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スカイラン③

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「み、ミズサワ様、お帰りなさいませ」
 わざわざ、案内してくれた男性職員さんが待ってくれていた。
 申し訳ない。
「ミズサワ様、そちらの籠の物は?」
「ダンジョンのボス部屋の宝箱から出たものです。買い取って頂けます?」
「もちろんでございます。さ、こちらに。あ、お持ちします」
「ありがとうございます」
 男性職員さんがギルド本店まで案内し、買い取り窓口で繋いでくれる。
「ありがとうございました」
「いいえ。では、ミズサワ様、またお待ちしております」
 買い取り窓口には、ちょっとお年を召した女性だ。穏やかな感じの笑みを浮かべてる。
「初めましてミズサワ様、査定・買い取り主任をしております、キーナと申します」
「ミズサワです、よろしくお願いします。魔石と武器などもあります」
「どうぞ、カウンターにお出しください。すべて査定させていただきます。では、早速拝見させて頂きます」
 キーナさんはカウンターに出された魔石や武器類、籠の中身をチェック。
「ボス部屋には何が出ました?」
「オルクです」
 軍隊ダンジョンは冷蔵庫ダンジョンと違って、同じボスが出るとは限らないそうだ。出現パターンはあったりなかったり。
「出来るだけパターンを把握したいので、ボス部屋に挑まれた後、お聞きすると思いますが、ご協力ください」
「はい」
 それくらいなら大丈夫だ。
 しばらくチェックして、査定終了。
「査定終わりました、まず」
 小粒魔石     6000 98個
 魔石       12000 22個
 ロングソード   40000 16本
 ショートソード  25000 8本
 弓        25000 5本
 片刃の斧     42000 7丁
 ナイフ      20000 13本
「で、こちらは」
 魔法の水筒    30万 8本
 絵具(48色)   20万 3箱
「え? これそんなにするんですか?」
 竹の水筒が30万とな。絵具も20万。高級~。
「はい、そうですよ。こちらはマジックアイテムですね。魔力を込めたら水が出てきます。ダンジョンの下層に臨む冒険者は、1つは確保したい一品となっております」
 ダンジョン内では、水は貴重品。セーフティゾーンにも湧き水があるが、何人もの飲料水を確保するには、心もとないし、たくさんの冒険者が並んで待っていると。この魔法の水筒は、一度に出るのはカップ2杯分。破損さえしなければ、ずっと使えるそうだ。それを考えたら30万、安いかも。いや、販売価格はもっとする。
「これがあるとないとでは、下層ダンジョン攻略に大きく変わります」
 下層になればダンジョンに潜っている期間も長くなる。そうなれば食料や飲料水等が相応に必要になる。この魔法の水筒があれば、ずいぶん変わるそうだ。
「1つお引き取りになります?」
「いえ、似たようなものがありますので」
 誤魔化す。私にはルームがあるから、食料や飲料水に困ることはない。キーナさんはそうですか、と。
 それから依頼書が一枚。
「絵具の依頼がございまして」
「へえ。スカイランって、金属が良く出るって聞きましたが」
「はい。主に金属が出ますが、スカイランの軍隊ダンジョンにはマジックアイテムや絵具が金属の次に出るんですよ。こちらの依頼書は絵具依頼ですね。スカイランの絵具は評判がいいんですよ」
 絵具の一つは依頼主の元に行くと。
 その額を引いた額、517万1000。絵具の依頼料30万。
 たった一回ボス部屋に行っただけなのに。
 金貨等を確認し、サインする。
 キーナさんにご挨拶してギルドを後にした。

 黒髪のテイマーを見送り、キーナは席を立つ。
 冒険者ギルドの奥のギルドマスター室に向かう。
 コンコン、とノック。
「キーナです」
『どうぞ』
「失礼します」
 ドアを押し開けて入ると、3人の人物が待っていた。
 奥の机には白髪頭の高齢男性、すぐ近くに背の高いスーツ姿の美しい女性、ギルド支店でユイを対応した中年男性。
「ご苦労、キーナ。座れ」
「はい」
 机の高齢男性、スカイラン冒険者ギルドマスターが着席を促す。
「失礼します」
「で、例のテイマーはどうだ?」
「ごく普通の女性ですね。感じの悪い方ではありません」
「ふむ。マーファの情報通りだな。従魔がいなければ、一般人と変わらないと」
 ギルドマスターが視線を移す。先には中年男性。
「従魔の戦闘力は? サハーラ、お前の見立てはどうだ?」
 サハーラと呼ばれた中年男性は肩をすくめる。
「情報以上かと。たった一度のボス部屋で、あれだけのドロップ品。単純計算してもレベル400とは思えません。20階の今までのオルクでしたら、最高数は15年前、『蒼の麓』が出した数ですが。今回はその倍以上。当時の蒼の麓のリーダーはレベル推定200だったはず」
 ボス部屋の数は、ドアを開けた者のレベルに左右される。レベルが高い者が開ければ、数が多くなる。ダンジョンによって異なるが、軍隊ダンジョンはレベルに応じて、ボス部屋の数が変わる。
「そうか。テイマーと従魔の関係はどうだ? 手に余るような感じだったか?」
「いいえ」
 サハーラは首を横に振る。
「よく管理されていますね。従魔達も従順な感じでしたよ。勝手にスキップシステムを使いダンジョンに潜りましたが、後に嗜めていました。あれだけの巨体の従魔を、何の恐れもせずに」
「そうか。ならいい。冒険者達には適宜妙な介入をしないように通達はしてあるが、問題は」
「わかっております」
 沈黙していたスーツ姿の女性が答える。ユイが冒険者ギルドに来た時に最初に対応した女性だ。
「兄には、きつく言い聞かせておきます」
「頼むなアステリ。領主は焦っているだろうが、下手な介入されてへそでも曲げられたらたまらん。それでその従魔に、敵認定されたら困るのは領主と、スカイランだ」
 アステリはこのスカイランの領主、ラーバフ伯爵の実妹。貴族女性はどこかの爵位のある家に嫁に行く以外、もしくは次男以降の男性は、よほどの資産か何かしらの実績がなければ、新たに爵位を受けれず、ほとんどが一般人となる。アステリは、貴族が通う学校を出て直ぐに冒険者ギルドに入った。地に足をつけての生活を送ることを選んだ。
 そのアステリの兄、ラーバフ伯爵が問題だ。
 ラーバフ伯爵には、3人の娘がおり、そのうち誰かを王子の妃にと画策している。ドラゴンも一撃する従魔を有するテイマーを囲い込み、ラーバフ伯爵の娘達を妃候補として下駄を履かせようと考えている。何故かというと、他に優秀な妃候補がいるため、ラーバフ伯爵の娘は一歩及ばないのだ。
「きつく言い聞かせておきます」
 凄みが浮かぶが、それでも美しいアステリ。
「よし、それぞれ対応を頼む」
「ギルドマスター、他のギルドには?」
 立ち上がったギルドマスターに、キーナが声をかける。
「これからマスター会議だ、各ギルドに再度通達しておく。同じことの繰り返しになるがな。集まってもらって感謝する。仕事に戻ってくれ」
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