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一時の②

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 侯爵?
「ハルスフォン伯爵様は、侯爵に?」
「はい」
 おめでたいやん。
「以前から話はあったんですよ」
 パーヴェル様が説明してくれる。
 元々マーファはユリアレーナの首都だった。今は首都はサエーキに移されている。移された理由としては他国との交易の要所が、サエーキだったからだ。アルティーナ帝国との航路も、サエーキの近くクレイ港しかなかったしね。シーラやクラインともマーファより確実に近いしね。
 ユリアレーナは建国300年だけど、王国となるまでの間、初代女王のアレーナ女王が、確かな交渉術で交易を開拓。そして、海を越えた大国アルティーナ帝国との航路や交易を確保したことで、女王に押し上げられた。だけど、女王に就任した時はすでに還暦を越えていたため、在任期間は10年。その間に、今のユリアレーナの法律の原型を色んな人達と作り上げ、ユリアレーナの基礎を築き上げた。そこに尽力したのが、ユリ・サエキさんと、息子であるダイチ・サエキ様だ。
 その首都がサエーキに移された時に、アレーナ女王からマーファの統治を任されたのが、ハルスフォン伯爵様ね。
 長年、マーファを治めたこと。ガーガリア元妃がユリアレーナに嫁ぐ理由になった天候不良による農作物の打撃からマーファを回復させたことから、以前からハルスフォン伯爵を侯爵に、って話があった。フェリアレーナ元王女もハルスフォン伯爵嫡男であるセザール様に嫁ぐこともあったし。それを再三邪魔していたのは、ガーガリア元妃だ。しかし、ガーガリア元妃は無事に、アルティーナ帝国に帰ったしね。話が進んだと。
 そうなんや。おめでたいやん。
 実際に伯爵から侯爵になったのはつい最近。私達が王冠山に行ってる頃みたいで、パーヴェル様が知っているのは、首都に派遣した文官さん達からの情報だと。首都で正式発表されているけど、こちらまで情報が流れるのはまだ先だ。
「以前からあった話ですが、後押ししたのはやはり小児用の内服薬でしょうね」
 と、パーヴェル様は紅茶を一口。
 あ、気になってたやつや。
「認可されましたかっ?」
 私はちょっと前のめりで聞く。
 パーヴェル様は音も立てずにカップを置く。
「残念ながら。反対意見を押しきれなかったそうで」
「そんなあ」
 マーファで色んな人達が治験を頑張っていたのに。きっと小さな子供を持つ親達が待っているやろうに。
「反対の理由は?」
 晃太が納得出来ない感じで聞いている。
「やはり治験期間の短さもありますが、ハルスフォン侯爵へのやっかみもあったかと」
 パーヴェル様はため息つきたそうな顔。
 元々侯爵への昇格は、ユリアレーナ建国してから僅か数例。それだけの功績を、ハルスフォン侯爵様は長い年月かけて積み上げて来た。そこにセレドニア国王陛下の愛娘フェリアレーナ元王女の降嫁による、王家との繋がりが出来た事。そこに小児用内服薬の治験の功績が加わり、それをおもしろくない人達が、治験期間の短さを理由に反対。それこそ、侯爵への昇格でも反対する人達が多かったそうだ。
「確かに治験期間は短いですが、かなりの効果を得られていると結果が出ていました」
 なら何で認可されんとよ?
「種族間での比較が出来ていないと、そこを突かれて」
 種族。こちらの世界は人族だけやない。獣人やエルフやドワーフ、魔族等がいる。多いのは人族だけどね。
「症例の中で、純粋なエルフやドワーフ、魔族の症例が圧倒的に少ない事を上げたそうです」
「そうですか」
 種族が多いことによる問題なんかね。
 …………………………ん?
