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『疾風の狼』イチファが恐怖と出会う時。(1)
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ガヤガヤと騒がしいこの場所が好きだ。それは『剣士』から『魔法剣士』と転職できたことで、憧れだったA級ライセンスになり、更に俺が所属するパーティー、『疾風の狼』がBランクへと昇格した今となっても変わらない。
どがっと音を立てて椅子に座ると、短いスカートの色気満載のウェイトレスのお姉さんがやってくる。
「イチファにまた会えて嬉しいわ、いつもの?」
「ああ、いつもの」
「なんだよ、イチファばかりがもてやがる、俺には声をかけてくれねーの?こちとら命懸けで依頼をこなしてきたんだぜ?」
「次にあなたに聞く予定だったのよ。サードは相変わらずたくましい腕ね」
「『武闘家』の俺は腕力だけが自慢だからな」
サードは自慢の上腕二頭筋をピクピクと動かす。
こうやって冗談が言えるのも生きて帰れたからだ。今回の依頼はきつかった。正直、死を覚悟したくらいだ。
「俺にもいつものちょーだい。思いっきり濃くしろよな?アルコール濃度が低いお酒じゃ酔えないからな」
にかっと笑うのは『盗賊』のヨフォスだ。
今回の依頼で『盗人』から『盗賊』に転職できたから、嬉しくて仕方ないらしい。
「あたしはいつもの糖分たっぷりのケーキちょうだい。もう魔力が枯渇状態よ」
『中級魔術師』であるニセカは俺と同じA級ライセンスだ。今回の依頼は彼女無しでは達成できなかっただろう。
ここはレイヴォネン王国の中心地にある冒険者ギルド。7階建ての建物は1階が受付、2階が依頼案内所、3階が換金所、4階がギルド職員専有場所、5、6階は簡易宿泊施設、そして今、俺がいる7階は食堂となっている。
冒険者ギルドに席を置く者は、食堂や宿泊施設で社割が利く。俺にみたいにA級ライセンス保持者になれば、その割引率は7割!そうなるとここで飲み食いするに決まっている。
「今回の『疾風の狼』の依頼は、サラマンダー退治だったんだろ?ここにいるってことは、無事に依頼を達成したってことか。すげーよな。普通だったらサラマンダー退治はAランクのパーティーが依頼される仕事だ。これは『疾風の狼』がAランクになるのも時間の問題だな」
懇切丁寧に説明口調で話してる隣の席の奴らに思わず聞き耳を立ててしまう。
そう、その通り。実は依頼達成を報告に行った際に、ギルマスにAランク昇格を良い渡された。
俺たちは互いに目配せし合う。メンバーのニヤつく顔に、さらにニヤついてしまう。
今日は最高の日だ。酒が来たところで、ジョッキを掲げて乾杯をする。
隣の席の奴らの会話に更に聞き耳を立てると、もう話題が変わっている。
「なんか昨日か、一昨日にあの最強賢者アストリッドが来たらしいぜ」
「ああ、俺も聞いた。このギルドにいた全ての人間が気絶して、唯一ギルマスだけが会話できたって」
「ギルマスは元腕利きのA級ライセンスの保持者だからな」
「で、アストリッドはなんて?」
「なんか東にある活火山に最恐ドラゴン、ファフニールがいるから退治するとか、なんとか」
「はぁ?目撃情報がたま~にある、あのファフニール?眉唾物だと思っていたけど、まさか本当にいるのか?いないだろう?」
「ギルマスの夢だったりしてな~」
「違いねーや」
隣の席から笑い声が溢れている。
最強賢者アストリッド?最恐ドラゴン・ファフニール?全て夢物語だ。
「アストリッド……、相当な美人って聞くけど、実際どうなんかな?」
「サードは相変わらず女好きだなぁ。美人ってきけば恐ろしい女でも良いんだ」
「そういうヨフォスだって、気になるだろ?最強賢者だぜ?真祖を名乗る吸血鬼を倒して、魔王まで倒した。相当な報奨金を溜め込んでいるはずだ。しかも、美人!気になって気になって気になるに決まっているだろ」
「脳筋は言葉が足りないなぁ。でも気になるよな。美人で金持ち、一度で良いから会ってみたいよな」
「あたしは嫌だわ~、ギルド中が気絶したって言ってたでしょ?恐ろしいったらありゃしない」
ニセカのいうことはもっともだと思う。
でも俺から言わせて貰えば、そんな人間はあり得ない。ギルドの人間全員を気絶させるなんてことができるとは思えない。
仲間がわいわいと話している中、窓の外に目を移す。青い空が綺麗だ。
「――――っ!」
その時、突然感じたすさまじいプレッシャーに声が出ない。心臓を握り潰されるような痛み。額から落ちる冷や汗。恐怖から体が震える。息ができない。ただ目に前に迫ってくる死に、心が怯えるだけだ!
