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婚約編
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しおりを挟むどこぞの王宮かと思う程の壮大なお屋敷は、初めて訪れたライトニング公爵邸。
僕の卒業を祝うためだけに、邸内は華やかに飾り付けられていた。
「卒業おめでとう」
魅惑的な声で乾杯の挨拶をしたシュヴァリエ様と、僕は笑顔でグラスを軽く合わせる。
ダンスパーティーの際に着ていた、純白のキラキラ衣装が似合う、王子様のような僕の婚約者様だ。
僕が毎日着てほしいとおねだりしていたからか、今日は特別にもう一度王子様になってくれていた。
「ありがとうございますっ!」
「異世界から来たというのに、首席で卒業だなんて大したものだ。ちなみに、私も学生時代はずっと首席だったぞ? モブ顔だけどな」
わざわざ駆けつけてくださったジャスティン様が、自慢げにふっと笑う。
最近「モブ」を使いたがる、ちょっとお茶目な未来のお義父様だ。
そんな彼の隣では、僕の両親が遠慮なく豪華な料理を頬張っている。
二人はジャスティン様と学園の同級生だったようで、古くからの友人らしい。
美意識の高いミラジュー王国だけど、ジャスティン様は僕の両親とも仲良くしていたそうだ。
シュヴァリエ様はもちろん大好きだけど、僕はそんなジャスティン様のことも、大大大好きだ。
「シュヴァリエ様との婚約が決まっても、リュセは大人気だったな? さすが俺たちの自慢の息子だぜっ!」
『自慢の息子』が口癖になっているエルヴィス母様が、ニッと笑った。
今日は僕がプレゼントした髪飾りをつけてくれており、お姫様みたいに綺麗だ。
本日、僕は学園の卒業式を迎えていた。
なんとか答辞を読み終えた僕は、学生たちから盛大な拍手を送ってもらった。
大したことは言えなかったのだけど、「リュセ様ぁ~ッ!!」と、僕の名を呼ぶ声も聞こえてきた。
すごく野太い声だった。
嬉しくて僕が笑顔になると、みんなが大興奮してしまって、静かになるまでちょっぴり大変だったけど……。
それはそれで、いい思い出になったと思う。
グラスを置いた僕は、ニコニコと笑みを浮かべている両親に視線を向けた。
「オースティン父様、エルヴィス母様」
「ん? どうした?」
「二人のおかげで、無事に学園を卒業することができました。普段はなかなか伝えることができなかったけど、言葉にできないほど感謝しています。異世界人の僕をあたたかく迎えてくれて、ずっと支えてくれて、本当にありがとうございましたっ」
心からの感謝の気持ちを伝えた僕が頭を下げると、二人が息を呑んだ。
「リュセ……」
「っ……急になんなんだよ、もうっ。泣かせるなよぉ~~!!!!」
ずっと我慢していたのに! と叫んだエルヴィス母様が泣き始める。
母様の背を撫でるオースティン父様だけど、優しく微笑みながら涙を流していた。
ふたりにつられる僕も涙ぐむと、ジャスティン様までも目頭を押さえ始めて、お祝いの席なのにみんなして泣いていた。
それから、ハンカチで僕の涙を拭ってくれたシュヴァリエ様に手を引かれて、席を立つ。
「階段は、もう怖くはない?」
「はい。シュヴァリエ様と一緒なら……」
「っ……そうか、よかった」
嬉しそうに口元を緩めたシュヴァリエ様が歩き出し、僕は長い階段をのぼっていた。
どこに行くのだろうと思いながら、ちらりと隣を見上げれば、初めて階段を登った赤子を見るかのように心配しているシュヴァリエ様と目が合った。
恐怖は感じなかったけど「無理はしないように」と、声をかけてくれる。
優しい言葉が嬉しくて、僕はゆっくりと階段をのぼるシュヴァリエ様の腕にぎゅっと抱きつく。
すると、急にお姫様抱っこされていた。
成人男性を軽々と横抱きにし、ささっと階段を駆け上がるシュヴァリエ様。
「大丈夫か?」
「っ…………だ、大丈夫では、ありませんっ」
格好よすぎて眩暈がしていますっ!
「念のため、以前リュセが話していた、エレベーターも用意してある」
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