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婚約編
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しおりを挟む「長らくオルティス領を荒らし回っていた大熊を仕留めてくれたことに感謝する。……見直したぞ、シュヴァリエ」
フェデリコ・ミラジュー国王陛下が親しげに名を呼んだことにより、普段は大人しい巨人族が歓喜の雄叫びを上げる。
波乱の表彰式が始まった当初は、不正をしたのではないかと疑いの目を向けていた者たちも、今は惜しみない拍手を送ることとなっていた。
私の祈りも虚しく、狩猟大会は最悪の結末を迎えていた──。
お年を召しても見目麗しい国王陛下から、優勝トロフィーを受け取ったシュヴァリエ・ライトニングが、すっと顔を上げる。
長い白銀の髪を結っている長身の男は、かつてのように醜い顔を隠すことなく、しっかりと前を向いていた。
背筋を伸ばし、堂々とした振る舞いは、以前とは別人のように自信に満ち溢れている。
それに加えて……。
なんなのだ、あの髪型はっ!!
器用なリュセ様が直々に結ったからか、醜男がセクシーで男らしくキマっているように見えるではないかっ。
常に流行の最先端を行くのは、妖精代表である私、ワルモンド様だというのにっ!!
ぷるぷると震える私の隣では、サマンタが文句を垂れているが、今は宥める気にもならない。
「獲物を誰に捧げるかは、聞くまでもないか」
「はい。私の最愛の人に捧げます」
「そうか。そなたのポイントを加算せずとも、今年の女神は既に決まっておる」
国王陛下の視線の先には、上位二十名から獲物を捧げられた女神──リュセ様がいた。
どこか儚げに微笑むリュセ様が壇上に上がり、今年の女神としてティアラが贈呈される。
去年はサマンタが受け取った、ブラックダイヤモンドで作られた高級なティアラ。
赤髪に最も映えると思っていたが……。
リュセ様のために作られたものだと言われても、おかしくないと思うほど似合っていた。
「やっぱり女神はリュセ様でしたね!」
「うんっ。リュセ様なら納得だよ! 僕も来年からは手作りのお守りにしようっと」
「それに、あの素敵な衣装も真似したいっ! どこに売ってるんだろう? あとでリュセ様に教えてもらおうっ!」
子を宿すことのできる者たちが、きゃっきゃと騒いでいる。
狩猟大会で女神に選ばれたということは、今後彼らの中心人物になることを意味する。
リュセ様は、我々の間でもモテモテだったが、子を宿す者たちからの支持も得ていた。
「本当に素敵ですよね♡ あの衣装は、リュセ様の手作りだそうですよ?」
「っ、衣装まで手作りなの!?」
「これからは、リュセ様がファッションリーダーだね! あんなにカリスマ性があるお方は、今まで見たことないよ」
「~~~~っ、うるさいうるさいうるさいうるさーーーーいっ!!」
誰よりもデカい声で叫んだサマンタが、癇癪を起こす。
他の者たちに白けた目を向けられていることにも気付かずに、地団駄を踏む恋人の姿を、私は虚な目で眺めていた。
以前までなら日常的な光景だったが、今はげんなりとしてしまう。
「こんなのおかしいよッ!! 不正に決まってるッ!!」
真っ赤な顔になるサマンタを放置していると、とんでもないことを言い出した。
「ひとりで大熊を仕留めたなんて、信じられないっ!! 怪しすぎるっ!! きっと他の人たちに手伝ってもらったんだ!!」
「っ、おい、やめろっ!!」
国王陛下が認めているというのに、なんてことを言い出すんだ! このバカはっ。
それに、部下に手伝ってもらったのは、お前の隣にいるこの私だっ!!
「ちゃんと監視していたの!? 不正をしていないか、もう一度ちゃんと調査しなさいよぉぉ!!」
サマンタぁぁああああーーーーーー!!!!!!
「黙れっ!!!!」
私を陥れようとする大きな口を塞ごうとすると、ボディに強烈なパンチを三発食らう。
瀕死状態になっていると、すっと目を細めた国王陛下と視線が交わる。
かつて、一度として向けられたことのない冷たい目。
……すでに私の不正に気付いていらっしゃる。
その隣にいる醜男は、いつも私があの男に向けていた、哀れむような目で私を見下ろしていた。
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