「うあ、――ああ」
なんとか視線を動かすと、俺の仲間が『疾風の狼』のメンバーが泡を吹いて倒れていく。周囲の人間も次々と気絶していく。バタバタと倒れていく音が死へのカウントダウンのようだ。
「――つ、まさ……か、ファフニールの……報復……なの?」
俺と一緒に唯一意識のあるニセカの声も震えている。紡いだ言葉は遺書のようだ。
アストリッドが討伐に行ったという最恐ドラゴン・ファフニール。御伽話の存在の眠れる最恐ドラゴンをアストリッドが起こし、そして敗れた。あり得る話だ。そして最恐ドラゴンは人類へ報復を開始する。
「ああ……俺は、俺たちは死んでしまうのか……」
自然に溢れる涙を拭うこともできない。人は簡単に死んでしまうと分かっていたはずなのに。
『疾風の狼』はAランクになったばかりなのに、終わってしまう。
このレイヴォネン王国もお終いだ。結婚することもなく、独身で終わってしまうなんて。
濡れるズボンを感じた時、壁が爆音と共に崩れていった。
どがっと音を立てて椅子に座ると、短いスカートの色気満載のウェイトレスのお姉さんがやってくる。
「イチファにまた会えて嬉しいわ、いつもの?」
「ああ、いつもの」
「なんだよ、イチファばかりがもてやがる、俺には声をかけてくれねーの?こちとら命懸けで依頼をこなしてきたんだぜ?」
「次にあなたに聞く予定だったのよ。サードは相変わらずたくましい腕ね」
「『武闘家』の俺は腕力だけが自慢だからな」
サードは自慢の上腕二頭筋をピクピクと動かす。
こうやって冗談が言えるのも生きて帰れたからだ。今回の依頼はきつかった。正直、死を覚悟したくらいだ。
「俺にもいつものちょーだい。思いっきり濃くしろよな?アルコール濃度が低いお酒じゃ酔えないからな」
にかっと笑うのは『盗賊』のヨフォスだ。
今回の依頼で『盗人』から『盗賊』に転職できたから、嬉しくて仕方ないらしい。
「あたしはいつもの糖分たっぷりのケーキちょうだい。もう魔力が枯渇状態よ」
『中級魔術師』であるニセカは俺と同じA級ライセンスだ。今回の依頼は彼女無しでは達成できなかっただろう。
ここはレイヴォネン王国の中心地にある冒険者ギルド。7階建ての建物は1階が受付、2階が依頼案内所、3階が換金所、4階がギルド職員専有場所、5、6階は簡易宿泊施設、そして今、俺がいる7階は食堂となっている。
冒険者ギルドに席を置く者は、食堂や宿泊施設で社割が利く。俺にみたいにA級ライセンス保持者になれば、その割引率は7割!そうなるとここで飲み食いするに決まっている。
「今回の『疾風の狼』の依頼は、サラマンダー退治だったんだろ?ここにいるってことは、無事に依頼を達成したってことか。すげーよな。普通だったらサラマンダー退治はAランクのパーティーが依頼される仕事だ。これは『疾風の狼』がAランクになるのも時間の問題だな」
懇切丁寧に説明口調で話してる隣の席の奴らに思わず聞き耳を立ててしまう。
そう、その通り。実は依頼達成を報告に行った際に、ギルマスにAランク昇格を良い渡された。
俺たちは互いに目配せし合う。メンバーのニヤつく顔に、さらにニヤついてしまう。
今日は最高の日だ。酒が来たところで、ジョッキを掲げて乾杯をする。
隣の席の奴らの会話に更に聞き耳を立てると、もう話題が変わっている。
「なんか昨日か、一昨日にあの最強賢者アストリッドが来たらしいぜ」
「ああ、俺も聞いた。このギルドにいた全ての人間が気絶して、唯一ギルマスだけが会話できたって」
「ギルマスは元腕利きのA級ライセンスの保持者だからな」
「で、アストリッドはなんて?」
「なんか東にある活火山に最恐ドラゴン、ファフニールがいるから退治するとか、なんとか」
「はぁ?目撃情報がたま~にある、あのファフニール?眉唾物だと思っていたけど、まさか本当にいるのか?いないだろう?」
「ギルマスの夢だったりしてな~」
「違いねーや」
隣の席から笑い声が溢れている。
最強賢者アストリッド?最恐ドラゴン・ファフニール?全て夢物語だ。
「アストリッド……、相当な美人って聞くけど、実際どうなんかな?」
「サードは相変わらず女好きだなぁ。美人ってきけば恐ろしい女でも良いんだ」
「そういうヨフォスだって、気になるだろ?最強賢者だぜ?真祖を名乗る吸血鬼を倒して、魔王まで倒した。相当な報奨金を溜め込んでいるはずだ。しかも、美人!気になって気になって気になるに決まっているだろ」
「脳筋は言葉が足りないなぁ。でも気になるよな。美人で金持ち、一度で良いから会ってみたいよな」
「あたしは嫌だわ~、ギルド中が気絶したって言ってたでしょ?恐ろしいったらありゃしない」
ニセカのいうことはもっともだと思う。
でも俺から言わせて貰えば、そんな人間はあり得ない。ギルドの人間全員を気絶させるなんてことができるとは思えない。
仲間がわいわいと話している中、窓の外に目を移す。青い空が綺麗だ。
「――――っ!」
その時、突然感じたすさまじいプレッシャーに声が出ない。心臓を握り潰されるような痛み。額から落ちる冷や汗。恐怖から体が震える。息ができない。ただ目に前に迫ってくる死に、心が怯えるだけだ!
「うあ、――ああ」
なんとか視線を動かすと、俺の仲間が『疾風の狼』のメンバーが泡を吹いて倒れていく。周囲の人間も次々と気絶していく。バタバタと倒れていく音が死へのカウントダウンのようだ。
「――つ、まさ……か、ファフニールの……報復……なの?」
俺と一緒に唯一意識のあるニセカの声も震えている。紡いだ言葉は遺書のようだ。
アストリッドが討伐に行ったという最恐ドラゴン・ファフニール。御伽話の存在の眠れる最恐ドラゴンをアストリッドが起こし、そして敗れた。あり得る話だ。そして最恐ドラゴンは人類へ報復を開始する。
「ああ……俺は、俺たちは死んでしまうのか……」
自然に溢れる涙を拭うこともできない。人は簡単に死んでしまうと分かっていたはずなのに。
『疾風の狼』はAランクになったばかりなのに、終わってしまう。
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