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婚約編

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 「第二騎士団に入隊予定の方々と、お友だちになりました!」
 「そうか……。みんなも喜んでいただろう」
 「俺たちも、リュセと同級生だったらよかったな? リュセは俺たちの自慢の息子だ」

 着替えを済ませたリュセと、談話室で語らう。
 ダンスパーティーでのことを、楽しそうに報告するリュセを見ているだけで、私たちは幸せな気持ちになっていた。

 「だが、無理をしなくてもいいんだよ?」

 私たちの間に座っているリュセが、きょとんとした顔で首を傾げていた。

 共に過ごした三年で、リュセの性格はわかっている。
 自ら話しかけるようなタイプではないし、他の子を宿すことができる者たちとは違い、目立ちたがり屋なわけでもない。

 それでも今日。
 壁の花になっていた人々に話しかけたのは、美醜の感覚が逆転していることを知り、シュヴァリエ様や私たちのような者の心を、救おうとしてくれたのだろう。

 気遣いのできるリュセをとても好ましく思うが、無理をしているのではないかと心配にもなる。
 そう思って話してみたが、リュセは笑顔で首を横に振った。

 「僕が話しかけることで、楽しい思い出になったらいいな……とは思っていました。でも、彼らが第二騎士団に入隊するなら、いずれはシュヴァリエ様の部下になるんです。僕は、シュヴァリエ様の伴侶として行動しただけですよ? 今の僕に出来ることは、それくらいしか思いつかなくて……」
 「っ……そこまで考えていたのか。シュヴァリエ様にも聞かせたかったな?」

 すでに公爵夫人になる心構えをしていたリュセに、私たちは瞠目した。
 嫁に行かなくても、リュセには商会を譲るつもりでいたため、無理に教育をしたことはなかった。
 それなのに、リュセは自分なりに将来のことをしっかりと考えていた。

 それも、異世界ではなく、この国で──。

 感動するエルヴィスなんて、リュセの頬にちゅっちゅしまくっている。

 「ま、まだ、シュヴァリエ様にもされたことがないのにぃ~ッ!!」
 「クククッ。明日自慢しておくからな? シュヴァリエ様を焚き付けておかないと」
 「っ、やめてくださいッ! 僕の心臓が止まったらどうするんです!?!? 母様にキスされただけでもドキドキするのに……っ」

 母様だってわかっているのに! と頬を押さえるリュセは、ぶんぶんと首を横に振っている。
 照れているリュセが愛らしすぎて、私もエルヴィスも真顔で悶えていた。

 「…………ダメだ。可愛すぎる。やっぱり嫁に出すのはヤメだっ!!!!」
 「っ、えええええ~~~~!?!? あんなにシュヴァリエ様と結ばれてほしいって言ってたのに、今更ですかっ!?」
 「あの男は、今日から俺のライバルだっ!!」

 冗談を言ってふざけるエルヴィスだが、ラベンダー色の瞳は、若干本気の目をしている。
 親バカすぎて笑ってしまった。

 だが、私たちが大口を開けて笑えるのは、リュセの前でだけだ。
 リュセを息子に迎えてから、私もエルヴィスも、腹の底から笑うことが増えていた。
 
 いくら私たちがリュセを手放したくないと思っていたとしても、嫁入りの準備は着々と進んでいる。
 学園を卒業後は、すぐにライトニング公爵家での生活が始まるだろう。
 なにせ、ライトニング公爵家の親子も、リュセを絶対に手放すまいと必死なのだ。

 特に、ジャスティンがリュセを気に入っている。
 リュセは身分差を気にしていたが、公爵家に嫁いだとしても、今と然程変わらない高待遇だろう。

 我が家に帰りたいと思わないかもしれないと、しんみりしていると、リュセが「そういえば!」と手を叩いた。

 「今日パーティーに出席して思ったんですけど、派手さを抑えた品のある物があってもいいんじゃないかと──」

 そう言って、サルース商会で夜会用のブローチを販売したらどうかと提案するリュセ。
 今後嫁いでも、商会のことに関わる気満々のリュセを見た私たちは、声を失った。
 「ダメでしたか……?」と、理解が追いついていないリュセを、私たちはただひたすら抱きしめ続けていた。












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