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しおりを挟むレオーネ伯爵のせいにしたメイドは、瀕死状態の同僚に同意を求めていた。
(……そう来たか。狡賢い子だ)
彼女は、以前フラヴィオの父が部屋に来ていたとだけ話している。
フィリッポが盗んだ可能性があると匂わせているが、犯人とは言っていない。
それに、今のフラヴィオが父に文句を言ったところで、相手にされないことをわかっているのだ。
「そうか……」
小さく呟いたフラヴィオは、肩を落とす。
大切なものを無くし、取り返すことは無理だと、意気消沈しているように見えているだろう。
ようやく諦めたと思ったのか、ふたりの強張っていた表情が緩んだ。
「今度から、引き出しには鍵をかけた方が良いかもしれませんね?」
明らかにほっとしている丸顔のメイドは、話は終わりだとばかりにフラヴィオに背を向けた。
おそらく犯人であろう背の高いメイドは、ちらちらとフラヴィオを見ていたが、「朝食を……」と小声で話す。
さっさと仕事を終わらせて、逃げたがっていることが伝わって来る。
だがフラヴィオは、ここで引き下がるような男ではなかった。
「昔、約束していたんだ。学園で良い成績を収めたら、ミゲルにプレゼントするって……」
ミゲルの名前を出せば、ふたりが息を呑む。
「母上の宝石は他にも山程あるが……。それでもいいかと聞いてみる必要があるな? ミゲルはエメラルドがいいと話していたから、納得してくれるかはわからないが……」
山程ある、は真っ赤な嘘だ。
しかし、宝石の類があったのは事実だ。
死が迫っていることをわかっていたのか、フローラは資産を宝石にかえてフラヴィオに遺していた。
きっと遺産は、フィリッポに全て奪われると察していたのだろう。
黙り込むふたりに、フラヴィオは微笑を浮かべて追い打ちをかける。
「もうすぐ長期休暇だろう? ミゲルは賢い子だから、きっと学園でも良い成績を収めているはずだ。ミゲルが好みそうなものを選びたいから、用意してくれないか?」
「「…………」」
「あっ、そうだ。ふたりの意見も聞かせて欲しい。ミゲルを喜ばせたいからね?」
うきうきと、無邪気に笑って見せれば、もう限界だとばかりに背の高いメイドが平伏した。
「も、申し訳ございませんっ!! 私には兄妹がたくさんいて……。それで……っ。日々の生活のために、フラヴィオ様の大切な宝石を、売ってしまいましたっ。形見のブローチは、なんとかして取り戻します。私はどのような罰でも受けますっ、だから、家族だけは……っ」
――助かった。
母の宝石を根こそぎ奪われているのだが、フラヴィオは安堵していた。
メイドが白状するかは、一か八かの賭けだった。
なにせ証拠はなにひとつない。
彼女が白を切り通していれば、父に放置されているフラヴィオは、これ以上追求することができなかったのだから。
知性が足りないフィリッポだが、あれでも現レオーネ伯爵だ。
最悪の場合、メイドを窃盗犯に仕立て上げたと、フラヴィオが罰を与えられる可能性も頭にあった。
それに、メイドふたりが罪を隠蔽するために、フラヴィオに手をかける可能性も考えていた。
男性とはいえ、フラヴィオは心身ともに弱っている状態。
元気溌剌なふたりに羽交い締めにされた時、勝てる見込みは皆無。
そして仮にフラヴィオが死亡したとしても、この邸にいる者は悲しむどころか、喜ぶだけだ。
殺害されたとしても、病で亡くなったと偽られることになるとも考えていた。
「そうだったのか……」
フラヴィオの声色は、優しいものだった。
決して責めるつもりはない。
涙するメイドが真実を話しているかはわからないが、彼女にも事情があったらしい。
だからといって、盗みは許せないが……。
それでもフラヴィオは、彼女の顔を上げさせた。
「すまない。もし私が君の家庭環境を把握していたなら、もっと早くに宝石を渡していたのに……」
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