボス部屋はウサギが出る。もちろん普通のウサギじゃない。こちらはウサギ=角がある。試しに私が開けたら一般的に魔の森にいる角ウサギが10数匹。これはエマちゃんやテオ君でも1ぴき単位なら、単独撃破可能。で、更に一回りデカイ角ウサギが2~3匹。これは1匹につき、数人、もしくはパーティーで対応。次に更に大型が必ず1匹出る。これがファングさんの言う鎧貫通するやつね。うちのビアンカとルージュの敵じゃないけどね。ダンジョンでのドロップ品は角ウサギが10匹なら角が10本出ることはない。ダンジョンの魔物は解体された状態で出るけど、本来得られるドロップ品の半数以下。これだけの角があるけど、その倍数のウサギが出たことになる。
 レベル500のビアンカやルージュが開けると約10倍、レベル700の厄災クラスのイシスとアレスが開けると約20倍のウサギが出る。それで僅かこの数日でこの数。お肉や毛皮もすごい数。なんで蛇や猪な項目があるんよ。
「イシスやアレス達が散歩言って取ってきた」
「そうね」
 少しずつ提出やね。
 宝箱も豪勢やな。宝飾品にワイン、胡椒もある。ポーション類も、あら、これは。
「エリクサー?」
「そ、出たよ」
 7本も。これはヤマタノオロチの討伐の時に使うかもしれないし。引き取ろう。
「晃太、ポーション類はすべて引き取りね」
「分かった」
 さ、おやつも済んだし、皆お昼寝体勢やね。
『なんでところてんなのですかっ』
『物足りないわっ』
「つまみ食いしたのを知らんとでも?」
『『キーッ』』
 はいはい。
 私達は片付けて異世界の湯に向かった。

 はあ、岩盤浴気持ちよかった。マデリーンさんと一緒に行った。エマちゃんは途中でギブアップ。汗を拭くマデリーンさん、色っぽいなあ。一休みしていたら、結局仔達も来てしまい、一緒にお昼寝。
『むにぁ~、ねえね~』
 ヒスイが寝言。かわいか。貸し出しのブランケットをかける。私もうつらうつら。
 ………………………………………………
 なんや、おでこが、冷たか。冷たいのが当たって。
 目を開けると、顔面までに迫ったでっかい鼻面。
 寝起きに勘弁っ。いくら慣れてるからってっ、ちょっと心臓に悪かっ。
「なんね、ビアンカ、ルージュ」
『お腹空いたのです~』
『ところてんじゃ足りないわ~』
 ふわあっ。時間を確認。17時過ぎ。夕御飯時間やね。
 母は近くで花をだっこして寝てる。ルリとクリスも母にぴったり寄り添って寝てる。
 夕御飯は食事処にしようかね。
「はいはい。皆ば起こしてご飯にしようかね」
『分かったのです』
『任せて』
 ビアンカとルージュがペロペロに回る。
 喉乾いた。お茶でも買おう。
 ミゲル君とテオ君が悲鳴上げてる。
 私は自動販売機コーナーへ。
「あ、ホークさん」
 そこにはお茶のペットボトルを購入しているホークさん。綺麗に無精髭もなくなってる。
「ゆっくり出来ました?」
「はい」
 私は麦茶のペットボトルを購入する。
「本当は1日ゆっくりしてもらいたかったんですけどすみません」
「俺は大丈夫です」
 なら、いいけど。ホワイト目指しているのに、ブラック臭がしてきた。マーファに帰ったらしっかり連休にしよう。麦茶を一口、冷たくて喉ごしがよか。
 ん、なんや視線が。
 ホークさんが私を見てる。
「あの、ホークさん」
「あ、いえ、なんでもないです」
「気になるんですけど。あ、お腹減りました?」
 時間的にね。向こうで晃太が悲鳴上げてる。
「いえ、違いますって。その、ユイさん」
「はい」
 少し改まるホークさん。
「……………触れても、宜しいですか?」
 何故に確認? 散々ノワールに乗ってる時に密着してるのに? ノワールから降りる時は未だにドキドキやけど。餃子の具材として皮のホークさんに包まれるのは心地いい。
「ど、どうぞ」
 よく考えもせず、どうぞ。
 でも、ちょっとドキドキ。久しぶりに皮のホークさんに包まれるのかな。あれ、安心するんよね。
 ホークさんは少し目を細めて、私の手を引く。
 ? ? ?
 何々?
 誘導されるまま、私は連れていかれたのは、家族風呂がある個室。畳の部屋で、座布団やテーブルがある。あんまり使わないけど、何やろ?
