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第3章 神に愛された女教皇
第69話 彼女が信じる神様
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『神様はいつでも私たちの事を見てくれているからね』
その言葉が、お父さんとお母さんの口癖だった。
教会の敬虔な信徒だった両親の影響を受けて、私も神様というものを信じるようになった。
神様は私たちを助けてくれない。神様は私たちに食べ物をくれない。
でも、信じることで心が救われるってお父さんは言ってた。
幸せだった。
お父さんと、お母さんと、妹。そして心の中に居る神様。
法国の外れにある辺鄙な街だけど、周りの人は優しかったし、楽しかった。
でも、幸せな記憶はそれでおしまい。
今となっては記憶というよりも、記録という形でしか覚えていない。
だってそのすぐ後は、地獄だったから。
小さくても幸せな街ではなく、お日様の光もない真っ暗な牢屋が私の世界になった。
優しいお父さんたちではなく、冷たく何も言わない鎖が私の一番近いものになった。
後をついてくるような可愛らしい子ではなく、私からすべてを奪うような子が私の妹だった。
私の事を人とも思わない人しか来ない地獄の中に居た。
お父さんもお母さんも、もう居ないと妹は言った。
妹だってもう居ないって、それを見てれば分かった。
もう私には何もない。全てを奪われて、残っているのはパインっていう名前だけ。
でもその名前だって、何の意味もない。誰かに呼ばれることもない。
だって、誰もが私を「おい」とか「お前」としか呼ばないから。
妹だったモノですら、私の名前を呼びはしなかった。
「神……様……」
たった一つ残ったのは、神様だった。
でも祈っても祈っても、神様はいつものように助けてくれない。
前は心を救ってくれたのに、今は心も救ってくれない。この地獄から連れ出してもくれない。
――どうしてですか?
私が何か悪いことをしたのですか?
私はお父さんとお母さんと幸せに生きたかっただけ。
なのに、邪悪な妹とも呼べなくなったモノが笑い、私が泣かなくてはならないのですか。
私は神様をずっと信じていたのに、どうして。
神様は答えてくれない。いつだってそう。神様は、意地悪だ。
神様なんて嫌い。大っ嫌い。私たちを助けてくれない神様なんて要らない。
妹に天罰を与えない神様なんて要らない。
神様なんて、要らない。
お前なんて、神様じゃない。オマエナンテ、イラナイ。
要らない、いらない、イラナイ。
神様……どうして……?
真っ暗で、冷たくて、怖くて、何もなくて、誰も居なくて。
でも、今までなかったのに光がある。小さいけど、大きい。
眩しいけど、幸せな光。
(あたたかい……)
胸が、体全体が温かい。
目を開けば、誰かが私をおぶってくれているのがぼやけた視界で分かった。
視界の隅で揺れる金の髪。白銀の鎧。そして眩しいくらいの金の光。
あぁ、そうか。この人が、この男の人が私の本当の。
神様だ。
神様が、苦しんでいる。私を護るために、戦っている。
辛いっていいながら、痛いっていいながら、必死に戦ってくれている。
私を救ってくれた神様。妹に天罰を与えてくれた神様。
あぁ、神様。神様のためならば、この身も心も魂も全て投げ出せます。
貴方に、私の全てを捧げます。
×××
今まで感じたことのない感覚だった。
シェイミの星域装備に対して、レオもザ・ブロンドを最大まで解放して渡り合った。
彼女が2つ目の星域装備を使用した際も、なんとか食らいつくことができた。
シェイミの2つ目の星域装備の能力を無効化するために、黒鉄のレガースを剣で斬ったところまでは良かった。
けれどようやく勝ちへの道筋が見え始めたところで、限界が来た。
ザ・ブロンドの反動で、体が悲鳴を上げ始めた。
状況は拮抗しているが、レオは後がなく、じわじわと体力を削られる。
一方でシェイミも疲労しているものの、彼女は3つ目の星域装備をまだ使用していない。
3つ使用しされてもザ・ブロンドならば勝負を決められることはない。
けれど、今この時点でレオの勝ちはない。時間が、レオの敗北を決めてしまう。
「……なにそれ」
それが分かっているからこそ、シェイミは冷たい目を向ける。
レオではなく、アリエスとリベラを射殺すほどの視線で貫く。
「よわくなった」
たった短い一言に、全てが凝縮されていた。
アリエス達と出会って、レオは弱くなった。そう言っているのが分かった。
護る者が出来て、お前は弱くなった、という言葉が心を貫いた。
レオだって分かっている。魔王ミリアを壊したときの方が、今よりも強い。
かつての自分は完全無欠で、何も護ることがなく、敵を壊し、世界を救うことに特化していた。
あの時の自分ならば、シェイミだって完封できると確信している。
それは分かっている。けれど、例えあの時の方が今よりも強かったとしても。
今の自分の方が、レオは好きだ。
世界という「目に見えない」誰かを救うよりも、アリエスやリベラ、そしてパインといった「目に見える」誰かを救いたい。
だから今の自分に後悔はない。
「…………」
シェイミの目が鋭くなり、攻撃が苛烈になる。
斬撃は防げても、体から抜けていく力は止まらない。
一撃、二撃、そして三撃目でレオは完全に押し負けた。
ザ・ブロンドの出力は落ちていない。けれど剣を扱えるだけの体力がレオの中にはもうない。
次の一撃は防ぎきれない。体で蒼を受ければ、今のレオならば両断されるだろう。
(ここ……までなのか……?)
