婚活パーティーで、国一番の美貌の持ち主と両想いだと発覚したのだが、なにかの間違いか?

ぽんちゃん

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婚約編

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 僕の質問が聞こえていなかったのか、シュヴァリエ様はずんずんと歩いていく。
 そして次に案内されたのは、公爵夫人の部屋。
 つまり、いずれ僕が使用する部屋だ。

 クリーム色の壁があたたかな印象を与えてくれる室内には、ダークブラウンで統一された家具が用意されていた。
 シュヴァリエ様のセンスが光る、お洒落で心を穏やかにしてくれるコーディネートだ。
 一目見た瞬間に、僕の好みを把握してくれていることがわかった。

 「気に入ってもらえたか……?」
 「もちろんです!」
 「……遠慮しなくていいからな? 使い勝手が悪かったり、足りないものがあればすぐに用意するから、その都度教えてほしい」

 完璧なインテリアコーディネートをしたお方が、不安げに僕を見つめている。
 僕はゴージャスなものより、落ち着きのある色味の物の方が好き。
 なにより、ライトニング公爵邸に僕の部屋があるってだけで満足なんだ。

 「どれも、僕にはもったいないくらいの素敵な家具だし、なによりシュヴァリエ様が、僕のために選んでくれたことが嬉しいですっ」
 「っ……リュセは謙虚すぎる。もっと我儘を言ってくれてもいいのに……」

 もし僕が気に入らなければ、家具を総入れ替えするつもりでいたらしいシュヴァリエ様。

 優しすぎるし、どれだけ僕に甘いんだっ!

 「そんなことないですよ? なにせ僕は、シュヴァリエ様を独り占めしたいって、みんなの前で宣言したんですから! 充分、我儘な子だと思いますよ?」

 にっこりと微笑みかけたけど、シュヴァリエ様は僕から顔を逸らした。
 手で口元を隠して、長い長い溜め息を吐く。

 「シュヴァリエ様?」
 「…………少し待って」
 
 余裕のない声で返事をしたシュヴァリエ様は、きっと照れているのだと思う。
 可愛いと悶える僕は、空いている腕に絡みつく。
 いちいち全身で愛情表現をするうざい僕だけど、逞しい体は歓喜に震えていた。

 「あっ。そういえば、ベッドがない?」
 「…………寝室は別にある」
 「そうなんですね! 早く見たいです!」
 「っ、今、見るのか? この状態で……?」

 ソワソワし始めたシュヴァリエ様が「夜だぞ?」と、なぜか時間帯を教えてくれる。
 
 「朝ならいいんですか? ……寝室なのに?」

 不思議に思ってこてりと首を傾げると、ぐっとおかしな声を発したシュヴァリエ様が項垂れる。
 
 「行こうか」と声をかけてくれたけど、どうしてか足取りは重い。

 そして室内にある扉を開けると、お姫様が使用するような天蓋が目を惹く、大きな寝台があった。
 どれだけ寝相が悪くても安心だ。
 
 「す、すごいっ。こんな素敵な寝台、初めて見ました! でも、大きすぎません?」

 今日集まっている五人が寝ても、平気そうなくらい広くてふかふかな寝台に腰掛ける僕を、なぜか遠くから無言で見つめるシュヴァリエ様。

 僕のために特注してくれたのだろうか?
 それとも、ミラジュー王国では普通なのかな?

 それに、この寝台を作った職人さんも凄いと思うし、どうやって搬入したのだろう?
 疑問に思うことがいっぱいだ。

 なにより……。

 「一体、何人で寝るつもりなんだろう……?」
 「っ、ふ、二人に決まっているだろう!?」
 
 ようやく僕の独り言に答えてくれたと思ったら、真っ赤な顔で即答したシュヴァリエ様と目が合った。

 ずんずんと寝台に腰掛けている僕に歩み寄るシュヴァリエ様は、僕の肩を掴んだ。

 「リュセは、私だけを愛してくれるんじゃないのか?」
 「……へ? もちろんそうですけど? 今更、なんの確認……っ」

 美しすぎるお顔のドアップに、心臓が跳ねる。
 それでもシュヴァリエ様が泣きそうになっている気がして、僕は息を呑んだ。

 「ここは、夫婦の寝室だ」
 「っ……僕だけ、じゃなくて……シュヴァリエ様と……?」

 瞬時によからぬ想像をしてしまう僕は、ぼふっと顔から火が出そうになる。
 そんな僕をじっと見ていたシュヴァリエ様は、安堵するように息を吐いていた。

 熱っぽい瞳が、恥じる僕にゆっくりと迫る。
 思わず顎を引いてしまうけど、静かに唇が重なった。

 そして、触れただけの熱はすぐに離れていく──。


 初めてのキスは、互いに目を開けたままだった。









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