「あの、ホークさ、」
 ん。
 と、言う前に、ちゅ、とされる。
 ひゃーっ、あれ以来のやつーっ。
 ひゃーっ、ひゃーっ、ひゃーっ。
 それからぎゅうと抱き締められる。うわあ、恥ずかしいっ。ノワールに乗るときは後ろからやけど、真正面は慣れない。慣れないけど、嬉しかっ。う、館内着越しでも鍛えられたホークさんの身体。うわあ、凄か。
 それから、ちゅ、ちゅ、とされる。私はされるがまま。嬉しいけど、嬉しいけど、ぼちぼち私の許容力オーバーするっ。ちょっと、ちゅ、ちゅ、しすぎやないっ。嬉しかけど。ちゅ、とすると、私の頭のネジが1つ飛ぶ。私のネジがなくなるっ。
 私はがっちりホールしていた、ホークさんのたくましい腕をタップ。
 名残惜しい様子で、離れていくホークさん。
 いかん、頭に血が上りそうや。
 は、いっぱいにちゅ、ちゅ、してしまった。ここは剣と魔法の世界。まさか、これで身籠ったりしないよねっ。  
 はい、私この時点での混乱ぶりが分かる思考だ。ネジが飛びすぎて想像以上に混乱していた。
「これで赤ちゃんできたりしませんよね?」
 はい、パニック。
 ホークさんがフリーズする。
「…………………子作りしますか?」
 どうやら、私のパニックがホークさんまで伝染してパニック。
 パニック。
 でも、直ぐに正常に戻る。
「すみません、おかしかですよねっ」
「いえ、俺の方こそ、我慢が、出来なくて」
 ホークさんがすごく申し訳なさそうな顔。
 え? 我慢? ホークさん、何を我慢したんやろ? いかん、一応私は主人やしね。うん、ホワイトな職場を目指さんと。
「そんな我慢とかせんでいいんですよ。ストレスとか貯めたらいかんしっ」
 私の答えに、再び、ホークさんフリーズ。
「あのですね、ユイさん」
「はいっ」
 ある程度の要求は受けますよ。
「俺は貴女を愛しています」
 ………………………う、嬉しかっ。
「家庭を築きたい、それに相応しくなりたい」
 う、うん、嬉しか。
「鷹の目のリーダーとして、戦闘奴隷として節度を守りたい。でも、ユイさん、ちょっと無防備ですよ」
「え?」
「こんなところに連れ込まれて、キスしても抵抗しないとなれば、事に至ってもいいと思われますよ」
 連れ込んだのは俺ですけど、と。
 ぼんっ、とネジが不足した噴火。た、確かに向こうでもそう取られる可能性があるっ。言い訳だけど、いままでこんなことに遭遇したことなかったし。
「ユイさん。少し俺は自惚れてます。貴女が俺を受け入れてくれていると」
 ホークさんの顔が近づいて、頬に、ちゅ。ネジがぽんっ。
「ほら、抵抗しない」
「うっ、それは、その」
 ホークさんを信頼しているというか、なんと言うか。モゴモゴ。
「嫌じゃ、ない、と言うか」
 モゴモゴ。
 ホークさんが顔を片手で覆う。
「……………本当に、貴女は………………」
 軽く頭を振る。
「ユイさん。それ、他の男に、言ってはダメですよ」
 物凄く真剣に言ってきた。
 あ、もしかしたら、こっちじゃ言ってはダメなワードかな? ほら、委ねますと同じように。
「特に二人きりの時には、嫌じゃないとか言われたら、ネジが飛びますよ。俺は我慢してますけど、あの男には絶対に言ってはダメですからね」
 ホークさんが言うあの男は、シュタインさんよね。一緒に行動していると、必ず、あのイケメンな顔で迫って来るから、ドキドキものなのよね。
「あの、異性を口説く言葉と同じなんですか?」
「違いますよ。こんな所で、二人きりで、そんなこと言われたら、手を出してもいいと解釈されますって」
 ………………そうだよね。落ち着いて考えたらそうだよね。わ、我ながら恥ずかしい。なんや、身持ちが悪いように思われそうや。気をつけんと。
「気をつけます」
 ホークさんが、再び、頬にちゅ。ネジがぽんっ。
「あ、そもそもホークさんの我慢の原因は?」
 そうだよ、それを解決しないと。視線を外しながら聞く。いかん、ちゃんとホークさんの顔みて聞かんと。やけど、直視しにくい。
「レディ・ロストークの為とはいえ、ユイさんと離れていましたから」
「え? 差し入れとかに行ってましたよね?」
 毎日ではなかったし、ルーティのダンジョンに行ったりしていたけどさ。
「あれじゃ、足りませんよ。我ながら女々しいとは思いますが。他の誰かが、ユイさんに触れていないか、やきもきしてました。それで久しぶりにユイさんが無防備に来たから我慢できなくなってしまって」
 じっと私を見る、青みがかった目が、切なそうに見える。なんや、嬉しい。ホークさんもそんな思いをしているんや。なんや、嬉しか。くすぐったいけど、嬉しか。しかし、私、そんなに無防備と言うか、隙だらけなんかな。
「わ、私も、ホークさんいないと、その、不安になったりしますし」
 安心感がね。やっぱり、いないと、何かちょっぴり不安なんだよね。それに、ホークさんに、ちゅ、てされるのは本当に嫌やない。恥ずかしいけど、安心できる。
 それは、きっと、私がホークさんに対する想いがあるんやろうけど、まだ、私はそれを言葉に出せるほどの度胸がない。私には、自信がない。以前の件を自分なりに解決したつもりだったけど、古傷として熱を持ち出している。
 また、見向きもされなくなるのでは、と。
 ホークさんはそんなことするような人ではない。誠実に人だと分かっている。今だって、無理にすれば、押し倒せたはず。それをしなかったのは、それこそホークさんの人柄を示している。
 ホークさんの気持ちに答えたい、でも、怖い。もう少し、ぬるま湯のようなこのままの関係がいい。凄いわがままや。幻滅されそうや。
 誤魔化そう。
「あ、今日から一緒ですから、問題解決ですねっ」
 ホークさんは、少し考える様子だけど。
「そうですね」
 そして流れる沈黙。なんとも気まずい雰囲気に。
「あ、ご飯にしませんか? ビアンカとルージュが待ってるし」
「はい、ユイさん」
 気まずいけど、私とホークさんはそっと個室を出た。
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