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婚約編

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 「お待たせ、ハニー。今年もさくっと終わらせて来たよ」

 人前にもかかわらず、ぶちゅーっと濃厚なキスをしたのは、一番乗りで帰って来たワルモンド様。
 黒地の隊服がはち切れんばかりの巨漢に口付けられたサマンタ様は、僕に見せつけるようにニタリと笑った。

 僕は見ているだけで気分が悪くなったけど、体重三桁カップルは、第一騎士団の人たちから持て囃されている。

 「ぬふふっ。聞いて驚きたまえ! 私は、兎を二十二羽も仕留めたんだっ! 今年の女神も、サマンタに決まりだよ」
 「さすがワルモンドッ! 心配して損したっ」
 「……心配?」

 シュヴァリエ様が、森の主を狩ると宣言していたから、不安だったと話したサマンタ様。
 ワルモンド様にしなだれかかって、つぶらな瞳をぱちぱちとさせているけど、チラリと僕を見て勝ち誇った顔をしてくる。

 「うむ。が張り切っていたが、兎の気配に気付いていなかったんだ。まったく、どうしようもない連中だよ。リュセ様には申し訳ないが……」

 サマンタ様の肩を抱くワルモンド様に、心から哀れに思っている表情を向けられる僕。

 兎の気配に気付いていなかったわけじゃなくて、最初から小物狙いじゃないんだ!
 きっと!

 調子に乗っていられるのも、今のうちだと思いながら、僕はにっこりと微笑む。

 「っ……グッ、息も出来ないほどに美しい……。ヴィーナスだ」
 「ちょっとワルモンド!?」
 「ゴホッ。んんん、わ、私は、サマンタのことを言ったんだよ?」

 こっそりと恋人の腹をぶん殴ったサマンタ様は、エルヴィス母様並みの怪力だった。
 さっきは言い負かしたけど、殴り合いになったら僕は確実に負けると思う。

 もう関わりたくないと思っているのに、少し早く戻って来たワルモンド様がお茶会に参加し始めた。

 しかもサマンタ様の隣だから、僕の真正面。
 燃えるような赤い瞳が、ずっと僕を見ている。

 サマンタ様に甘ったるい言葉をかけながら、僕にウィンクしてくるんだけど……。
 外見以前に、隣に恋人がいるのに、僕にアピールしてくるところが、正直すごく気持ち悪かった。



 「そろそろみんなが戻ってくるね? 迎えに行こうか」
 「そうだね、早く行こうっ!」
 「集計結果が待ち遠しいなぁ~」
 「ちょっと。まぁだ女神を狙っていたの? もう僕に決まったようなものなのにっ」

 みんなが恋人を迎えにテントを出て行くけど、ねっとりとした視線を浴び続けていた僕だけは、すぐに立ち上がれなかった。

 「リュセ様、大丈夫ですか?」
 「う、うん。ちょっと気分が悪くなっただけで」
 「…………医者を呼びましょう」
 「っ、いや、大丈夫──」

 さっとベアードさんに声をかけたシャール様が、ライトニング公爵家の医師を呼ぶように告げる。

 あまり大事にして、シュヴァリエ様に迷惑をかけたくない。
 僕は大丈夫だと言っていたけれど、医師がぞろぞろとテントに入って来る。
 
 さっきまでとは違い、神妙な面持ちのシャール様に耳打ちをされた僕は、ハッと顔を上げた。

 「今日が初対面ですし、言いづらいと思います。でも僕は、リュセ様とお友達になりたいと思っています」
 「っ……ありがとう。僕も、シャール様とお友達になりたいですっ」
 「でしたら、教えていただけますよね? 二人だけの秘密にしますから」

 そっと手を握られた僕は、可愛い顔で圧をかけてくるシャール様から、視線を逸らした。

 「シュ、シュヴァリエ様のお誕生日からだから……。二ヶ月くらい前から……………ま、毎日」
 「っ、絶倫?」
 「~~っ、そ、そんな可愛い顔で、卑猥なことを言わないでっ!」
 「ふふふっ。まだわかりませんが、診てもらいましょう。もしかすると、リュセ様もライトニング次期公爵様に、素敵な報告が出来るかもしれません」


 シュヴァリエ様との秘密を打ち明けて、顔が熱くなっていた僕だけど、平べったい腹をそっと撫でていた。








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