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婚約編
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しおりを挟む団長と女神の結婚式当日を迎えた俺たちは、途方に暮れていた。
片思いをしているお方に、普段よりかっこいい姿を見せると約束したにもかかわらず、普段通りの隊服を着たブサイク御一行だった。
「なあ、どうする?」
「……今更だろう。俺たちがかっこよくなるだなんて、最初から無理な話だったんだ」
小声で呟く俺──ランハート・スカイ。
スカイ侯爵家の三男で、家族からは見放されている存在だ。
それでも今日だけはと、侯爵家の使用人に髪結いをお願いしていたのだが、手が空いている人がいないからと、やんわりと拒否されてしまっていた。
スカイ侯爵家は全員結婚式に招待されているし、多忙なのはわかる。
でも実際には、ブサイクな俺に触れたくないだけだろう。
そんな俺と同じ理由で、式場に集合した第二騎士団のメンバーも、見事全員ボサボサ頭だった。
いつもリュセ様が、俺たちを『ドワーフ……じゃなくて、第一騎士団の人たちより素敵だよっ!』と会う度に褒めてくれていたから、少しだけ自信を持つことができていた。
でも実際には、狩猟大会では見直されたものの、ブサイクには違いなかった。
空はキリッと秋晴れに澄み上がっているのに、俺たちの表情は皆一様に曇っている。
「なにかあったの?」
「…………別に」
幼馴染みのシャールが話しかけてくるが、さっと顔を背けた。
きっと俺に向けられている黄緑色の瞳は、俺を心配してくれている。
俺と違って垂れた目元が印象的なシャールは、俺の友人であり、初恋の人。
そして俺の二番目の兄の婚約者だ。
ふたりの親が決めた婚約だから文句はなかったが、なぜ俺の兄さんなんだと、幼い頃は死にたくなるくらい辛かった。
でも二人の仲睦まじい姿を見続けているうちに、俺の淡い恋心も消え去っていた。
それに、今の俺はリュセ様が好きだ。
「こんな愛想のない奴はほっとけよ」
フンと鼻で笑った俺の兄、レオンハート。
めりこみそうなほどの低い鼻が自慢で、いつも第一騎士団でも美形メンバーとつるんでいる。
そして、ブサイクな俺を弟だと認めていない。
「なんでそんなこと言うの? ランハートはレオンの弟でしょう?」
「はあ~~。まぁたはじまった。ブサイク同士、お似合いだな?」
騒ぎに集まる人々が、俺たちを嘲笑う。
「っ、さすがレオンハート様ねっ!」
「俺たちは婚約者にそんな態度は取れないぜ」
兄のレオンハートは甘い顔立ちの美形だが、プライドが高い。
見下している俺が絡むと、相手が婚約者でも容赦ない言葉を放つのだ。
だが、そんなところもかっこいいと評判なのだから、この世は理不尽なことばかりだ。
それに……。
確かにシャールはそこまで美人ではないが、ブサイクじゃないと、俺は思う。
「……ああ、そう。じゃあお言葉に甘えてそうするよ」
普段は、大好きな婚約者に言い返すことなんて滅多にないシャールが、俺の腕を取った。
驚きすぎて固まる俺と、兄。
そして固唾を飲んで見守っていた仲間たちが、シャールの豹変ぶりに度肝を抜かれていた。
「行こうっ」
「っ、お、おい……」
「僕のことはなんとでも言っていいけど、ランハートの悪口だけは我慢出来なかった。ずっとムカムカしてたんだよねっ! 威張り腐りやがって。反省しろっ!」
リュセ様を真似して最近は大人しくなっていたのに、人前でも昔のようにめちゃくちゃ口が悪くなっている。
「それで? なんで落ち込んでたの? リュセ様が結婚するから……ってわけじゃないよね?」
俺の気持ちなんてお見通しの様子のシャールに、事情を話すまでは腕を離さないと脅迫される。
優しい口調なんだが、圧が凄いんだ。
仕方なく髪結いの話をすれば、無言になったシャールが、なぜか先程まで俺たちがいた場所に戻る。
「第二騎士団のメンバーはこれで全員?」
「は、はい……」
「それじゃあ、みんな僕に着いてきて。リュセ様に相談するから」
「へ!?!?」
「第二の人たちが困っている時は、どんな時でも報告するようにってリュセ様に言われてるの。今日も例外じゃないよ」
「「「っ……」」」
晴れの日まで俺たちのことを考えてくれていたのかと、感極まるブサイク集団が息を呑んだ。
「今日は大勢人が集まるから、特に心配していたみたい。みんな、羨ましいくらいにリュセ様に愛されてるよね?」
「っ、うぐっ、リュセ様ぁぁ~ッ!!」
「はいはい、まだ泣かないの」
俺以外のブサイクには目もくれなかったシャールが、今は兄に見せるような笑顔でにこにこと笑っていた。
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