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婚姻後
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しおりを挟む初めてのお出かけをすることになった私は、ジャスティンお祖父様に何度も着替えさせられていた。
「困ったな、全部似合うぞ」
「…………ふぐぅ」
(いちいち頬ずりをするのをやめたまえ)
まだ上手く話せない私は、孫をこれでもかと溺愛するお祖父様にされるがままになる。
髪も瞳もブラウンで平凡なのだが、これでも偉い人なのだ。
母上と屋敷を切り盛りする、有能な家令のセバスですら、逆らえない人だと聞いている。
そして使用人は、セバスには逆らってはいけないと話していた。
つまり、お祖父様はこの家のボスだ。
ただ、そんなボスにも弱みがある。
なにを隠そう、私の美人すぎる母上だ。
「リュセさん」と、唯一呼び捨てではない。
敬意を込めているのだ。
父上がいない時を狙って、母上とお茶をするのがボスの日頃の楽しみだ。
いつものように母上に助けを求めようとしたが、こちらは父上の着せ替え人形になっていた──。
本日は、知人の結婚式に参列するため、私たちは主役になってはいけない。
だがしかし。
傾国の美人である母上は、ボロ切れを纏っても隠しきれないオーラを放っているのだ。
「困ったな、全部似合う……」
「ふふっ。僕は、シュヴァリエ様とお揃いならなんだっていいのにっ」
「…………いくつになってもリュセが愛らしすぎて、本当に困ってしまう」
まったく困ってなどいない表情で告げた父上は、ひたすらだらしない顔をしているのだ。
そんな父上にうっとりと見惚れている母上は、可愛い系の私より色気のある美人だ。
そして二人が、熱い視線で見つめ合う。
……いつものやつが始まるぞ。
「シュヴァリエ様、大大大好きっ♡」
「っ、ああ、私もだ。愛してる、リュセ……」
甘い声で囁いた父上に顎クイをされて、とろんとした顔の母上が頬を赤らめる。
すぐに二人の世界に入る両親が、我が子の前でもチュッチュし始めた。
うむ。
向こうも時間がかかりそうだ。
助けを求めることを諦めた私──シオン・ライトニング。
とても聡い、二歳児だ。
漆黒の髪と黒い瞳が自慢。
自分で言うのもどうかと思うが、私は美人だ。
なにせ美人すぎる母上と瓜二つなんだ。
「お迎えにあがりました」
凛とした声の主が登場し、私の体はぴくりと反応する。
ラブラブな二人の目を覚ますように声を掛けたのは、母上の護衛を担当している美丈夫。
さっぱりとした白銀の髪は清潔感があり、室内でもキラキラしている。
軽い身のこなしができるスマートな体型で、素晴らしい肉体美を保持している。
そして、色気のある切れ長の目元が印象的だ。
髪色より濃く、青みがかった銀色の瞳は、この世で一番美しいと思う。
私の持つ神秘的な黒よりも。
その瞳に見つめられると、私も父上並みのだらしない顔を晒してしまうのだ。
私は、貴族としてはまだまだだ。
ようやくお祖父様からゴーサインが出た私は、そわそわしながらイケメンを見つめる。
すぐに私に気付いてくれるルドルフは、私の前でしゃがみ込んだ。
「るぅ……」
「シオン様。今日も素敵ですよ」
……今日も、って言ったぞ。
ということは、いつも私を素敵だと思ってくれているということだ。
つい鼻の下が伸びてしまう。
そんな無様な顔を晒してしまった私を、ルドルフは可愛いと抱きしめてくれるのだ。
(私のダメな面も愛してくれるルドルフは、世界一いい男なのだっ!!)
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