62 / 100
婚約編
24
しおりを挟む今まで息を潜めて生活していた第二騎士団の巨人族が、私たちの前に立ちはだかる。
まさか狩猟大会に参加するとは思ってもみなかったが、最近調子に乗っている男が原因だろう。
第一騎士団の副団長を務める私──ワルモンド・クリプスと同じ爵位でありながら、落ちこぼれのシュヴァリエ・ライトニング。
騎士団で顔を合わせることはあれど、直視できない程の醜さだ。
富の象徴である肉体を得ることも出来ず、パーフェクトヒューマンである私と正反対の容姿。
前世でどれ程の悪行をしたのかと問いたくなるほどの醜男なのだが、不憫にも思っていた。
それなのに……。
「醜い巨人族が、神聖な黒を身につけるなどあってはならないことなのにっ!」
憤慨する私の視線の先には、第二騎士団員の左手首を彩る、黒紐で作られたお守り。
醜男たちそれぞれの瞳の色で、名前が編み込まれていた。
……なんて素晴らしい技術なんだ!!
一目見ただけで、想いのこもったお守りだということが判断出来る。
さすがは、サルース商会を国一番の大商会にまで成長させた貢献者である、秀才なリュセ様だ。
喉から手が出るほど欲しい。
それを新米の巨人族に自慢げに見せつけられて、はらわたが煮えくり返る。
「市販のお守りでも嬉しいのに、リュセ様の手作りだぜ? 最高だろっ」
「ああ! お守りを作っている時のリュセ様は、俺のことだけを考えながら作ってくれていたに違いないっ! 伴侶になれなくたって、幸せすぎるだろうっ!」
「……はぁ。想像しただけで顔が緩んじまう」
お守りを見せ合う巨人族は、もうすぐ狩猟大会が始まるというのに、だらしない顔を晒していた。
私の左手首に巻かれている真っ赤なお守りだって、超高級な紐で作られたものだ。
貰った時は嬉しかったはずなのに、どうしてか私は誰にも見えないように隠していた。
「予定変更だ! いいか。私は例年通りに兎を狩るが、お前たちは猪を狙え」
「っ、猪ですか……」
「そうだ。巨人族に負けるわけにはいかない。そして私の獲物は、リュセ様に捧げる」
難色を示していた部下たちが、息を呑んだ。
リュセ様と醜男が身分差の恋を実らせ、しかも容姿は、世界一の美人と底辺の醜男だ。
おかげで、常に社交界の中心であった私とサマンタの注目度が下がっている。
その状況を打破するべく、サマンタには他の恋人と別れさせ、私だけを愛することを誓わせた。
そのせいで、サマンタにかける金が、とんでもないことになっているが……。
羨望の眼差しを向けられる私たちの人気は、衰えてはいない。
ただ、甘え上手なサマンタを愛してはいるが、知性が足りない。
そんなところも愛らしいと思っていたのだが、リュセ様を目で追うようになってからは、サマンタが幼稚な子供にしか見えなくなっている。
なにより、美しすぎる私と目を合わせることが出来ないのか、リュセ様の恥じらう姿がとても魅力的なのだ。
最近の私は、あのお方を組み敷くことしか考えていなかった。
「猪がダメなら、兎を最低五羽仕留めるんだ。そうすれば、お前たちもリュセ様の伴侶にしてもらえるよう、話をしてやろうではないか」
「っ……ワルモンド様なら、リュセ様を落とせるかもしれない」
「た、確かに……。今の婚約者が醜男だから、余計に美しく見えるはずっ!」
「それに、優勝者の求愛を断る人なんて、この世にいないだろう。もう、捨て身で猪を狩るしかないっ!」
喜色を滲ませた瞳をする部下たちは、今年も私のために獲物を仕留めて献上するだろう。
だが、話をしてやるだけで、リュセ様を独占するのは、この私だ!!
