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第三幕・邪教撃摧(げきさい)(後編-02)
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「さて、子供騙しのトリックもタネ明かし出来ましたし」.
茉依子はニッコリと笑って翠を見る。
「それで、今日の御用件と言うのは一体?」
ワナワナと震え、両掌を握り締める翠。
「大体は終わりましたわ。口ほどにも無い。じゃあ、そろそろ失礼しましょうか。紅蘭さん」
「ああ、そうだな」
紅蘭も鋭い視線を翠へと向ける。
「そ、そうですか。それではっ!」
翠は顔全体を憎しみに震わせながら、踵を返し部屋を出て行く。
「教祖様」
苦虫を噛み潰した様な顔の翠に勇往瘍進大師が近寄った。
「【狂死蝶】を!」
翠の短い命(めい)の意味を察した勇往逼進大師は急ぎ足で表へと走り出る
「茉依子・・・」
不穏な気配を察した紅蘭が茉依子をチラリと見る。
「えぇ、良かったですわ。紅蘭さんが御一緒で」
そう言いながら、茉依子は紅蘭へと微笑を返していたのである。
【キラナ・統率教】本部を出た茉依子と紅蘭はタクシーを呼びもせずに、何かを誘う様にゆっくりと歩き続けていた。
「ねぇ、紅蘭さん。何処かで、お茶でもしませんか? 私、喉が渇きましたわ。あっ、丁度良い所に【星後珈琲】が有りますわ」
「そんな所に立ち寄るより先に」
「だって、【キラナ・統率教】さんは、お茶も出してくれなかったじゃないですか。もう、信じられませんわ! プンプン!」
「・ ・茉依子!」
ワザとらしい演技の茉依子、だが紅蘭の目は別のモノを捉えていたのである。
〈〈ドルルルッ ドルルルッ》
茉依子と紅蘭の進行方向の先に3台のバイクがエンジンを掛けたまま停まっている。
「全身黒尽くめのライダースーツに、黒ヘルメットですか。もしかして、【東京十字会】の方とかかしら」
「略して、【トージュー】とか?」
紅蘭も面白そうな笑みを浮かべる。
「アチラの方々は、紅蘭さんのファンかしら」
後を振り替えると、【狂死蝶】と刺繍の入った特攻服に身を包んだ人相の悪い男が5人集まっている。
「茉依子は、どっちが好きなタイプだ?」
「さぁ、ドングリの背比べですもの。どちらでも」
2人は顔を見合わせて、悪戯っぽく微笑む。
「では、後ろの奴等はワタシが引き受けよう」
「じゃあ、私は前のバイク部隊を」
「先に熾滅した方が」
「【星後珈琲】を奢って貰えると言う事で。悪いな、茉依子」
「あら、どうでしょうか」
「じゃ、我先走了!(お先にの意)」
言うが早いか、紅蘭は後方から迫って来る特攻服の一番に走り寄る。
「何だあ、あいつ? 頭おかしいんじゃ・・・」
そう言い掛けた男に向かって走り、加速を付けた紅蘭が勢いよくジャンプした。
<ヒュッ>
僅かに風を切った様な音が聞こえた瞬間――
<ガフッ>
宙を舞った紅蘭の足刀が男の顔面に叩き込まれた。
「あらあら、紅蘭さんったら。アレは痛そうですわね。ここからは暁蕾(シャオレイ)、お願いしますわね。紅蘭さんには内緒でしてよ、よろしくて」
そう言いながら、茉依子は前方でエンジン音を響かせる3台のバイクへと歩を進める。
「好的(OKの意」」
そう呟いて眼鏡のレンズをチラリと見た茉依子の顔つきが変わり、孫臏拳(そんぴんけん)の構えを取る。
「変な構えしやがって! ふざけてんのか、このアマぁ! やっちまえっ!」
中央に居たリーダーらしき男の合図と共に、2台のバイクが暁蕾を挟み込む様に近づいて来る。
<ウオォォォォンッ ウオォォォォンッ>
爆音を響かせて、暁蕾の両脇をギリギリで走り抜け様とした2台のバイク――
「覚悟するね」
そう呟いた暁蕾は両腕をスッと伸ばして、自らの両脇を走り抜け様とした2人の男の片肘に自らの両肘の左右を合せる。
「な、何っ!」
「う、うわああああつ!」
<キキィッ ガッシャーン>
茉依子の両脇をスレスレに走り抜け様とした2台のバイクはバランスを崩し、転倒したのである。
「全然、相手にならないね。テレビの見過ぎ、オートバイで人を引っ掻けると、とても派手に転んでしまうモノね」
苦笑する暁蕾の両脇で派手に転倒したバイクから放り出された男が2人、のた打ち回っている。
「ヘルメット被ってて良かったよ。そうで無かったら、今頃は」
転げまわって痛みを訴える2人の男に蔑みの視線で見つめる暁蕾。
「ヤローッ! よくもやりやがったなぁっ!」
<ウオォォォン ウオォォォン>
1人残ったリーダー格の男がアクセルを空ふかしして威嚇する。
「ワタシは女。ヤロウじゃ無いよ」
「ぶち殺してやる!」
リーダー格の男はバイクのリアシートに差してあったパイプから木刀を抜き出す。
「へっ、鉄芯入りの木刀だ。当れば、骨まで砕けるぜ!」
「当れば・ ・ネ」
ニコリと笑った暁蕾、その挑発に乗った男が右手でアクセルをふかし、左手で木刀を振り上げて迫って来る。
(っ?)
