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しおりを挟むミゲルが寮に入ると同時に、レオーネ伯爵家に雇われた青年が届けてくれたのだろう。
ダリオという名の青年だ。
貴族の子息が学園に入学する際には、使用人を連れて行けるのだが、その為に雇ったわけではない。
心配性のミゲルが、残されたフラヴィオのために頼んでくれたのだろう。
ダリオはミゲルの古くからの友人であり、ミゲルとフラヴィオの仲を知っているようだ。
そうでなければ、ミゲルからの手紙がフラヴィオのもとへ届くはずがないのだから――。
療養中の楽しみである、ミゲルからの手紙を読み始める。
重石など必要のないほど分厚い手紙には、学園でのことより、フラヴィオを心配する内容が大半だ。
あたたかい手紙に頬が緩むフラヴィオだが、最後の一枚に目を通し、絶句した。
――学園では、フラヴィオは手のつけられない暴君であり、表には出すことの出来ない野蛮人だと噂されている。
いくらミゲルが、根も葉もない噂だと否定しても誰も信じてくれない。
それでも必ず噂を払拭しますと、力強い字で書かれていた。
(これは、困ったことになったな……)
病に蝕まれているものの、いずれフラヴィオはレオーネ伯爵家の当主となる。
悪評が立っては、今後フラヴィオが当主として動く際に支障が出てしまう。
金を管理していたフローラが亡くなり、きっとフィリッポとミランダはやりたい放題だろう。
領民のことなど考えていないことくらい、軟禁されている状態のフラヴィオでも、容易に想像ができていた。
情報収集をする必要があると判断したフラヴィオは、まずは身近な者を味方につけようと動くことにした。
◇
――翌朝。
早速フラヴィオは、行動に出る。
夕飯抜きだったフラヴィオは、薬を飲んでいないためか、そこまで体調は悪くない。
それでも空腹には違いないが……。
フラヴィオが起きていたことに驚いたメイドふたりだったが、いつものように掃除を始める。
「すまないが、机の引き出しからブローチを取ってくれないか? エメラルドのやつなんだが……」
背の高い方のメイドに頼めば、目が泳いだ。
いつもは頼み事などしないフラヴィオが、声をかけたからというわけではないだろう。
瞬時にそのことを見抜いたフラヴィオだったが、笑顔でお願いする。
彼女はどちらかといえば真面目な性格だろう。
探せと言えば、探してくれるはず。
そう判断したフラヴィオは、その場で固まっているメイドに視線を送り続けた。
すると、同僚がなかなか動かないことに焦れた丸顔のメイドの方が、引き出しを開けて中を漁る。
「そんなもの、ありませんよ?」
「……おかしいな。もっとよく探してみてくれないか?」
「きちんと探しましたけど、見当たりません。私たちが働き出した時から、なかったと思いますよ?」
「いや、あのブローチだけは必ずあるはずだ」
引き下がらないフラヴィオに、丸顔のメイドがふくれっ面をする。
引き出しの中のものをすべて机に置き、これでどうだとばかりに仁王立ちしていた。
困ったように首を傾げるフラヴィオは、そのブローチをとても大切にしていたことをアピールする。
それでもないものはない。
すでにどちらかが、換金しているのだろう。
それをわかっていて、フラヴィオは悲壮感を漂わせ、笑って見せた。
「私の母上の形見なんだ」
「「っ…………」」
さすがにまずいと察したのか、見る見るうちにふたりが青褪める。
沈黙が流れたが、焦った丸顔のメイドが部屋中を探し始めた。
彼女が必死な形相になっているのは、ありもしないブローチを探しているわけではなく、なんと言い訳をしようかと考えているのだろう。
単なるお喋り好きのメイドだと思っていたが、その姿を観察するフラヴィオは、意外と賢い子だと思っていた。
そして戻ってきた彼女が、震える口を開く。
「は、伯爵様が、以前、フラヴィオ様のお部屋に来たことがありました……」
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