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しおりを挟むその後に運ばれて来たスープは、普段使用人たちが食べているものと同じものだった。
たくさんの野菜の切れ端が入った薄味のスープ。
貴族が口にするものではないのだが、フラヴィオに用意されるものは粗末なものが基本だ。
レオーネ伯爵夫人――フラヴィオの義母の命令なのだろうが、原因不明の病を患うフラヴィオにとっては、この薄味のスープがちょうどよかった。
「ふぅ。美味しい……。猫舌だから、ちょうどいいよ。ありがとう」
冷めたスープは嫌がらせのつもりなのだろう。
だが、空腹のフラヴィオにとっては、胃に入ればなんでもよかった。
粗末な食事に文句も言わず、むしろ感謝の言葉を告げるフラヴィオを見つめるふたりは、困惑した表情を隠しきれていない。
『私、時々思うんだけどさ。フラヴィオ様って、本当にミゲル様をいじめるような人なのかな……?』
『…………事実がどうであれ、私たちには関係のないことよ』
『やっぱりあなたも私と同じ気持ちだったのね?』
フラヴィオが後妻の息子を虐げていると話を聞いているであろうふたりが、コソコソと内緒話をしている。
特に気にした素振りを見せずに、フラヴィオはゆっくりとスープを口に含む。
監視するような視線を受けるフラヴィオは、ちらりと薬に視線を送る。
(私の体調が回復しないのは、やはりこの薬が原因なのだろうか……)
フラヴィオが薬を怪しむようになったのは、最近のことだ。
仕事を放棄しても注意されることがないとわかったふたりは、日に日に夕飯の用意を怠ることが多くなった。
おかげでフラヴィオは、薬を飲めない日が続いていたのだ。
医師に薬を多めに処方してもらおうと思っていたのだが、薬を飲んでいない日の方がフラヴィオの体調はマシになっていた。
「ご馳走様」
「「…………」」
ふたりが退出する様子は見られない。
朝だけでも、フラヴィオが薬を飲むところを見届けるつもりなのだろう。
スープを飲み終えたフラヴィオは、渋々ながらも薬に手を伸ばしていた。
監視されていると思っているフラヴィオだが、実際には普段同じものを食しているふたりが、美しい所作でスープを口にするフラヴィオに目を奪われていただけだった。
『歳下だけど素敵ッ。フラヴィオ様ならアリだわ? もちろん、病気が治ったらの話だけどっ』
『……はあ。本当に面食いなんだから。今はミゲル様がいないから大人しいだけで、顔を合わせたらなにをするかわからないでしょう?』
『そ、そうかもしれないけどさぁ~。いじめてるっていうより、ミゲル様がフラヴィオ様にゾッコンじゃ――イテッ』
薬を飲み終えたフラヴィオの近くに立つ背の高いメイドが、お喋り好きな丸顔のメイドに肘打ちをする。
『また明日』と告げたふたりの背を、フラヴィオは笑顔で見送った。
悪意のある噂は事実無根なのだが、異母弟のミゲルは学園に通うために寮に入っている。
長期休暇の時しか顔を合わせることはできず、会えるとしても深夜にこっそりと……。
今は誰もいないバルコニーを眺めるフラヴィオは、小さく笑みを溢した。
成長したミゲルは、かなり離れた距離にあるバルコニーから、命綱なしで飛んで現れるのだ。
最初は肝を冷やしていたフラヴィオだったが、ミゲルは余裕綽々だった。
随分とヤンチャに育ったものだと、フラヴィオは異母弟の成長ぶりに感心していた。
そこへ、重石を乗せた分厚い手紙が飛んでくる。
異母弟のこと思っていたフラヴィオのもとへ、ミゲルからの手紙が届いたのだ。
(っ……ミゲル)
手足の痺れを感じながら、なんとかバルコニーに出れば、隣の部屋に入っていく使用人の後ろ姿が見えた気がした。
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