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 ミゲルが寮に入ると同時に、レオーネ伯爵家に雇われた青年が届けてくれたのだろう。
 ダリオという名の青年だ。
 貴族の子息が学園に入学する際には、使用人を連れて行けるのだが、その為に雇ったわけではない。
 心配性のミゲルが、残されたフラヴィオのために頼んでくれたのだろう。

 ダリオはミゲルの古くからの友人であり、ミゲルとフラヴィオの仲を知っているようだ。
 そうでなければ、ミゲルからの手紙がフラヴィオのもとへ届くはずがないのだから――。

 療養中の楽しみである、ミゲルからの手紙を読み始める。
 重石など必要のないほど分厚い手紙には、学園でのことより、フラヴィオを心配する内容が大半だ。
 あたたかい手紙に頬が緩むフラヴィオだが、最後の一枚に目を通し、絶句した。


 ――学園では、フラヴィオは手のつけられない暴君であり、表には出すことの出来ない野蛮人だと噂されている。


 いくらミゲルが、根も葉もない噂だと否定しても誰も信じてくれない。
 それでも必ず噂を払拭しますと、力強い字で書かれていた。

(これは、困ったことになったな……)

 病に蝕まれているものの、いずれフラヴィオはレオーネ伯爵家の当主となる。
 悪評が立っては、今後フラヴィオが当主として動く際に支障が出てしまう。

 金を管理していたフローラが亡くなり、きっとフィリッポとミランダはやりたい放題だろう。
 領民のことなど考えていないことくらい、軟禁されている状態のフラヴィオでも、容易に想像ができていた。

 情報収集をする必要があると判断したフラヴィオは、まずは身近な者を味方につけようと動くことにした。



 ――翌朝。

 早速フラヴィオは、行動に出る。
 夕飯抜きだったフラヴィオは、薬を飲んでいないためか、そこまで体調は悪くない。
 それでも空腹には違いないが……。

 フラヴィオが起きていたことに驚いたメイドふたりだったが、いつものように掃除を始める。

「すまないが、机の引き出しからブローチを取ってくれないか? エメラルドのやつなんだが……」

 背の高い方のメイドに頼めば、目が泳いだ。
 いつもは頼み事などしないフラヴィオが、声をかけたからというわけではないだろう。
 瞬時にそのことを見抜いたフラヴィオだったが、笑顔でお願いする。

 彼女はどちらかといえば真面目な性格だろう。
 探せと言えば、探してくれるはず。
 そう判断したフラヴィオは、その場で固まっているメイドに視線を送り続けた。
 すると、同僚がなかなか動かないことに焦れた丸顔のメイドの方が、引き出しを開けて中を漁る。

「そんなもの、ありませんよ?」

「……おかしいな。もっとよく探してみてくれないか?」

「きちんと探しましたけど、見当たりません。私たちが働き出した時から、なかったと思いますよ?」

「いや、あのブローチだけは必ずあるはずだ」

 引き下がらないフラヴィオに、丸顔のメイドがふくれっ面をする。
 引き出しの中のものをすべて机に置き、これでどうだとばかりに仁王立ちしていた。
 困ったように首を傾げるフラヴィオは、そのブローチをとても大切にしていたことをアピールする。

 それでもないものはない。
 すでにどちらかが、換金しているのだろう。
 それをわかっていて、フラヴィオは悲壮感を漂わせ、笑って見せた。

「私の母上の形見なんだ」

「「っ…………」」

 さすがにまずいと察したのか、見る見るうちにふたりが青褪める。
 沈黙が流れたが、焦った丸顔のメイドが部屋中を探し始めた。
 彼女が必死な形相になっているのは、ありもしないブローチを探しているわけではなく、なんと言い訳をしようかと考えているのだろう。
 単なるお喋り好きのメイドだと思っていたが、その姿を観察するフラヴィオは、意外と賢い子だと思っていた。

 そして戻ってきた彼女が、震える口を開く。

「は、伯爵様が、以前、フラヴィオ様のお部屋に来たことがありました……」













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