迫り来るバイクの爆音の中、茉依子の耳が僅かな異音を聞き取った――
(ふっ。妃弦(ひづる)の耳、流石だ)
声も無く、茉依子が微笑んだ瞬間――
<バ―ン!>
男が振り上げていた木刀が根本から吹っ飛ぶ。
「な、何だ? 何が起きたんだあぁぁぁぁっ」
振り下ろそうとした木刀を吹き飛ばされた男はバランスを崩し、バイクから振り落とされる。
「ふっ!」
無人となりコントロールを失ったバイクにヒラリと飛び乗った暁蕾は瞬時に体勢を立て直すと、そのまま紅蘭の居る方向へと走らせた。
(相変わらずの身のこなし、流石だな)
目の前の4人の特攻服を着た男達と対峙していた紅蘭は、横目でチラリと見た後にヒラリと身を躱した。
「お、おい! 危ねえ!」
「よっ、避けろお」
「ぎゃぁぁぁぁぁっ」
<ガッシャアァァァァンッ!>
ド派手な音を立てて、4人の男達を巻き込んでバイクが転倒し火花を散らした。
「痛え、痛えよぉ」
「誰か、救急車を呼んでくれえ」
情けない声を力無く上げながら、暁蕾と紅蘭の足元を転げまわる男達――
(御苦労様、暁蕾)
(不客气(どういたしまして)の意)
軽く頭を振ると、茉依子の表情に戻り、紅蘭に語り掛ける。
「さて、これは紅蘭さんの奢りですわね」
「いや、ワタシの勝ちだ。茉依子に奢って貰おう」
「え~! どうして、ですかあ?」
「さっきのは、茉依子では無い。ヤミに戻っただろ?」
「バレちゃいましたかぁ。でも、ヤミじゃ有りませんことよ」
「何? では、アレは誰だ?」
「それは次回のお楽しみにしておきましょう」
まるで何事も無かったかの様に佇む茉依子と紅蘭を物陰からジッと見つめている者が居た。
(そんなバカな【狂死蝶】が一瞬で全滅だと?)
ガタガタと震えながら、その一部始終を見ていた者――
(急ぎ、教祖様にご報告せねば)
慌てて走り出そうとしたのは、勇往邁進大師であった。
茉依子はニッコリと笑って翠を見る。
「それで、今日の御用件と言うのは一体?」
ワナワナと震え、両掌を握り締める翠。
「大体は終わりましたわ。口ほどにも無い。じゃあ、そろそろ失礼しましょうか。紅蘭さん」
「ああ、そうだな」
紅蘭も鋭い視線を翠へと向ける。
「そ、そうですか。それではっ!」
翠は顔全体を憎しみに震わせながら、踵を返し部屋を出て行く。
「教祖様」
苦虫を噛み潰した様な顔の翠に勇往瘍進大師が近寄った。
「【狂死蝶】を!」
翠の短い命(めい)の意味を察した勇往逼進大師は急ぎ足で表へと走り出る
「茉依子・・・」
不穏な気配を察した紅蘭が茉依子をチラリと見る。
「えぇ、良かったですわ。紅蘭さんが御一緒で」
そう言いながら、茉依子は紅蘭へと微笑を返していたのである。
【キラナ・統率教】本部を出た茉依子と紅蘭はタクシーを呼びもせずに、何かを誘う様にゆっくりと歩き続けていた。
「ねぇ、紅蘭さん。何処かで、お茶でもしませんか? 私、喉が渇きましたわ。あっ、丁度良い所に【星後珈琲】が有りますわ」
「そんな所に立ち寄るより先に」
「だって、【キラナ・統率教】さんは、お茶も出してくれなかったじゃないですか。もう、信じられませんわ! プンプン!」
「・ ・茉依子!」
ワザとらしい演技の茉依子、だが紅蘭の目は別のモノを捉えていたのである。
〈〈ドルルルッ ドルルルッ》
茉依子と紅蘭の進行方向の先に3台のバイクがエンジンを掛けたまま停まっている。
「全身黒尽くめのライダースーツに、黒ヘルメットですか。もしかして、【東京十字会】の方とかかしら」
「略して、【トージュー】とか?」
紅蘭も面白そうな笑みを浮かべる。
「アチラの方々は、紅蘭さんのファンかしら」
後を振り替えると、【狂死蝶】と刺繍の入った特攻服に身を包んだ人相の悪い男が5人集まっている。
「茉依子は、どっちが好きなタイプだ?」
「さぁ、ドングリの背比べですもの。どちらでも」
2人は顔を見合わせて、悪戯っぽく微笑む。
「では、後ろの奴等はワタシが引き受けよう」
「じゃあ、私は前のバイク部隊を」
「先に熾滅した方が」
「【星後珈琲】を奢って貰えると言う事で。悪いな、茉依子」
「あら、どうでしょうか」
「じゃ、我先走了!(お先にの意)」
言うが早いか、紅蘭は後方から迫って来る特攻服の一番に走り寄る。
