期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん

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「でも、本当は……マルティンが欠場したから優勝出来たんです……」

 茶色の瞳を揺らすミゲルが、フラヴィオの顔色を窺っていた。
 マルティンが謹慎中だということを知っていたフラヴィオは、正直に話したミゲルの頭をよしよしと撫でる。

「もしマルティンが出場していたとしても、ミゲルが勝ったかもしれないだろう? 私はそう信じているし、今回は運もミゲルに味方してくれたんだよ」

「っ……」

 優しい言葉をかけてくれる最愛の兄に見惚れるミゲルは、ジンとする胸を押さえる。
 会えない期間にまた美しくなっていると、ミゲルの目はフラヴィオに釘付けだった。

 一方、隣から向けられる熱い視線に気付かないフラヴィオは、マルティンの謹慎期間が、随分と長いことが気にかかっていた。

「マルティンが謹慎中だということは、シャーリー様からも聞いていたが……。やはり、私が関係しているのか?」

「いえ! 兄様は悪くありませんっ! マルティンは、ジラルディ公爵閣下の不興を買ったんです!」

 国の英雄の名が上がる。
 それは相手が悪かったな、とフラヴィオは肩を竦めた。

「閣下は、レオーネ領民を脅かしていた賊を、ひとり残らず捕縛してくださったのです」

「っ、そうだったのか。公爵閣下には、感謝してもしきれないな……。だが、マルティンにその気はなかったが、公爵閣下の手柄を横取りしようとしたと思われたわけか」

「はい。きっと、兄様に好かれようとしたのではないでしょうか? それでバチが当たったんです!」

「ふふっ、随分と嬉しそうだな? ミゲル」

 揶揄うように告げたフラヴィオが、片方の口角を持ち上げる。
 顔を真っ赤にするミゲルが「うっ」と、図星を突かれたような声を出す。
 今もミゲルがマルティンを嫌っていることを知っているフラヴィオは、くすくすと笑っていた。

 和やかな空気になっていたのだが、ミゲルは浮かない顔付きになる。
 そして領地を国に取り上げられた話を聞いたフラヴィオは、「そうか」とだけ返答していた。

 ミゲルの口からは、キャシーの名が出てこない。
 もしかすると、キャシーの独断でメッセージをくれたのかもしれないと判断したフラヴィオは、今はなにも知らないふりをすることにした。

「それで、レオーネ領の新たな領主に、ジラルディ公爵閣下が指名されたんです」

「……そうか。賊の件がなかったとしても、妥当だろうな」

 フラヴィオがそこまで落胆していないことに、ミゲルは驚いたように目を瞬かせる。

「僕……兄様が、ショックを受けると思っていたのですけど……」

「ああ。適任者ではあると思うけど、大物すぎて驚いていただけだよ。でも、きっと領民は喜んでいるはずだろう? だから、そんなに悲しくはないかな?」

 自分が情けないとは思うが……。とまでは口にしなかったフラヴィオは、にこりと微笑んだ。
 ぎこちなく笑ったミゲルが、沈黙する。
 縁談の話だろうと察しているフラヴィオは、そっとミゲルの手を包み込む。

「ミゲル。なんとなくだが、想像がついている。話してくれ」

「っ、ジラルディ公爵閣下が……兄様を、後妻として、迎えたいと……」

「っ、」

 心構えをしていたフラヴィオだが、まさか相手が国の英雄だとは思わず、固まってしまった。
 そんなフラヴィオをじっくりと見ていたミゲルは、慌てて口を開く。

「元々、縁談の話は上がっていたみたいです。でも、母様の仕業ではありません」

「…………私が指名されたのか?」

「はい。きっと、兄様のデタラメな噂を信じていらっしゃるのかと……」

 公爵閣下が、伴侶にも強さを求めていることを知っていたフラヴィオは、言葉を失っていた。

「だから、僕ではダメなのかと言ってみたのですが……。僕の力不足で……。ごめんなさいっ」

「ミゲルが謝ることじゃない」

 フラヴィオは、頭を下げようとするミゲルを抱き寄せる。

「それに公爵閣下は、前妻を今でも愛しておられるのです。跡取りのためとはいえ、後妻を迎えるなんて考えられない……」

 口を閉ざしたミゲルが俯き、どんよりと落ち込んでしまっている。


「なるほど……。つまり、閣下は妻ではなく、有能な部下を迎えたいということか」


 そう結論に至ったフラヴィオは、どう足掻いても公爵閣下の期待には到底応えられないと、絶望で体が冷たくなっていくのを感じていた。












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