自分が壊されることに恐怖はない。
他者を壊し続けてきた以上、いつかはこうなる運命だと分かっていたし、理解もしていた。
けれど自分が壊された後を考えると、笑顔を向ける白銀と金の少女たちを思い浮かべると。
そんな彼女たちが燃え盛る業火の向こうに消える姿を思い浮かべると。
レオ自身の力ではどうすることもできない、けれど確かに体内にある何かからコプリと黒いなにかが溢れた。
それに呼応するように、硝子の割れる音が響いた。
瞬間、背後に背負ったパインの腕に力が入った。
温かさが体を包み、硝子の割れる音が消え、何かが溢れる感覚も嘘のようになくなる。
熱が、気力を、体力を、力をくれるような、そんな錯覚を与えてくる。
いや、これは錯覚ではない、確かにあるものだ。
そうレオは悟り、剣を握り締め、力の限りに振るった。
魔王ミリアを壊したときと同じ、あるいはそれ以上の動きと力をもって、レオのザ・ブロンドはシェイミのフラッド・ヴァイスを弾く。
そして返す刃で彼女の胴を浅くだが斬り裂いた。
この戦いで初めてシェイミが受けた傷だった。
レオの様子の変化にすぐにシェイミは反応し、少し離れた位置に跳んだ。
表情は変えないものの、左手で自分の胸に手を当て、そこから血が流れていることを確認する。
彼女の雰囲気が、喜んだような気がした。
「……君は」
今なお自分に力をくれる背負った女性にレオは声をかける。
彼女は気絶していて答えないけれど、ずっと祝福をかけてくれている。
レオを奮い立たせ、さまざまな力を与える祝福を。
すぅと息を吐き、叩きつけるようにレオはシェイミに向けて叫ぶ。
「退け!」
ザ・ブロンドの開放に、パインによる援護。それにより、レオはこの戦いの死地を脱した。
ならば、今がこの戦いを終わらせる絶好の機会。
これで退かなければ、文字通りどちらかが壊れるまで戦うしかないと覚悟を決めたのだが。
「……そう」
あっさりとシェイミは大剣を魔法で収納し、両足を包む黒鉄のレガースも解除した。
迷いのないその動作にレオは内心で呆気にとられたが、表面上は警戒を緩めない。
しかしシェイミは何も言わずに来た道を戻り始めた。
向かう先は方角から考えてレーヴァティのようだ。
ザッ、ザッという草木を踏みつける音が来た時よりもやけに大きく耳に響いた。
小さくなっていく背中を見ながら、これだけ離れていても威圧的な重圧を出し続けるシェイミをじっと見つめる。
いつ彼女の気が変わるか分からない。もし今振り返って襲い掛かるようなことがあれば、今度こそ……。
ある種の恐れにも近い何かを感じたレオだったが、結局シェイミは振り返ることもなく夜の森の闇へと消えていった。
彼女の姿が消えたのを確認してようやくレオは息を吐くことができた。
同時にパインの祝福も消え、背後からは安らかな寝息が聞こえてきた。
終わった。自分はまだ壊されていない。
アリエスもリベラもパインも、まだ死んでない。
「……去り際まであんなに怖いなんて、災害なの?」
思い出しながらやや青い顔でそう呟いたリベラに、レオは全面的に賛成だった。
まるで嵐のような遭遇だったなと、しみじみと思う。
できればもう二度と戦いたくないものである。
その言葉が、お父さんとお母さんの口癖だった。
教会の敬虔な信徒だった両親の影響を受けて、私も神様というものを信じるようになった。
神様は私たちを助けてくれない。神様は私たちに食べ物をくれない。
でも、信じることで心が救われるってお父さんは言ってた。
幸せだった。
お父さんと、お母さんと、妹。そして心の中に居る神様。
法国の外れにある辺鄙な街だけど、周りの人は優しかったし、楽しかった。
でも、幸せな記憶はそれでおしまい。
今となっては記憶というよりも、記録という形でしか覚えていない。
だってそのすぐ後は、地獄だったから。
小さくても幸せな街ではなく、お日様の光もない真っ暗な牢屋が私の世界になった。
優しいお父さんたちではなく、冷たく何も言わない鎖が私の一番近いものになった。
後をついてくるような可愛らしい子ではなく、私からすべてを奪うような子が私の妹だった。
私の事を人とも思わない人しか来ない地獄の中に居た。
お父さんもお母さんも、もう居ないと妹は言った。