「何だあ、あいつ? 頭おかしいんじゃ・・・」
そう言い掛けた男に向かって走り、加速を付けた紅蘭が勢いよくジャンプした。
<ヒュッ>
僅かに風を切った様な音が聞こえた瞬間――
<ガフッ>
宙を舞った紅蘭の足刀が男の顔面に叩き込まれた。
「あらあら、紅蘭さんったら。アレは痛そうですわね。ここからは暁蕾(シャオレイ)、お願いしますわね。紅蘭さんには内緒でしてよ、よろしくて」
そう言いながら、茉依子は前方でエンジン音を響かせる3台のバイクへと歩を進める。
「好的(OKの意」」
そう呟いて眼鏡のレンズをチラリと見た茉依子の顔つきが変わり、孫臏拳(そんぴんけん)の構えを取る。
「変な構えしやがって! ふざけてんのか、このアマぁ! やっちまえっ!」
中央に居たリーダーらしき男の合図と共に、2台のバイクが暁蕾を挟み込む様に近づいて来る。
<ウオォォォォンッ ウオォォォォンッ>
爆音を響かせて、暁蕾の両脇をギリギリで走り抜け様とした2台のバイク――
「覚悟するね」
そう呟いた暁蕾は両腕をスッと伸ばして、自らの両脇を走り抜け様とした2人の男の片肘に自らの両肘の左右を合せる。
「な、何っ!」
「う、うわああああつ!」
<キキィッ ガッシャーン>
茉依子の両脇をスレスレに走り抜け様とした2台のバイクはバランスを崩し、転倒したのである。
「全然、相手にならないね。テレビの見過ぎ、オートバイで人を引っ掻けると、とても派手に転んでしまうモノね」
苦笑する暁蕾の両脇で派手に転倒したバイクから放り出された男が2人、のた打ち回っている。
「ヘルメット被ってて良かったよ。そうで無かったら、今頃は」
転げまわって痛みを訴える2人の男に蔑みの視線で見つめる暁蕾。
「ヤローッ! よくもやりやがったなぁっ!」
<ウオォォォン ウオォォォン>
1人残ったリーダー格の男がアクセルを空ふかしして威嚇する。
「ワタシは女。ヤロウじゃ無いよ」
「ぶち殺してやる!」
リーダー格の男はバイクのリアシートに差してあったパイプから木刀を抜き出す。
「へっ、鉄芯入りの木刀だ。当れば、骨まで砕けるぜ!」
「当れば・ ・ネ」
ニコリと笑った暁蕾、その挑発に乗った男が右手でアクセルをふかし、左手で木刀を振り上げて迫って来る。
(っ?)
迫り来るバイクの爆音の中、茉依子の耳が僅かな異音を聞き取った――
(ふっ。妃弦(ひづる)の耳、流石だ)
声も無く、茉依子が微笑んだ瞬間――
<バ―ン!>
男が振り上げていた木刀が根本から吹っ飛ぶ。
「な、何だ? 何が起きたんだあぁぁぁぁっ」
振り下ろそうとした木刀を吹き飛ばされた男はバランスを崩し、バイクから振り落とされる。
「ふっ!」
無人となりコントロールを失ったバイクにヒラリと飛び乗った暁蕾は瞬時に体勢を立て直すと、そのまま紅蘭の居る方向へと走らせた。
(相変わらずの身のこなし、流石だな)
目の前の4人の特攻服を着た男達と対峙していた紅蘭は、横目でチラリと見た後にヒラリと身を躱した。
「お、おい! 危ねえ!」
「よっ、避けろお」
「ぎゃぁぁぁぁぁっ」
<ガッシャアァァァァンッ!>
ド派手な音を立てて、4人の男達を巻き込んでバイクが転倒し火花を散らした。
「痛え、痛えよぉ」
「誰か、救急車を呼んでくれえ」
情けない声を力無く上げながら、暁蕾と紅蘭の足元を転げまわる男達――
(御苦労様、暁蕾)
(不客气(どういたしまして)の意)
軽く頭を振ると、茉依子の表情に戻り、紅蘭に語り掛ける。
「さて、これは紅蘭さんの奢りですわね」
「いや、ワタシの勝ちだ。茉依子に奢って貰おう」
「え~! どうして、ですかあ?」
「さっきのは、茉依子では無い。ヤミに戻っただろ?」
「バレちゃいましたかぁ。でも、ヤミじゃ有りませんことよ」
「何? では、アレは誰だ?」
「それは次回のお楽しみにしておきましょう」
まるで何事も無かったかの様に佇む茉依子と紅蘭を物陰からジッと見つめている者が居た。
(そんなバカな【狂死蝶】が一瞬で全滅だと?)
ガタガタと震えながら、その一部始終を見ていた者――
(急ぎ、教祖様にご報告せねば)
慌てて走り出そうとしたのは、勇往邁進大師であった。
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