婚活パーティーで、国一番の美貌の持ち主と両想いだと発覚したのだが、なにかの間違いか?

ぽんちゃん

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婚約編

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 「ココガ、ワタシノヘヤダ」


 寝室から繋がるもう一つの部屋に入室すると、ロボットがプログラム通りに説明する声が響いた。

 無駄なものが一切ない、シックで洗練された部屋は、僕の憧れのお方の私室。
 今まで誰も部屋に招いたことがないらしく、僕が初めてのお客様だ。
 感動する場面なのに、唇が気になって仕方がない僕は、ただ口をはくはくとさせていた。

 「リュセ」
 「っ、は、はいっ!」
 「…………婚姻前だというのに、その……すまなかった」

 我慢出来ずに、と小さな声が聞こえて、僕はぶんぶんと首を横に振る。
 とにかく恥ずかしがる僕たちは、隣に立ってはいるけれど、壁に向かって話していた。

 「そろそろ、戻ろうか」
 「……はい」
 「き、今日から、ここで過ごすか?」
 「っ、い、いえ、今日はちょっと……」

 そうか、と明らかに落ち込む声がする。
 隣を見れば、僕に背を向けているシュヴァリエ様がいて、見えない尻尾が下がっている。

 「やはり、気分を害したか?」
 「っ、違います! 今夜は、両親と過ごす約束をしているので……。あ、明日から、シュヴァリエ様と一緒に過ごしたいですっ」

 パッと振り返ったシュヴァリエ様と目が合い、熱くなる顔を隠したい僕は、逞しい腕にしがみついていた。

 シュヴァリエ様が、僕への気持ちを伝えてくれるようになっているけど、今も自分に自信がないことを知っている。
 それなのに、誤解させるような発言をしてしまったことを、後悔していた。

 無言で歩き出す僕たちは、ぴったりと密着しているのにすごくぎこちない。
 本当なら、恥ずかしすぎて距離を置きたいのだけど、誤解されたくない。

 だって初めてキスができて、僕はすごく嬉しかったから……。

 僕はエルヴィス母様となら、キス(頬だし、一方的にされるがまま)の経験がある。
 でも僕以外と触れ合うことのないシュヴァリエ様は、両親ともキスをしたことがない。
 キスどころか、手を繋いだことすらないんだ。

 シュヴァリエ様の初めての相手は、すべて僕だ。
 手を繋いだり、抱き合ったり……。
 全部、僕からだった。

 だからキスをするなら、僕がリードするんだと勝手に思っていた。

 それなのに、シュヴァリエ様の方からしてくれたんだ。
 しかも『我慢出来ずに──』って、言っていた。
 つまりシュヴァリエ様は、僕とキスがしたいと思ってくれていたんだ。

 ……控えめに言って、最高じゃない?

 状況を整理していると、今になって感動がじわじわと込み上げてくる。
 僕は抱きつく力が強くなるけど、シュヴァリエ様はロボットに逆戻りしていた。





 「早かったな」

 談話室に戻れば、保護者三人が生暖かい目で僕たちを見てくる。
 ぎこちない僕たちを見ただけで、なにがあったのかを察しているような気がするのは、僕の気のせいだろうか……?

 僕が大人しく席に着くと、ジャスティン様が部屋は気に入ったかと声をかけてくれる。

 「普段はシュヴァリエと会話をすることがなかったんだが、リュセさんのおかげで話す機会が増えたんだ」
 「……そうだったんですか?」
 「ああ。リュセさんはどんなものが気にいるだろうかと、何度も相談に来ていたぞ?」

 そう言って、エルヴィス母様に絡まれてたじたじになっているシュヴァリエ様を、愛おしそうに見つめていた。
 
 心から感謝していると頭を下げたジャスティン様に、僕は驚愕に目を見開いた。
 いくら未来のお義父様だったとしても、彼はライトニング公爵だ。
 慌てて顔を上げてもらい、互いに感謝の言葉を言い合う。
 涙ぐむ僕たちは自然と立ち上がり、熱い抱擁を交わしていた。

 「……父上」

 僕たちをさりげなく引き剥がした人は、実のお父様に冷たい目を向けていた。
 「おお、怖いっ」と、わざとらしく体を震わせたジャスティン様は、すごく楽しそうだ。
 ふたりの親子関係も良好になったことを知った僕は、心から嬉しく思っていた。






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