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しおりを挟むそしてクレメントは、再婚して温かな家庭を築いてほしいと、母親から懇願されていた。
国中の結婚適齢期の貴族を紹介されたそうだ。
全て断っていたクレメントだが、その中にフラヴィオ・レオーネの名があったことを思い出した。
『前向きに検討する』
気付いた時には、そう母親に告げていた。
先代公爵夫人はもちろんだが、アキレスも同様に大喜びだった。
なにせアキレスは、フラヴィオの正体を最初から知っていたのだから。
『シャールに話を聞いていたらしいが、私には黙っていたのだ。腹が立ったので、暫くふたりとは口を利かなかった。……だが、元々私は口数が少ないため、ふたりとも全く気にしていなかった』
(拗ねてふたりを無視していただなんて、なんとも可愛らしい一面だ)
そして、シャールとアキレスが全くへこたれていない姿が容易に想像できてしまったフラヴィオは、たまらずくすりと笑った。
『アキレスがヴィオを気にかけているのは、私の伴侶だからという理由だけではない。ヴィオの母上を、愛しているからだ』
驚愕するフラヴィオは、息を呑んだ。
それでも、初めてアキレスと出逢った日を思い起こせば、納得できる話だった。
アキレスは、フラヴィオを見た瞬間に『フローラ』と名を呼んだのだ。
フラヴィオの顔をまじまじと見つめていたかと思えば、たまに切なそうな顔をする時もある。
そしてなにより、フラヴィオにはいつも笑顔でいて欲しいと、アキレスは口にする。
(正直なところ、不憫に思われているのだと感じたこともあったのだが……。違ったのか)
アキレスがフローラを想っていたことは衝撃的だったが、同情されていたわけではなかったことがわかり、フラヴィオはほっとしていた。
『我々の間では知らない者はいないため、いずれヴィオの耳にも入ると思うが、先に伝えておく。ヴィオの母上を、今も昔も大切に想っている人がいることを、知っておいてほしい』
クレメントのあたたかな言葉が、胸に刺さる。
フィリッポには蔑ろにされていたが、フローラを心から愛してくれている人がいた。
そしてアキレスは今、息子であるフラヴィオを見守ってくれている。
(アキレス様が父親だったなら、文句無しに最高だっただろう。だが、仮にふたりが結ばれていたなら、私は生まれていなかったか……)
母にも幸せになって欲しいと、ずっと思っていたフラヴィオは、複雑な心境になる。
それでも気付いたことがあった――。
本を閉じて立ち上がったフラヴィオは、カーテンを開ける。
窓から外の景色を眺めれば、この度めでたく結ばれたふたりを祝福する者たちの中に、プラチナブロンドの美丈夫を発見する。
「クレム様っ、ちょっと行ってきます!」
「…………ん?」
怠い身体を叱咤するフラヴィオが、走る。
アキレスに伝えたいことがある。
もしかしたら、悲しむ内容かもしれない。
それでも今すぐに伝えたい衝動に駆られたフラヴィオは、懸命に足を動かした。
「はぁ、はぁ……」
「ヴィオ? どうした?」
「…………」
息を弾ませていたフラヴィオは、夫にじっとりとした目を向けずにはいられなかった。
なにせ平然と問いかけるクレメントが、駆けるフラヴィオの隣で、普通に歩いていたのだから……。
結局、夫に抱き上げてもらうフラヴィオが庭園に向かえば、皆は酒を飲んで騒いでいた。
「アキレス様っ!」
クレメントに下ろしてもらったフラヴィオは、ネモフィラの花を摘む。
それを、驚いたように目を瞬かせるアキレスに差し出した。
「母様の好きな花です」
「ええ。閣下より聞いております」
大切そうに受け取ったアキレスは、誰もが見惚れるような笑みを浮かべる。
きっとフローラを思い出しているのだろう、とフラヴィオは思った。
「母様は、ドレスも、ネックレスも、ハンカチも……。身につけるものは全て、青色のものを好んでいました」
「……そうでしたか」
穏やかに微笑むアキレスに手招きをしたフラヴィオは、そっと耳打ちをする。
「金色の髪に一番似合う色は、クレム様の色だと思っていましたが……。私の勘違いだったようです」
「…………――ッ!」
青色の瞳を見開いたアキレスが、ひゅっと息を呑んだ。
どこかで聞いたことのある言葉は、以前アキレスがフラヴィオにかけてくれたものだ。
「青色は、母様が一番好きな色で、母様に一等似合う色だと思います」
ネモフィラの花畑を見ると、フラヴィオはよく、アキレスの瞳と同じだと思っていたのだ。
母の本当の気持ちはわからない。
それでもフローラは、フィリッポの色を身に纏うことは一度もなく、いつも青を好んでいたことはよく覚えている。
フラヴィオが黒を好きになったように、フローラも密かな想い人の色を好きになったのではないか、とフラヴィオは思った。
「っ……ふ、……ぅっ……」
体が震えるほど歓喜するアキレスが、綺麗な涙を流しながら笑う。
フラヴィオはフローラではないが、青い瞳に溢れた抑えがたい喜びを見て取り、ゆったりと優しい笑みを向けていた。
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