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リュセ
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しおりを挟むシュヴァリエ様がかつて婚約していたことを初めて知った僕は、ひとり別の世界へと飛んでいた。
シュヴァリエ様は、現在二十八歳。
それに、ライトニング公爵家の跡取りなんだ。
過去に婚約者がいてもおかしくない。
それでも、どんなお相手だったのかが気になって仕方がなかった。
……比べられたりするのかな?
明らかにしゅんとしてしまった僕を見たジャスティン様が言葉を失い、僕の両親から殺気を向けられていた。
身分差をまったく気にしていないエルヴィス母様なんて、今にも胸ぐらを掴みそうな勢いだ。
「隠していたわけではないのだが……。婚約する前に、伝えるべきだった」
「いいえ、知れてよかったです」
謝罪しようとしたシュヴァリエ様に、僕はなんとか笑みを作る。
でも作り笑顔だと見抜かれたのか、シュヴァリエ様の表情は固かった。
「……嫌になったか?」
「っ、そんなことありませんっ。ただ、少し不安になっただけです」
「っ……不安にさせてしまってすまない。だが、安心してほしい。屋敷の出入りも禁じているし、リュセのことは私が守るから」
凄腕剣士のシュヴァリエ様は、僕になにかあったら相手を叩き斬る勢いだ。
めちゃくちゃ頼もしいし、なにより格好いい。
でも、僕が不安に思っているのは、そういうことじゃないんだ。
元婚約者がシュヴァリエ様に接触しようとしている、イコール、今も独身なんだ。
せっかくシュヴァリエ様と両想いになったのに、恋のライバルになる確率が高い。
下手したら、シュヴァリエ様自身が、僕よりその人を選ぶ可能性も、なきにしもあらず。
婚約者になったから、そんなことにはならないと思うけど、未来は誰にもわからない……。
「護衛がいては自由がないかもしれないが、私がいない時は必ずリュセを守るように──」
「そ、そうではなくて……っ!」
言いづらくてもごもごする僕は、シュヴァリエ様を手招きする。
身を屈めた瞬間に、さりげなくサラサラヘアーに触れる僕は、耳元に口を寄せた。
「シュヴァリエ様が……元婚約者のお方を、好きだったのかな……って」
「っ、」
しばらく硬直していたシュヴァリエ様は、不安でたまらない僕の顔を見て、なぜかへろへろとしゃがみこんでしまった。
耳が真っ赤になっている。
でもすぐに立ち上がり、今度は僕に内緒話をするように近付いてきて、花畑にいるような香りに僕の頬はじわりと熱くなる。
「とても恥ずかしいことなのだが……。この歳になって、初めて恋をした。私の初恋は、リュセだ」
「~~っ。ぅぅっ、どんなご褒美ッ! 僕も、初恋はシュヴァリエ様ですっ!」
興奮する僕は、みんなに聞こえる声で話してしまい、内緒話をしている意味がなかった。
でも、窒息しかけているくらいに顔を赤らめるシュヴァリエ様を拝めたから、声を大にしてよかったと思う。
ちなみに、そんな僕たちを無言で見ていたジャスティン様は、心持ち濡れたような目でハンカチを握りしめていた。
「元婚約者とのことは、私の記憶から抹消したい出来事のひとつだったんだ」
そう告げたシュヴァリエ様は、誰の目から見ても本気で嫌そうな表情を浮かべていた。
「私がお茶会を開いた際に、珍しく会いたいと言われたんだ。……というより押しかけてきた。ライトニング公爵家と懇意にしたい同世代の子息たちを見た元婚約者は、すぐにアピールを始めたんだ。私を利用するだけ利用して、乗り換えようとする相手だ。いくら政略結婚とはいえ、好意なんて抱けるわけがないんだ」
「っ、そんなっ。だって、シュヴァリエ様がいるのに他の人にアピールしたら……」
シュヴァリエ様の立場がないじゃないか。
そう言おうとしたけど、辛い過去を蒸し返させてしまったことを後悔する僕は、口をつぐんだ。
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