「純粋なエルフやドワーフの子供って、ユリアレーナにどれくらいいるんですか?」
 そう。純粋なエルフやドワーフなんて、あんまりお目にかかる事がない。エルフはケルンさんやエリアンさん、首都で付与でお世話になったテールムさんくらい。ドワーフはツヴァイクさんだけだし、魔族は多分マーファの商人ギルドのダーウィンさん。後はほとんどハーフとか、血が流れてますって感じの混血児ばっかりの人達。皆、成人している。子供は見たことない。マーファにいたかもしれないけど、機会がなくて会ってない。
「純粋、純血のエルフやドワーフの未成年は、ユリアレーナ王国での未成年割合は1%にも及びませんよ」
 やっぱり、あまり会ったことないって思ってた。
 確かに治験の症例は人族が多い、でもそれは仕方ない事。だって、人族が多いから。それでも皆が皆、自分が人族100%とは言いきれない。ハジェル君の様に自分のルーツがはっきり分かっていない人達が多い。それで種族鑑定なんてものがある。確かに、反対した人達の言うことも分からない訳ではない。大を助ける為に、小を危険に晒すのかって、言いたいんやろう。やけど実際に、薬を待っている人達がたくさんいるのに。
「少数とはいえ、いないわけではありませんからね。その治験を済ませない限り承認は難しいでしょう。薬師ギルドも意見が分かれ、来年まで治験は延期となりました」
 そんなあ。それじゃ、いつになったら認可されるの?
「しかし、直ぐにでも認可すべきだと言うもの達も多く、治験に対する協力者はすべて提携することになりました。私共イコスティ辺境伯もです。これでかなりの症例数になるでしょう。それに対して侯爵への昇格は、それを覆す程の正当な理由ではありません」
 その人達はハルスフォン侯爵様と同じ領主として、領地を治めている人達。
 そうなんや。治験の資金、大丈夫かな?
「それに治験や認可についてはミッシェル王太后様、ご正室のカトリーナ妃殿下、第二側室エレオノーラ妃殿下が擁護されております。会議の後の懇親会ではハルスフォン侯爵の働きを称賛されています。国も予算を組むことになり、これで後ろ楯を得たようなものです」
「では、来年度は認可されますか?」
「可能性は高いでしょうね」
 にこ、と笑うパーヴェル様。大丈夫そうやな。マーファに帰ったらダワーさんにも話出来るかな? まだ、晃太のアイテムボックス内にドラゴン丸ごと一体あるんよね。鼻水君がビアンカに献上したやつの、もう一体があるから。話の種にね。
 やけど、来年度かあ。仕方ないかあ。
 あ、そろそろお帰りの様子。
「あのパーヴェル様、こちらを」
 私はテーブルの上に簡易セーフティゾーンと魔法の水筒10本をテーブルの上に。
「ミズサワ殿?」
「先日、ルーティのダンジョンで手に入れました、簡易セーフティゾーンと魔法の水筒です。いくつも出たので、どうぞ騎士団で使ってください」
 説明すると、パーヴェル様は目が点になってる。
「え、これをですか? え、これ?」
「はい。私には必要ないですし、一つはこちらで確保していますから」
 うううーん、と悩むパーヴェル様だったけど、結局受け取ってくれた。
「ミズサワ殿感謝します。何がありましても、我がイコスティ辺境伯は貴方のお側におりましょう」
「ありがとうございます」
 帰り際、パーヴェル様はホークさんとお話される。ちら、と聞こえたけど、奴隷解放後に、カルーラに来ないかって話だった。冷や冷やした。
「身に余る光栄なのですが。俺は許される限り仕え続けたいと思っていますので」
 と、ホークさんが断っていて、心底安心した。やっぱりホークさんおらんとね。うんうん。
「ではミズサワ殿失礼します。騎士団や警備の寮に差し入れをしていただきありがとうございます。明日の出発にお見送りできませんが、どうかお気をつけて」
「ありがとうございます」
 きりっ、とご挨拶してパーヴェル様が帰っていった。
「さあ、ホークさん」
 見送って。
「はい。ユイさん」
「今から休憩ですよ。明日は出発ですから」
「はい」
 私達はパーティーハウスに入った。
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