妹だってもう居ないって、それを見てれば分かった。
もう私には何もない。全てを奪われて、残っているのはパインっていう名前だけ。
でもその名前だって、何の意味もない。誰かに呼ばれることもない。
だって、誰もが私を「おい」とか「お前」としか呼ばないから。
妹だったモノですら、私の名前を呼びはしなかった。
「神……様……」
たった一つ残ったのは、神様だった。
でも祈っても祈っても、神様はいつものように助けてくれない。
前は心を救ってくれたのに、今は心も救ってくれない。この地獄から連れ出してもくれない。
――どうしてですか?
私が何か悪いことをしたのですか?
私はお父さんとお母さんと幸せに生きたかっただけ。
なのに、邪悪な妹とも呼べなくなったモノが笑い、私が泣かなくてはならないのですか。
私は神様をずっと信じていたのに、どうして。
神様は答えてくれない。いつだってそう。神様は、意地悪だ。
神様なんて嫌い。大っ嫌い。私たちを助けてくれない神様なんて要らない。
妹に天罰を与えない神様なんて要らない。
神様なんて、要らない。
お前なんて、神様じゃない。オマエナンテ、イラナイ。
要らない、いらない、イラナイ。
神様……どうして……?
真っ暗で、冷たくて、怖くて、何もなくて、誰も居なくて。
でも、今までなかったのに光がある。小さいけど、大きい。
眩しいけど、幸せな光。
(あたたかい……)
胸が、体全体が温かい。
目を開けば、誰かが私をおぶってくれているのがぼやけた視界で分かった。
視界の隅で揺れる金の髪。白銀の鎧。そして眩しいくらいの金の光。
あぁ、そうか。この人が、この男の人が私の本当の。
神様だ。
神様が、苦しんでいる。私を護るために、戦っている。
辛いっていいながら、痛いっていいながら、必死に戦ってくれている。
私を救ってくれた神様。妹に天罰を与えてくれた神様。
あぁ、神様。神様のためならば、この身も心も魂も全て投げ出せます。
貴方に、私の全てを捧げます。
×××
今まで感じたことのない感覚だった。
シェイミの星域装備に対して、レオもザ・ブロンドを最大まで解放して渡り合った。
彼女が2つ目の星域装備を使用した際も、なんとか食らいつくことができた。
シェイミの2つ目の星域装備の能力を無効化するために、黒鉄のレガースを剣で斬ったところまでは良かった。
けれどようやく勝ちへの道筋が見え始めたところで、限界が来た。
ザ・ブロンドの反動で、体が悲鳴を上げ始めた。
状況は拮抗しているが、レオは後がなく、じわじわと体力を削られる。
一方でシェイミも疲労しているものの、彼女は3つ目の星域装備をまだ使用していない。
3つ使用しされてもザ・ブロンドならば勝負を決められることはない。
けれど、今この時点でレオの勝ちはない。時間が、レオの敗北を決めてしまう。
「……なにそれ」
それが分かっているからこそ、シェイミは冷たい目を向ける。
レオではなく、アリエスとリベラを射殺すほどの視線で貫く。
「よわくなった」
たった短い一言に、全てが凝縮されていた。
アリエス達と出会って、レオは弱くなった。そう言っているのが分かった。
護る者が出来て、お前は弱くなった、という言葉が心を貫いた。
レオだって分かっている。魔王ミリアを壊したときの方が、今よりも強い。
かつての自分は完全無欠で、何も護ることがなく、敵を壊し、世界を救うことに特化していた。
あの時の自分ならば、シェイミだって完封できると確信している。
それは分かっている。けれど、例えあの時の方が今よりも強かったとしても。
今の自分の方が、レオは好きだ。
世界という「目に見えない」誰かを救うよりも、アリエスやリベラ、そしてパインといった「目に見える」誰かを救いたい。
だから今の自分に後悔はない。
「…………」
シェイミの目が鋭くなり、攻撃が苛烈になる。
斬撃は防げても、体から抜けていく力は止まらない。
一撃、二撃、そして三撃目でレオは完全に押し負けた。
ザ・ブロンドの出力は落ちていない。けれど剣を扱えるだけの体力がレオの中にはもうない。
次の一撃は防ぎきれない。体で蒼を受ければ、今のレオならば両断されるだろう。
(ここ……までなのか……?)
自分が壊されることに恐怖はない。
他者を壊し続けてきた以上、いつかはこうなる運命だと分かっていたし、理解もしていた。
けれど自分が壊された後を考えると、笑顔を向ける白銀と金の少女たちを思い浮かべると。
そんな彼女たちが燃え盛る業火の向こうに消える姿を思い浮かべると。
レオ自身の力ではどうすることもできない、けれど確かに体内にある何かからコプリと黒いなにかが溢れた。
それに呼応するように、硝子の割れる音が響いた。
瞬間、背後に背負ったパインの腕に力が入った。
温かさが体を包み、硝子の割れる音が消え、何かが溢れる感覚も嘘のようになくなる。
熱が、気力を、体力を、力をくれるような、そんな錯覚を与えてくる。
いや、これは錯覚ではない、確かにあるものだ。
そうレオは悟り、剣を握り締め、力の限りに振るった。
魔王ミリアを壊したときと同じ、あるいはそれ以上の動きと力をもって、レオのザ・ブロンドはシェイミのフラッド・ヴァイスを弾く。
そして返す刃で彼女の胴を浅くだが斬り裂いた。
この戦いで初めてシェイミが受けた傷だった。
レオの様子の変化にすぐにシェイミは反応し、少し離れた位置に跳んだ。
表情は変えないものの、左手で自分の胸に手を当て、そこから血が流れていることを確認する。
彼女の雰囲気が、喜んだような気がした。
「……君は」
今なお自分に力をくれる背負った女性にレオは声をかける。
彼女は気絶していて答えないけれど、ずっと祝福をかけてくれている。
レオを奮い立たせ、さまざまな力を与える祝福を。
すぅと息を吐き、叩きつけるようにレオはシェイミに向けて叫ぶ。
「退け!」
ザ・ブロンドの開放に、パインによる援護。それにより、レオはこの戦いの死地を脱した。
ならば、今がこの戦いを終わらせる絶好の機会。
これで退かなければ、文字通りどちらかが壊れるまで戦うしかないと覚悟を決めたのだが。
「……そう」
あっさりとシェイミは大剣を魔法で収納し、両足を包む黒鉄のレガースも解除した。
迷いのないその動作にレオは内心で呆気にとられたが、表面上は警戒を緩めない。
しかしシェイミは何も言わずに来た道を戻り始めた。
向かう先は方角から考えてレーヴァティのようだ。
ザッ、ザッという草木を踏みつける音が来た時よりもやけに大きく耳に響いた。
小さくなっていく背中を見ながら、これだけ離れていても威圧的な重圧を出し続けるシェイミをじっと見つめる。
いつ彼女の気が変わるか分からない。もし今振り返って襲い掛かるようなことがあれば、今度こそ……。
ある種の恐れにも近い何かを感じたレオだったが、結局シェイミは振り返ることもなく夜の森の闇へと消えていった。
彼女の姿が消えたのを確認してようやくレオは息を吐くことができた。
同時にパインの祝福も消え、背後からは安らかな寝息が聞こえてきた。
終わった。自分はまだ壊されていない。
アリエスもリベラもパインも、まだ死んでない。
「……去り際まであんなに怖いなんて、災害なの?」
思い出しながらやや青い顔でそう呟いたリベラに、レオは全面的に賛成だった。
まるで嵐のような遭遇だったなと、しみじみと思う。
できればもう二度と戦いたくないものである。
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