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最恐ドラゴンが踊る時。

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食事のあとはルンルン気分で家を出る。アストリッド様に本格的に人間の都市に行って、恋愛を教えろと言われたからだ。

今まで買い物に行くだけで、俺は人間の世界で生活したことはない。しかも他人と一緒に生活するなんて初めてだ。今日の昼ごはんと夕飯は何にしようかと楽しくなっていたら、ドラゴンに戻れとアストリッド様に命令された。

「別にいいですけど、もしかして俺の背中に乗りますか?」

それはぜひやって欲しい。

ドラゴンライダーという職種がある。竜騎士ともいうその職業はその名の通りドラゴンに乗る騎士で、人気職だ。少年漫画によく出てくる職業。実は俺も憧れていた。

この世界には『職業』がある。それは弱い人間に神が与えた特権だ。
人間は5歳になった時点で、自分が信仰する神の神殿に行って職業を得る。職業を得た人間は研鑽を積み、更に上級職へと転職していく。

竜騎士は戦士の最上級職のひとつだ。俺はドラゴンだから職業は持てないけれど、人を乗せることは可能だ。ぜひとも乗って欲しい。

「それもいいが、そうだな。まずはドラゴンの姿に戻ってもらおうか」

「はい!」

ドロンと化けてドラゴンの姿に戻る。アストリッド様が俺を見上げる。

「随分と大きいな……それが本来の姿か?」

「そうですよ!これが本来の大きさです。さっき戦った時は小さくなってました!」

ドラゴンの俺は体のサイズを変えるなんて簡単にできる。子犬サイズから、アストリッド様の3倍以上の高さにもなれる。

「私が知っているドラゴンは、体の大きさを自在には変えることはできないが……」

「だって俺は最恐ドラゴンですからね!」

ブツブツ言ってるアストリッド様の疑問をぽいっとさせるために、威張りながら発言してやった!乗り物になれるんだ!これ以上の会話は不要だ!

「では、這いつくばれ」

アストリッド様の言葉通りに這いつくばるよ。そうだよね。そうしないと乗れないものね!

「むぎゅ!」
思わずでた自分の声にびっくりした。

「ふええ?え?ええ?」
しかも次に出たのは戸惑いの声だ。

「あ……アストリッド……しゃま?」
しかも噛んじゃった。いや、この状況だ!噛むに決まってる!

「あ、、アストリッド様、何してん……るんですか?」

「は?当面の軍資金を手に入れるに決まってるだろう?」

俺は長い首をアストリッド様に向ける。アストリッド様は俺の尻尾を踏んでいる。それだけじゃない。なんと剣を掲げている。狙うのは……。

「待って!!待って待って!だって俺を生かしておいてくれるって言ったじゃないですか?」

「生かすに決まってるだろ。ただ、討伐証明の証で尻尾を切るだけだ。これだけのサイズだ。誰もがファフニールの尻尾だと納得するだろう」

「いやいや、待って待って、俺はトカゲじゃないよ!自切とかできない!痛い!痛い!絶対に痛い!嫌だから、痛いの嫌だから!俺はMの人じゃないの!Sの人の相手とか無理だから‼︎」

「SとかMとか意味が分からない。磁石じゃあるまいし」

「磁石はSとNだから!じゃなくてイヤイヤ、痛い!尻尾踏まれたところが痛い!ヤダヤダやだ!」

「うるさい!」

「んぎゃ――――――――――!!」

俺の悲鳴がお空に広がり、活火山がどかーんと一発噴火した。




◇◇◇





「……活きが良いな」

切り落とした尻尾は陸に上がった魚のようにビチビチと動いている。試しに先の方を握ったら、更に魚のように激しく跳ねる。

ドラゴンの尻尾を切り落としたことはそんなにないが、こんなに活きが良かっただろうか。何頭も倒した覚えはあるが、記憶にない。

「……それで?お前は何をしているんだ?」

振り返るとファフニールが活火山の噴火口に向かって祈りを捧げている。どこかから出した御弊ごへいをバサバサと振っているが、その尻尾は根本からない。更にまたもや血がダバダバと出ている。その姿は異様だ。

そもそも自切できないと言っていた尻尾は、抵抗なくあっさり切れた。あんまりにも手応えなく切れたので、地面に剣が当たるまで気がつかなかったくらいだ。

随分と違和感しかないが、一応、尻尾は切れた。首は切れるのだろうか?正直自信がない。

「おい、無視か?何をしている?お前の尻尾も切れたし冒険者ギルドに換金に行くぞ?」

ファフニールが涙目で、だがキッと睨みながらこちらを見る。

「待ってください!俺が叫んだせいで、活火山が噴火しちゃったんでしょ!だから噴火を抑えないと……このままでは周辺の住民にご迷惑をおかけしてしまいます。ううう、申し訳ないです、、噴火よ、鎮まりたまえ、山の神様、火の神様、願いを聞き届け給え~」

「ドラゴンのくせに神頼みしてどうする、そもそもこの火山が噴火したのはお前のせいじゃないだろう、たまたまタイミングが合っただけだ」

「俺のせいです!俺は火属性のドラゴンだから、地脈に影響を与えちゃうんです!いつも大人しく暮らしてたのに、さっきだって魔法無効空間アンチマジックエリアを作ったと同時に、地脈と大気に影響が出ないように、綿密な魔法を作ってたのに、なんで解いちゃったんだろう。俺のばか……、うう、鎮まり給え~」

「そんなわけ……」

ないと思うが、どうも分からない。

そもそもドラゴンは魔物としては最上位に位置するが、世界に影響が出るほどの魔力があるわけがない。だがファフニールが色々と規格外だ。今だって手に持っている尻尾が、体に戻ろうとしている。自己再生能力でもあるのだろうか。身体中にできていたポッカリ穴の空いた刺し傷も、頭にあった槍の跡も、もうない。

そもそも地脈と大気に影響を与えないようにする魔法ってなんだ?賢者の職業で全ての魔法に精通している私でも、そんなものは知らない。

「ああ!神様……山神さま~、ありがとうございます!感謝の踊りを捧げます!」

「はぁ!?」

間抜けな言葉が聞こえて、ファフニールをみると、るんたるんたと踊っている。
そして火山は何もなかったように、噴火が止まり、ドロドロと流れていた溶岩があっという間に、岩とかしている。噴火口からモクモクと出ていた溶岩の煙すらも消えている。

「……意味が分からない」

呑気に踊る最恐ドラゴンと、いまだにビチビチ動く尻尾にムカついたので、尻尾をファフニールの後頭部に思いっきりぶつけてやった。
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