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合流①

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  ジリリリィィィィィィッ

「いっ」
 ノワールが帰って来て15日ほど経過した日。まだ時々ハートマーク飛ばしているけどね。定期的に魔境の魔物を卸すためにギルドに通っていた。この日は、布や蜂蜜の買い取りをしてもらえるか話をして、サンプルを出して商人ギルドの方に見てもらっていた。商人ギルドの方はシャンレさんと言う中高年女性だ。丁寧に布を見てくれている最中に、この警報音だ。
 いきなりだからびっくりしたし、思わず頭を抱えてしまった。
「ユイさん、どうされましたっ?」
「姉ちゃんっ」
『ユイ、どうしたのですっ』
 手にした陶器のカップを落として割ってしまった。
「あ、あ、大丈夫。ちょっと。頭痛がして…………今日、もう失礼してもいいですか? サンプルを見てもらったのにすみません。カップを割ってしまって」
 多分、この音、イシスが警報器を押したんだ。合流せんと。
「いえ、構いませんよ。ミズサワ様、どうかお大事にしてください」
 シャンレさんは頭を抱えた私にびっくりして、許してくれる。音は止んで、落ち着いたけど、ここで説明できないし。
 心配したホークさんがわざわざ手を貸してくれる。もう大丈夫なんだけど、ご好意だし、甘えよう。
「姉ちゃん、どうな?」
「うん、大丈夫よ」
 ビアンカも心配そうにぴったり寄り添ってくれる。最後にもう一度シャンレさんに挨拶してギルドを後にする。急いでパーティーハウスに戻る。
 ルームを開けて、皆で入る。ドア、閉まったね。
「ユイさん、大丈夫ですか」
 ホークさんが心配そうに私の顔を覗き込む。
「はい、大丈夫ですよ。さっきですね。警報器の音が鳴ったのに、びっくりしちゃっただけです」
 私は心配してくれている面々に振り返る。
「イシスから合図が鳴った。さあ、合流するよ。神様からの依頼を始めますよ」
 さあ、気を引き締めんと。
 早速サブ・ドアを開けると、イシスとオシリスが鎮座して待っていた。鼻水君もだ。ビアンカの姿を見て、そわそわと近づく。途端にアレスが前に出て唸り声を上げて、鼻水君が受けてたつ。後ろで補佐役のウルフ達が、おー、みたいな顔だ。
「イシス、無事に引き継ぎ終わったん?」
『アア、全テナ。ヌシヨ、世話ニナル』
「クゥッ」
 唸り合うアレスと鼻水君はおいといて。
「イシス、合流の手筈はね」
 まずはもう一つのサブ・ドアで、魔の森の中に登録している方ね、そちらからイシスとオシリスを誘導する。そのまま近くで待機してもらい、私達が合流。カルーラに戻る。従魔登録もせんとね。
「ほら、アレス、もう唸らんよ。鼻水君、何かあったら警報器押してね」
 アレスと鼻水君は、ふんっ、とそっぽ向く。
「ほら、ビアンカ。鼻水君に頑張りって言ってやらんね」
『仕方ないのですね』
 ビアンカが鼻水君に寄り添う。わぁ、鼻水君の尻尾が煙を上げてバタバタしてる。先日無事にドラゴンステーキ食べてもらった。鼻水君は、よだれを我慢しながらも、鼻先でステーキ皿をビアンカに押し出していた。なかなか一途やね。まだあるから大丈夫よと言ったらばくばく食べてた。
『しっかり役目を果たすのですよ』
「わふんっ」
『近付き過ぎだ、バカ者っ』
『大人しくしてなさい』
 割って入ろうとするアレスに、ルージュが真っ黒な触手で拘束するが、ギリギリと千切れそうやけど。もう、賑やかやな。止めるのに、とうとう魔法使ったよ。補佐役のウルフ達におやつ。うろうろしていたお父さんウルフには晃太がお肉を放出。父が暖房器具を設置する場所も確認。何度も来てるし、イシスの説得もあり、お母さんウルフ達は警戒しているが、襲って来ない。赤ちゃん確認、かわいかっ。わぁ、ちっちゃいウルフがわちゃわちゃして一杯。栄養満点の冷蔵庫ダンジョンの牛乳を、出すと、わーっと来てくれた。あはははん、かわいかっ。くさかっ。小さいウルフが弾かれているので、別の皿に牛乳を入れてゆっくり飲んでもらう。よしよし。なんとなくだけど、赤ちゃんウルフの生存率の一因が分かった。体が小さかったり、力が弱かったりしたらこうやって弾かれる。結局栄養不足とかなって悪循環して、弱っていくんやな。全てを救えるとは思えないけど、私達が出きることしよう。
 やっと落ち着いて、もう一つのサブ・ドアにイシスとオシリスを誘導する。魔の森の洞穴に繋がっているので、洞穴を抜ける。
「しばらく、ここら付近におってね」
『分カッタ』
 私は作りおきのおにぎりを出す。
「これ食べとって。数日かかるけど、毎日ご飯は持って来るけんね」
 ルームを使えば、直ぐに迎えに行けるけど、厄災クラスの魔物が近くにいると思われると、あれだしね。数日の期間をおかんとね。
『分カッタ』
 サブ・ドアを閉める。
 さ、出発準備。
「お母さん、何日かおらんけど、よか? 醤油とか」
「ちょっと待ってね」
 母が冷蔵庫をチェック。
「卵と、豆腐と、魚と」
 結局、母とディレックスで買い物をした。
 色々準備して、装備品の確認。その日の夕方、カルーラを出た。城門の人達が、
「今からお出掛けですか? 暗くなりますよ」
 と、心配してくれた。
「ありがとうございます。大丈夫ですので」
 ほほほ。ビアンカとルージュ、アレスとアリスもいる。シルフィ達も馬車内にいる。アリスもそろそろ身体を動かしたいそうだ。仔達も並走する。馭者台には私とホークさん。
 勢揃いしたメンツを見て、無言で納得してくれた。
「さ、ノワール。お願いね」
「ブヒヒヒンッ」
 久しぶりの馬車、ノワールは快調に出発した。
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