余裕をかましていた私は、貼り出された十一位以下の集計結果を見て、唖然としていた。
「そんなっ、馬鹿なっ!! なぜ私が、三十一位なんだっ!!」
毎年上位に名を連ねていた第一騎士団全員の名前が貼り出されるという、前代未聞の結果。
つまり、上位十名は、全員第二騎士団員が占めていることになる。
見下していた醜男たちが次々と表彰されていき、全員がリュセ様に獲物を捧げる光景を眺めることしか出来ない私は、優勝者があの男でないことだけをただただ祈っていた。
273
あなたにおすすめの小説
【完結】流行りの悪役転生したけど、推しを甘やかして育てすぎた。
時々雨
BL
前世好きだったBL小説に流行りの悪役令息に転生した腐男子。今世、ルアネが周りの人間から好意を向けられて、僕は生で殿下とヒロインちゃん(男)のイチャイチャを見たいだけなのにどうしてこうなった!?
※表紙のイラストはたかだ。様
※エブリスタ、pixivにも掲載してます
◆この話のスピンオフ、兄達の話「偏屈な幼馴染み第二王子の愛が重すぎる!」もあります。そちらも気になったら覗いてみてください。
◆2部は色々落ち着いたら…書くと思います
田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?
下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。
そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。
アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。
公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。
アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。
一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。
これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。
小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。
麗しの眠り姫は義兄の腕で惰眠を貪る
黒木 鳴
BL
妖精のように愛らしく、深窓の姫君のように美しいセレナードのあだ名は「眠り姫」。学園祭で主役を演じたことが由来だが……皮肉にもそのあだ名はぴったりだった。公爵家の出と学年一位の学力、そしてなによりその美貌に周囲はいいように勘違いしているが、セレナードの中身はアホの子……もとい睡眠欲求高めの不思議ちゃん系(自由人なお子さま)。惰眠とおかしを貪りたいセレナードと、そんなセレナードが可愛くて仕方がない義兄のギルバート、なんやかんやで振り回される従兄のエリオットたちのお話し。完結しました!
ちっちゃな婚約者に婚約破棄されたので気が触れた振りをして近衛騎士に告白してみた
風
BL
第3王子の俺(5歳)を振ったのは同じく5歳の隣国のお姫様。
「だって、お義兄様の方がずっと素敵なんですもの!」
俺は彼女を応援しつつ、ここぞとばかりに片思いの相手、近衛騎士のナハトに告白するのだった……。
婚約者の王子様に愛人がいるらしいが、ペットを探すのに忙しいので放っておいてくれ。
フジミサヤ
BL
「君を愛することはできない」
可愛らしい平民の愛人を膝の上に抱え上げたこの国の第二王子サミュエルに宣言され、王子の婚約者だった公爵令息ノア・オルコットは、傷心のあまり学園を飛び出してしまった……というのが学園の生徒たちの認識である。
だがノアの本当の目的は、行方不明の自分のペット(魔王の側近だったらしい)の捜索だった。通りすがりの魔族に道を尋ねて目的地へ向かう途中、ノアは完璧な変装をしていたにも関わらず、何故かノアを追ってきたらしい王子サミュエルに捕まってしまう。
◇拙作「僕が勇者に殺された件。」に出てきたノアの話ですが、一応単体でも読めます。
◇テキトー設定。細かいツッコミはご容赦ください。見切り発車なので不定期更新となります。
狂わせたのは君なのに
一寸光陰
BL
ガベラは10歳の時に前世の記憶を思い出した。ここはゲームの世界で自分は悪役令息だということを。ゲームではガベラは主人公ランを悪漢を雇って襲わせ、そして断罪される。しかし、ガベラはそんなこと望んでいないし、罰せられるのも嫌である。なんとかしてこの運命を変えたい。その行動が彼を狂わすことになるとは知らずに。
完結保証
番外編あり
転生したけどやり直す前に終わった【加筆版】
リトルグラス
BL
人生を無気力に無意味に生きた、負け組男がナーロッパ的世界観に転生した。
転生モノ小説を読みながら「俺だってやり直せるなら、今度こそ頑張るのにな」と、思いながら最期を迎えた前世を思い出し「今度は人生を成功させる」と転生した男、アイザックは子供時代から努力を重ねた。
しかし、アイザックは成人の直前で家族を処刑され、平民落ちにされ、すべてを失った状態で追放された。
ろくなチートもなく、あるのは子供時代の努力の結果だけ。ともに追放された子ども達を抱えてアイザックは南の港町を目指す──
***
第11回BL小説大賞にエントリーするために修正と加筆を加え、作者のつぶやきは削除しました。(23'10'20)
**
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる